真逆のふたり? 講談社絵本新人賞 受賞作家が語る、入賞への道すじとは

応募のきっかけから制作秘話まで! 伊佐久美さん&玉田美知子さん特別インタビュー・前編

幼児図書編集部

左・伊佐久美さん『おおきくなったリス』より/右・玉田美知子さん『ぎょうざが いなくなり さがしています』より
1979年に創設され、現在では絵本作家の登竜門として知られている、「講談社絵本新人賞」(以下、「絵本新人賞」とも)。

出版経験のない人のみが応募資格を持つこの賞ですが、最高賞である「新人賞」に選ばれた作品は、単行本となって刊行され、受賞者は絵本作家としてデビューします。

数百にもおよぶ応募作品の頂点に立った絵本の作者には、そこにいたるまで、どんないきさつがあったのでしょうか。

2023年8月に絵本を刊行されたばかりのおふたり、​​第42回(2021年)講談社絵本新人賞受賞作家・伊佐久美さんと、第43回(2022年)講談社絵本新人賞受賞作家・玉田美知子さんに、貴重なお話をうかがいました。前後編でお送りします。

絵本作家への、はじめの一歩

『おおきくなったリス』より
──まず、絵本を描こうとしたきっかけはなんだったのでしょう?

伊佐久美さん(以下、伊佐さん):これまでダンスと、ぬいぐるみの制作と販売を頑張ってきたのですが、五十肩と腱鞘炎になってどちらもできなくなってしまいました。

でも、どうしても何か打ち込むものがほしくて、いろいろ試していたら、絵を描くことはできるとわかりました。そんなとき、好きな漫画家さんの「描いたものはどんどん出したほうがいいよ」というSNSの投稿を思い出して、コンクールに応募しよう!と描いてみることにしました。

玉田美知子さん(以下、玉田さん):私のほうは、子育てが少し落ち着いて、自分の時間ができたことがきっかけです。今まで何度か描こうと挑戦してきたのですが、本気で頑張ろうと学び始めたのが5年前のことです。

──はじめて描いた絵本作品はどんなものでしたか?

玉田さん:浪人時代、美術予備校の文化祭に出展するため、はじめて手製本で絵本を作りました。イシュトバン・バンニャイの『zoom』という絵本(鶏のとさかのアップから宇宙までズームアウトしていく、文字のない絵本)をみて、私もこういう絵本が作りたいと意気込んで、自分の絵柄で同じ手法で作ってみましたが、全然うまく描けず製本もぐちゃぐちゃでした。

文化祭の最後に生徒間で好きな作品に投票するのですが、それでも2票獲得し、とても嬉しかったのを覚えています。

伊佐さん:絵本新人賞に応募した 『タコとだいこん』です。タコが夜、だいこんを盗みにいく話です。

講談社絵本新人賞との出会い

──伊佐さんははじめて描いた作品が受賞し、その後、絵本となって出版されたのですね。では、絵本新人賞に応募しようと思ったのはなぜでしょうか。

伊佐さん:コンクールへの応募を決めたとき、インターネットで検索してみたら出てきたので。本当はポスターとか、イラストとか、そういったものを探していたのですが、講談社絵本新人賞に行き当たりました。

また、選考委員の先生のなかに木坂 涼先生の名前があったので、「もしかしたら、私が描いた絵本を直接みてもらえるかもしれない」と思ったのも大きな理由です。木坂先生の詩が好きなのです。まさか、後々お会いできるとは思いませんでした!

玉田さん:私のきっかけは、当時通っていた絵本教室で、講談社の編集者さんの講義を受けた際に、応募用紙をいただいたことです。それに加えて、絵本教室の同期の方の受賞で、応募のモチベーションも上がっていました。

──どなたが同期だったのですか?

玉田さん:第41回(2019年)講談社絵本新人賞の受賞者・渡辺陽子さんです。渡辺さんから直々に絵本新人賞を受賞したとうかがったのは、教室帰りの電車の中。公共の場にもかかわらず、思わず大声を上げてしまいました。

渡辺さんのご活躍がとても眩しく、遠い世界の話だと思っていたことが急に身近に思えて、私も頑張るぞ!と気合を入れた2019年の秋でした。
玉田さんの絵本教室の同期、渡辺陽子さんの受賞作『にんじゃいぬタロー』。
──絵本新人賞にはじめて応募したのはいつですか?

