「子どもの想像力」衝撃CMから20年!絵本『まっくろ』が大反響

ネット書店で続々1位獲得の話題の絵本 高崎卓馬・黒井健の創作秘話を大公開!

大和田 佳世

心と向き合った先にある笑顔

――長い制作期間の間、不安はありませんでしたか?

黒井:最初の10年くらいはなかなか進まないので、半分諦めかけたこともありましたよ(笑)。

高崎:僕のほうは「あの企画はなくなっちゃったんだな」と思ったことは一度もなかったんです。不思議ですけど。

「あの少年は、僕です」と黒井さんに言ったのは、僕自身の、子ども時代の体験が元にあります。

小学校のお絵描きの時間に、水槽のザリガニを描きましょうということがあって。

僕は水槽と紙の大きさが同じだと気がついて、水槽を真俯瞰で写すように描いたんです。原寸大で、端にいるザリガニを端に小さく。

その絵を僕は気に入っていたんですけど、先生はそれじゃダメだ、もっとザリガニを用紙の真ん中に大きく描きなさいと言うんですね。

僕はそのとおりにするのがイヤで泣いて(笑)。

帰って母親に訴えると、母親は人と同じように描く必要はない、思うように描いたらいいと励ましてくれました。

――「あの少年は、僕です」の言葉の裏にはそんな出来事があったのですね。

高崎:母親は「人は人、自分は自分」が口癖で。どこかでそれが自分の支えになり、仕事でもずっとその言葉に救われてきました。

クジラが生まれたのは、男の子が「心に浮かんだことを描く」ということを大切に、がんばったからこそ。

どんな創作物が生まれる場所にも、必ずそこには生み出そうとした人のがんばりがある。

そして、がんばる人を信じて見守った人の存在があるんだと思います。

子どもががんばりとおすのは大変だと思いますが、この絵本が、読んだ子たちの支えになったらうれしいです。
まっくろだけど やわらかい  絵本『まっくろ』より
――主人公が集中して描く時間を、周りが見守ったからこそ、大きなクジラになったのですね。

黒井:何かに夢中になっている子どもに大人がどんな言葉をかけるのかは、すごく大事ですよね。

静かに見守るのか、「何をやっているの?」と好奇心を持って対等な心から言葉をかけるのか。それとも何かを禁止したりする、心ない言葉なのか。

大人の言葉や態度は少しずつ子どもの心に蓄積していきますから。

個人的には、2002年当時20代だった、あのときの息子の心に響いたものはなんだったのか。

そういう問いを心のどこかに持ちながら絵本と向き合ってきました。

20年越しでようやく完成したことで、息子との約束を果たせたようなほっとする気持ちもあります(笑)。

最後の少年の笑顔は私自身なのかもしれませんね(笑)。

高崎:今、理解できないものを許せないひとが多い気がするんです。

自分の想像とちがう展開のものを楽しむ余裕が少なくなっているのかもしれません。

この絵本のすごいところは、少年を見守る大人や友人たちの描写です。

これは映像にはできなかった絵本だけのものです。

読んでくださるみなさんには、ぜひそこをじっくり楽しんで、何かを感じとってもらえたらうれしいです。
 
「子どもから、想像力を奪わないでください」
……衝撃のCMから、ふたりの作家が20年かけて作りあげた絵本『まっくろ』。

ひとが心の中で思い描くものの素晴らしさと、主人公のうれしそうな微笑みに胸を打たれます。

親子の読み聞かせはもちろん、小学生のひとり読みにもおすすめ。
心と向き合う、特別な時間をくれる絵本作品です。
【 絵本『まっくろ』原画展 】
特集 20年越しに完成した絵本

2021年9月29日(水)~2021年11月29日(月)
黒井健絵本ハウス
20年の歳月をかけて描きあげた絵本『まっくろ』の原画と、2022年カレンダーの原画を中心とした美しい風景画が展示されています。ぜひお運びください!
作/高崎 卓馬(たかさき たくま)
1969年、福岡県生まれ。早稲田大学法学部卒業。クリエーティブ・ディレクター、小説家。ACジャパン創設30周年CM「IMAGINATION/WHALE」で海外の広告賞を多数受賞。小説に『はるかかけら』『オートリバース』などがある。

絵/黒井 健(くろい けん)
1947年、新潟県生まれ。新潟大学教育学部卒業。主な絵本作品に『ごんぎつね』『手ぶくろを買いに』『あのね、サンタの国ではね…』「ころわん」シリーズなどがある。2003年山梨県の清里に「黒井健絵本ハウス」を設立。
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おおわだ かよ

大和田 佳世

絵本・児童書ライター

絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、2009年よりフリーランスに。雑誌や、絵本・児童書情報サイトなどで執筆。作家、翻訳家へのインタビュー多数。

絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、2009年よりフリーランスに。雑誌や、絵本・児童書情報サイトなどで執筆。作家、翻訳家へのインタビュー多数。