まるで人間? 【チンアナゴ】に自分自身を重ねる「ふたりの絵本作家」と「チンアナゴ飼育員」

絵本『ちんあなごの しんかいツアー』発売記念。特別対談 第3回

幼児図書編集部

左がシリーズ前作の『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』、右が最新作の『ちんあなごの しんかいツアー』。すみだ水族館のチンアナゴたちといっしょに。
絵本『ちんあなごの しんかいツアー』の発売を記念した特別対談、最終回です。

お話をしてくださったのはひきつづき、絵本の文章を担当した大塚健太さんと、絵を担当したくさかみなこさん、そして、すみだ水族館でチンアナゴの飼育員を務める柿崎智広さんの3人。

お気に入りのシーンについてなごやかに話していたはずが、驚きの展開に!? 最後はチンアナゴ好きの3人に、チンアナゴの魅力を存分に語っていただきました。

絵本のオチに、まさかの新事実発覚!?

くさかみなこさん(以下、くさかさん):今回、ぎょろめの子たちとかを描くのがたのしかったです。深海にいる、ちょっと不気味な顔をしている変わった子たちを、かわいくデフォルメして描くのがたのしかった。深海には個性的な魚が多くていいですね。

大塚健太さん(以下、大塚さん):僕はこの最後の、チンアナゴたちがぐったりしてる姿がお気に入りです。実際こういう姿はしないと思うんですけど、大冒険でちょっと刺激強かったかなって感じのポーズがいい(笑)。
『ちんあなごの しんかいツアー』より。
柿崎智広さん(以下、柿崎さん):実はこれ……、弱ってしまうと、こういう姿になります。

大塚さん・くさかさん:えー!?

柿崎さん:立ち上がってるというのはやっぱりすごく力がいるので、調子をくずしてしまうと、くたっと砂の上に寝ちゃうんです。僕も何度も見ていますが、力尽きて倒れるっていう……、こんな話、記事には使われないですかね(笑)。

くさかさん:疲れた感じを出したかっただけなんだけど(笑)!

柿崎さん:実際に疲れたとき、休みたいときは、巣穴に引っ込むんでしょうね。

大塚さん:寝るときはどうですか?

柿崎さん:寝るときも引っ込みますね。

くさかさん:安全ですもんね、そのほうが……。

3人が考える、チンアナゴの魅力とは…

左手前から、くさかみなこさん、大塚健太さん、柿崎智広さん。
くさかさん:チンアナゴってどう描いてもかわいくなるんだろうなと思っていて。だから描いていてすごくたのしいですし、たぶん子どもたちにとってもすごく描きやすくシンプルなキャラクターだと思うので、そういう意味でも絵本などのキャラクターに向いているかもしれませんね。

柿崎さん:チンアナゴには本当に、わからないことが多いんです。どうやって産卵するかは水族館で観察できたということを報告させていただいたことがあるんですけど、それ以降どうやって成長していって、どう移動して群れになるのかっていうのはわかってないんです。子どものときはふわふわ浮遊して過ごしている、いわゆるウナギの仲間なんですが。

僕らとしたら、そういうわからないところを追究できるのが、チンアナゴの面白い点です。

ただ、子どもたちにどうしてこんなに人気があるのかを考えたとき、自分自身をすごく投影しやすいんだろうなって思いました。表情があるし、けんかもするし、食べて寝るし……。そういうことがあるからこそ主人公になりやすいんだって。自己投影をしやすく、人間と共感を生みやすいのも魅力のひとつなんだろうなと僕は思います。

あとはストレスがたまったおとなから見ても、癒やされますよね。「君はなんにも考えてなくていいね」みたいな(笑)。
けんか直前、一触即発で向き合うチンアナゴ。
大塚さん:そうですよね。よく見ていると本当に表情豊かで、ニコッて笑っているような顔をするようなときもあって、何時間でも見ていられる魅力がありますね。

