2021.06.30

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パパママが「怒ってばかりで嫌になったとき」に読む絵本3冊を専門家がセレクト!

大人に効く絵本〔08〕『おちゃのじかんにきたとら』『あなたのことがだいすき』『おこる』がおすすめ

絵本専門士:井上 まどか

子どもによかれと怒っているつもりが、つい怒りすぎてしまう経験はパパママあるあるです。そんなときこそ、ひと息つける絵本で発想転換を。
写真:yamasan/イメージマート

絵本は、子どものためのもの。そんなイメージがありますが、美しい絵に癒やされたり想像力が鍛えられたり、ハッと気付かされたりと、実は大人にとっても感動がいっぱい。子育て中なら、子どもの頃とはまた違った向き合い方をすることで、わが子に、より絵本のよさを伝えられるかもしれません。

この連載では、“絵本のプロ”がパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。第8回は、絵本専門士・井上まどかさんが、「怒ってばかりの自分が嫌になったとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。

怒っていることがちっぽけに感じるかも

子育てをしていると、お子さんを怒る瞬間って必ずありますよね。本当は怒りたくないのに、怒ってばかりで嫌になる……、誰でも心当たりがあるはずです。自分の行動を振り返り、「怒りすぎちゃった」と気付けている時点ですごいなぁと思うのですが、パパママは、ストレスに感じているかもしれません。今回は、そんな自己嫌悪の気持ちをやわらげてくれる、「怒ってばかりの自分が嫌になったとき」おすすめの絵本をご紹介します。

1冊目は、『おちゃのじかんにきたとら』(作:ジュディス・カー、訳:晴海耕平)です。1968年にイギリスで発売された絵本で、冒頭から信じられないことがたくさん起こります。ある日、ソフィーという女の子とお母さんがお茶の準備をしていると、大きなトラがやってきて言いました。

「ごめんください。ぼく とてもおなかが すいているんです。おちゃのじかんに、ごいっしょさせていただけませんか?」

なんとも紳士的なトラですが……みなさんだったら、どうしますか? きっと「キャーッ!!」と叫んで、ドアを閉めますよね? けれど、ソフィーとお母さんは違います。寛容な心でトラを受け入れ、お客さまとして、心づくしのおもてなしをするのです。

トラはテーブルの上のパンやお菓子を食べてしまうと、今度は夕食や冷蔵庫の中の食材まで、全部たいらげてしまいます。それでもふたりは慌てることなく、ソフィーにいたっては、トラにうっとりと寄り添っているほど! 満腹になったトラが去った後、お父さんが帰宅するのですが、このお父さんの対応がまたジェントルマンなのです!

ソフィーとお母さん、お父さん、3人の異常なまでの懐の大きさがおかしくて、気持ちのいい1冊です。トラの行動にビックリしながらも、どこか<まぁ、家族が笑顔でいられたら、いっか>と感じさせてくれます。

もしかしたら、お子さんを怒っているときにこの絵本を思い出したら、<こんな些細なことで怒るのはやめよう>と、考え直す瞬間もあるかもしれませんね。

発売以来、世界中で愛されているロングセラー絵本『おちゃのじかんにきたとら』(作:ジュディス・カー、訳:晴海耕平/童話館出版)

「そういうこともあったな」と思える日が必ず来る

次にご紹介するのは、『あなたのことがだいすき』(文・絵:えがしらみちこ、原案:西原理恵子)です。以前、作者のえがしらさんが絵本を読み聞かせされるイベントに参加したとき、前列に座っていたお母さまが泣き始めてしまって……。それぐらい、子育て中のママにとって、自分と重なる部分、共感する部分が多い絵本なのだと思います。

私自身は子育ての経験がありませんが、保育士としてこの絵本を読んだとき、パパママの思いをくみ取っているなと感じました。パパママから育児の相談を受けると、特に第一子のお子さんはすべてが手探りで、不安を抱えながら子育てをしています。お子さんがパパママを困らせるようなことをして、イライラしてしまうような姿も見てきました。でも、そういう時期が延々と続くわけではないんですよね。いつか「そういうこともあったよね」と笑って振り返れる日が来るのだと、そっと教えてくれる1冊です。

「家なんて もっと汚くてもよかった
洗濯物も ためちゃえばよかった
家事なんて 全部あとまわしにしたらよかった

もったいないこと しちゃった
だって あんな時間は もう二度とない」

お子さんは、大きくなります。今のお子さんには、今しか会えません。そう思うと、一瞬一瞬が尊いですよね。子育てをしながら家事をする、仕事をするって、とても大変です。でも、全部が全部、パーフェクトじゃなくてもいいのです。お子さんが成長したときに、<お父さんもお母さんも、僕のことが大好きなんだ><私は愛されて育ったんだな>と自信を持てることがいちばんなのですから。

育児に奮闘するママへの優しいメッセージが詰まった『あなたのことがだいすき』(文・絵:えがしらみちこ、原案:西原理恵子/KADOKAWA)

「怒る」とは何かを親子で考えてみよう

最後に、親子で読んでほしい絵本として『おこる』(作:中川ひろたか、絵:長谷川義史)をご紹介します。こちらは、中川ひろたかさんの「はじめてのテツガク絵本」シリーズの1冊です。

「怒る」とは、どういうことだろう。改めて考える機会って、なかなかないですよね。人はなぜ怒るのか、どういうときに怒るのか、最後に怒ったのはいつか――。お話は、質問形式で進んでいきます。質問ごとに、お子さんと話し合うのもいいですね。怒る人の気持ちと怒られる人の気持ち、両方を考えるきっかけになる絵本です。

怒るって体力もいりますし、精神的にもしんどいものです。かといって、お子さんが自分の命を守るため、社会のルールを知ってもらうために、怒ることが必要な場面もあります。感情を表に出すことが、すべてダメなわけでもありません。けれど、怒る側も決して気持ちのいい行為ではないのだとお子さんに知ってもらい、怒らずに・怒られずに、楽しく過ごすにはどうしたらいいのか、親子で考えてみてはいかがでしょうか。

もし、怒りすぎて自己嫌悪になってしまったときは、ひと息ついて、この絵本を開いてみてください。「さっき、怒っちゃったよね? じゃあ、なんで怒ったのか一緒に考えてみようか」。そんなふうに、そのときどき、お子さんと振り返ってみるのもよいと思いますよ。

人はなぜ怒るんだろう。怒るって何かを深く考えさせられる“はじめてのテツガク絵本”『おこる』(作:中川ひろたか、絵:長谷川義史/金の星社)

いのうえ まどか

井上 まどか

絵本カフェ「ムッチーズカフェ」店長。絵本専門士、保育士、幼稚園教諭一種、認定心理士の資格を保有。都内の公立保育園に9年間勤務した後、“...

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