伊佐さん:2021年です。

玉田さん:2021年に応募しました。

──おふたりとも同じ年に応募されたのですね! 伊佐さんはこの年に新人賞を受賞。玉田さんはこの年に佳作を、翌年に新人賞を受賞されましたが、それまでに苦労したことや努力したことなどはありましたか?

玉田さん:まず、絵本教室に通って、絵本の基礎を学びました。有名作家さんが惜しげもなく自身の技術を教えてくださったり、編集者さんが丁寧に絵本のラフにアドバイスをくださって、本当に有意義な時間でした。学ぶことがとても楽しく、授業は全て出席して、課題も全部提出したと思います。絵本教室の卒業制作で作った作品を、ピンポイント絵本コンペに応募したところ、入選をいただくことができました。

その後、オンラインで受講できるという、絵本のワークショップに参加し、ここでブラッシュアップしながら作った作品が、第42回(2021年)講談社絵本新人賞佳作を受賞しました。翌年の第43回(2022年)講談社絵本新人賞をいただいた『まよいぎょうざ』も、受講時に作ったものです。

伊佐さん:すみません。苦労も努力もありませんでした。ただひたすら楽しく描きました。

──伊佐さん、絵本新人賞受賞作の『タコとだいこん』は、どんな過程を経てできた作品なんですか?

伊佐さん:本当は「ネコとおじさん」を描きたかったのです。でも構成を考え始めてみると、文章はうまく決まらないし、ネコもおじさんも描けないし。で、どうしようかな~?と考えているうちに、西丸震哉さんの本に出てきた大根を盗むタコの伝説を思い出して、晩酌をしながらミニラフを描いてみたら、すっきりまとまったのでした。

ちなみに2冊めの『おおきくなったリス』の場合も同じです。ふたたび「ネコとおじさん」に挑戦していたはずが、いつの間にかおじさんが消え、ネコはリスになり、リスが巨大化して出来上がったのです。……どちらの絵本も、はじまりは「ネコとおじさん」だったのでした。

──玉田さんの絵本新人賞受賞作の『まよいぎょうざ』(※絵本刊行時、『ぎょうざが いなくなり さがしています』にタイトルを変更)は、「ぎょうざが いなくなり さがしています」という町内放送が流れるところから始まります。それを聞いた主人公のとしお君が、どうしてぎょうざがいなくなったのかを、考え始めるストーリーですが、どんなふうにできましたか?

玉田さん:この物語を思いついたきっかけは、私の住んでいる地域で日々放送されている、さまざまなお知らせを聞いたことでした。ぎょうざを主人公にした理由は、どんな内容にしようか考えているとき、食卓に餃子があったからだったと記憶しています。

晴れて絵本新人賞を受賞! そしてはじめての絵本出版へ…

『ぎょうざが いなくなり さがしています』より
──絵本新人賞では、受賞作品が決まってすぐ、編集者が受賞者へ電話をかけます。受賞の知らせを受けたとき、どんなことを感じましたか?

伊佐さん:絶対にサギだと思いました。「これから賞金を振り込むからATMに行ってください」と言われると思って身構えていましたが、一向にそういう話にならないし、電話の向こうの女性の話し方がとてもかわいらしいので、こんな人がサギ集団でやっていけるんだろうか?と心配になってきて(余計なお世話ですよね)、もしかして本物なのかも?と動揺しました。

──(笑)。玉田さんはどうでしょうか。

玉田さん:勝手に受賞の連絡がくる日を予想していたので、その日が過ぎて激しく落ち込んでいるときに受賞のお電話をいただきました。我が家の電波が悪いため、声が聞き取りにくく、「電波が悪くてすみません! 泣きそうです!」とずっとくり返し叫んでいました。

電話を切ったあとに冷静になって、ところどころ途切れた音声のなかで、佳作か新人賞かを確認し忘れたことに気づき、そもそも本当に講談社からの連絡だったのかすら不安になってきて、ウェブサイトで結果が発表されるまでは半信半疑でした。本当に夢のなかのできごとのようでした。

──その後、絵本新人賞の贈呈式がとりおこなわれ、選考委員の先生と話す機会があったかと思います。何か心に残っていることはありますか?