さきほど人間に慣れるという話を聞きましたが、コロナ禍のときにある水族館が休館してお客さんが来なくなったら、人間のことを忘れてしまったのか、ちょっと飼育員さんが通りかかっただけ隠れるようになっちゃったチンアナゴの話を見たことがありまして。

柿崎さん:ありましたね。

大塚さん:それでまた慣れさせるために、映像で人間の顔を映し出して、チンアナゴに見せるなんてこともやってらっしゃっていました。2~3日で効果があったようでそういうのもすごくびっくりしたし、面白いなと思いました。

本当に人間ぽいっていうか、人間くさいところがあるんですよ。感情がすごい読み取れるようなところが、すごく魅力的だと思います。

柿崎さん:チンアナゴって本当に僕らなんですよ。

くさかさん:うん、自分みたいですね。

大塚さん:3冊目の彼らは、どこへ行くんでしょうね。

柿崎さん:空じゃないですか?

くさかさん:それも前回一瞬、考えましたよね。飛行船の中が水でいっぱいになってるみたいな。

大塚さん:チンアナゴが見たことない世界を見せてあげたいんです。なかなか行かない場所へ。普段はあんまり動かないから、そこを通る魚しか見られないけど、乗り物に乗せてあげられたらって……。

柿崎さん:絵本にはありえないこと、事実と違うことがあるかもしれない。でも僕はこういう生き物が主役になって、ファンタジーとしていろんなたのしみを持って、想像できることがすごくいいと思うんです。

そして、水族館には、それだけでなく野生の生き物の生態を正しく伝える役割があるので、これからもいっぱい、さらなる彼らの魅力を紹介できる場所になれたらうれしいです。
すみだ水族館の前に飾られた、「こいのぼり」ならぬ「チンアナゴのぼり」(2024年4月撮影)。
取材・文/伊澤瀬菜
撮影/嶋田礼奈(本社写真映像部)

深海には、見たこともないおどろきがいっぱい!

『ちんあなごの しんかいツアー』
作:大塚健太、絵:くさかみなこ
潜水艇「チョウチンアンコウ号」に乗って、深海ツアーへ出発したちんあなごたち。

窓から海中を観察し、大きな生き物が現れたらびっくりして砂に隠れて……。この記事でチンアナゴの生態を知ったあなたが読むと、クスッとできるシーンがあるかもしれません。

『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』につづく、シリーズ第2弾の絵本です。

平和な旅も、チンアナゴたちにとってはドキドキなんです

『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』
作:大塚健太、絵:くさかみなこ
海の中を走る、ちんあなごのちんちんでんしゃ。どんな生き物に会えるかな?

シリーズ第1弾のこっちも見てね!

お話を聞かせてくれた人

大塚健太

埼玉県生まれ。おはなしを手がける絵本作家。主な作品に『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(絵:くさかみなこ 講談社)、『フンころがさず』(絵:高畠純 KADOKAWA)、『おにゃけ』(絵:柴田ケイコ パイ インターナショナル)、『おやつトランポリン』(絵:小池壮太 白泉社)などがある。

くさかみなこ

宮城県生まれ。上智大学英文学科卒業。WEBデザイナーとして活躍後、絵本作家デビュー。絵本作品に『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(文:大塚健太 講談社)、『ねこのおふろや』(絵:北村裕花 アリス館)、『ぺこぺこペコリン』(文:こがようこ 講談社)、『いちにちパンダ』(文:大塚健太 小学館)、『あなたがうまれたとき』(絵:横須賀香 小学館)ほか多数。
ふたりで作った作品に、『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(講談社)、『いちにちパンダ』『よるだけパンダ』『カピバラせんせいのバスえんそく』(以上小学館)、『ぴよぴよちゃん』(東京書店)、『イカはイカってる』(マイクロマガジン社)などがあります。

すみだ水族館

住所:東京都墨田区押上1丁目1番2号
   東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
電話:03‐5619‐1821(開館時間~18:00)