2021.04.28

おでかけ欲求を満たそう! 絵本専門士が選ぶ「海外旅行気分にひたれる」3冊

大人に効く絵本〔04〕『ぼくのたび』『世界あちこちゆかいな家めぐり(たくさんのふしぎ傑作集)』『ぼくのねこみなかった?』がおすすめ

写真:アフロ

絵本は、子どものためのもの。そんなイメージがありますが、美しい絵に癒やされたり想像力が鍛えられたり、ハッと気付かされたりと、実は大人にとっても感動がいっぱい。子育て中なら、子どもの頃とはまた違った向き合い方をすることで、わが子に、より絵本のよさを伝えられるかもしれません。

この連載では、“絵本のプロ”がパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。第4回は、絵本専門士・井上まどかさんが、「海外旅行気分を味わいたいとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。

夢の中で自由に旅する主人公に思いを重ねて

美しい風景に癒やされたり、おいしいものを食べて元気をもらったり。旅行は日常を離れ、心と体をリフレッシュさせる絶好の機会。でも、お子さんが小さいうちは、なかなか計画しにくいですよね。特に、このコロナ禍では旅行したくてもできず、モヤモヤが溜まっているパパママもたくさんいらっしゃるはずです。そこで、今回は「海外旅行気分を味わいたいとき」におすすめの絵本をご紹介します。

1冊目は、『ぼくのたび』(作:みやこしあきこ)です。主人公は、小さなホテルで働くマジメなホテルマンの<ぼく>。ホテルマンとして、たくさんの旅人を受け入れているのですが、彼自身は、自分の住む小さな町のことしか知りません。ホテルで働いていると、旅には出られませんからね。でもその代わり、彼は夢の中で旅に出るのです。大きなかばんを持って飛行機に乗り、ここではない、別のどこかへ――。

旅人から知らない町の話を聞いたり、旅先から届く手紙を読んだりする度、その地を想像し、思いをはせる主人公。テレビで流れる海外の映像や写真集、過去に旅行したときの思い出のアルバムを見ながら「遠くへ行きたいな」と感じているパパママは、きっと共感してしまうでしょう。

そうして、旅への思いをかき立てられながら味わう、みやこしさんの絵。版画のひとつ、リトグラフで描かれた世界はとても美しく、どこか切なくて幻想的です。ガイドブックとは違う、絵本を通してイマジネーションを働かせる旅行体験をぜひ楽しんでいただきたいです。

「ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞」をはじめ、世界中で高く評価されている絵本作家・みやこしあきこによるリトグラフの絵本『ぼくのたび』(作:みやこしあきこ/ブロンズ新社)。

写真+イラストで世界の家をめぐるマニアックな旅

続いてご紹介するのは、『世界あちこちゆかいな家めぐり(たくさんのふしぎ傑作集)』(文・写真:小松義夫、絵:西山晶)。写真家の小松義夫さんが、世界を旅する中で出合ったおもしろい家を紹介している作品で、家の外観は写真、内部は楽しいイラストで展開されています。<絵本はお話を創作したもの>と思われがちですが、このように写真とイラスト、文章で構成されたノンフィクションの<写真絵本>もあるのです。

中国・福建省の円形に造られた土楼(どろう)と呼ばれる集合住宅、モンゴルの遊牧民が暮らす移動式住居のゲル、チュニジア・マトマタ地方の地下の家……など、世界にはさまざまな家があるのだと、ページをめくる度に驚きと発見が。また、イラストは家の内部だけではなく、人々の生活や文化、暮らしの知恵まで詳細に描かれていて、民族や歴史の勉強にもなります。忙しいパパママでも、絵本を読みながら知識欲まで満たせる、大人にこそじっくり読んでいただきたい1冊です。

ガイドブックには載っていないスポットにも気軽に旅できるのが、この絵本のおもしろいところ。マニアックなバーチャル旅行を体験してはいかがでしょう?

『世界あちこちゆかいな家めぐり(たくさんのふしぎ傑作集)』(文・写真:小松義夫、絵:西山晶/福音館書店)。旅する写真家・小松義夫が、世界中のユニークな家、その家に暮らす人々を紹介。

猫を探しながら訪ね歩く世界旅行

最後に、お子さんと読んでほしい絵本が『ぼくのねこみなかった?』(作:エリック・カール、訳:おおつきみずえ)。ご存知、『はらぺこあおむし』の作家、エリック・カールの作品で、色紙を切り貼りするコラージュという技法を使い、独創的な世界観を作り出しています。

主人公は、いなくなってしまった自分の猫を探している男の子。ページを進めるごとに周りの人々の服装や風景がどんどん変わっていき、男の子が世界中を探し回っていることがわかります。でも、彼の前に現れるのはライオンやヒョウ、トラ、ピューマといったネコ科の動物ばかり。そして、ラストはどうなるかというと……とってもかわいい結末が待っています。男の子と一緒に世界旅行気分が楽しめる絵本です。

文章は「ぼくのねこみなかった?」「これはぼくのねこじゃないよ」の繰り返し。シンプルでわかりやすく、絵をじっくりと堪能できます。猫もいろいろ、人もいろいろ。お子さんにとっては、ライオンもヒョウもトラも、みんなネコ科の仲間なのだと知るきっかけになりますね。「今、どこを旅しているのかな?」と、動物や民族の図鑑、世界地図と見比べながら読むのも楽しいかもしれません。

まだしばらくはガマンのときですが、いつか一緒に旅行するときのために。お子さんが海外に興味やワクワク感を持てる1冊ではないでしょうか。

世界的な絵本作家、エリック・カールの『ぼくのねこみなかった?』(作:エリック・カール、訳:おおつきみずえ/偕成社)。独特なカラーリングのコラージュが美しく、目にも楽しい作品。

絵本専門士で、絵本カフェの店長、元保育士など、さまざまな肩書を持つ井上まどかさん。
写真提供:本人

PROFILE
井上まどか
絵本カフェ「ムッチーズカフェ」店長。絵本専門士、保育士、幼稚園教諭一種、認定心理士の資格を保有。都内の公立保育園に9年間勤務した後、“夢と魔法の王国”での自称・お姉さんを経て、2016年、大人のための絵本カフェ「ムッチーズカフェ」をオープン。2020年11月には、東京・西荻窪にリニューアルオープンを果たす。絵本コラムを多数執筆し、雑誌『たのしい幼稚園』(講談社)では、おすすめの絵本を紹介する連載『たのしい絵本館』を担当。2021年度より、「認定絵本士養成講座」(国立青少年教育振興機構)の講師も務める。
ムッチーズカフェ 公式サイト https://mucchis-cafe.jimdofree.com/
ムッチーズカフェ Twitter  https://twitter.com/mucchiscafe

構成:星野早百合