伊佐さん:木坂涼先生と松成真理子先生が、タコが月を見ている絵を見ながら「この下手さがいいよね~」「このままがいいよ」とおっしゃったことです。

「下手でもこのままでいいんだ!」と開き直るきっかけを与えてくださいました。

──玉田さんは、伊佐さんが絵本新人賞を受賞した年に佳作をとり、その翌年の、新たに苅田澄子先生、北見葉胡先生、藤本ともひこ先生、三浦太郎先生が選考委員となった回で、絵本新人賞を受賞されましたね。

玉田さん:いただいたアドバイスはすべてメモして、出版された絵本にはそれがたくさん反映されています。

また、直接かけられた言葉ではないのですが、佳作の年に、松成真理子先生が「ちょっとだけ休んで、続けていくこと。たぶんそれが創作のコツです」と選評を書かれていて、心に残っています。このお言葉を胸に、次の年もがんばって創作を続けることができました。

──おふたりの受賞作は、それぞれ大変なブラッシュアップ作業を経て、絵本として出版されました。実際に本になったときの感想はどうだったでしょうか?

伊佐さん:できあがって届いた本は、 ピカピカして硬くて重たいなあ、と思いました。それまで、編集者さんとやりとりしていた校正紙には、硬い表紙がついていなかったので……。

玉田さん:いまだにこの状況を冷静に判断できていません。冷静になったら頭がショートしてしまいそうなほどです。

自分で描いた絵本が書店に並ぶなんて信じられないし、どなたかが私の絵本を購入しているところに遭遇したら、きっと感極まって泣いてしまうと思います。それくらい、とても嬉しいです。
左・伊佐久美さん『おおきくなったリス』/右・玉田美知子さん『ぎょうざが いなくなり さがしています』
──後編では、おふたりのルーツに迫るなど、もう少し掘り下げた質問をさせていただきます。また、お互いのキャラクターを描き下ろす特別企画も! 楽しみにお待ちください。

伊佐さんと玉田さんの絵本を読んでみよう!

『おおきくなったリス』
作:伊佐久美/講談社刊
定価:1760円(本体1600円)
朝、目がさめたら、体がとってもおおきくなっていたリス。山から山を、ジャンプでひとっとび。遠くに遊園地を見つけると……?

シュールで味わいぶかいデビュー作、『タコとだいこん』の伊佐久美さんによる、注目の第2作。
『タコとだいこん』
作:伊佐久美/講談社刊
定価:1540円(本体1400円)
ある日、「だいこん たべたい」と思ったタコ。タコはだいこんを求めて、海から陸へと向かいます。だれにも見つからないように、そおっと、そおっと……。

第15回MOE絵本屋さん大賞新人賞2位に入賞した、第42回(2021年)講談社絵本新人賞受賞作。
『ぎょうざが いなくなり さがしています』
作:玉田美知子/講談社刊
定価:1650円(本体1500円)
「ほんじつ ごご2じごろ おおばまち にらやまの ぎょうざが いなくなり さがしています。とくちょうは……」。町内放送を聞いたとしおくんは、餃子に何があったのかを想像してみます。

選考会でも絶賛された、第43回(2022年)講談社絵本新人賞受賞作。

伊佐 久美

絵本作家。1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をてがける。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞作『タコとだいこん』でデビュー。同作で第15回MOE絵本屋さん大賞2022新人賞2位入賞。

玉田 美知子

絵本作家。1977年生まれ、神奈川県在住。多摩美術大学立体デザイン専攻卒業。第21回ピンポイント絵本コンペ入選、第42回講談社絵本新人賞佳作受賞。2022年、第43回講談社絵本新人賞を受賞。 コーヒー豆のサブスクリプションサービスを運営。
いさ くみ

伊佐 久美

絵本作家

1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をするネットショップの運営をしている。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞。

1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をするネットショップの運営をしている。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞。

たまだ みちこ

玉田 美知子

作家

1977年生まれ、神奈川県在住。多摩美術大学立体デザイン専攻卒業。 第21回ピンポイント絵本コンペ入選、第42回講談社絵本新人賞佳作受賞。 2022年、第43回講談社絵本新人賞を受賞。 コーヒー豆のサブスクリプションサービスを運営。

1977年生まれ、神奈川県在住。多摩美術大学立体デザイン専攻卒業。 第21回ピンポイント絵本コンペ入選、第42回講談社絵本新人賞佳作受賞。 2022年、第43回講談社絵本新人賞を受賞。 コーヒー豆のサブスクリプションサービスを運営。