2021.09.26

韓流・超お受験戦争 人気講師は年収20億円!高校は22時まで授業!

世界de子育て日和 〜韓国・ソウル市編〜

日本と同じアジア圏の国ながら、似ているようで何かと違う韓国での子育て。今回は韓国ソウル市での日本人ママたちの子育てに密着。韓国の過酷なお受験戦争の様子を知ることで、日本での教育や受験のあり方を考えさせられますーー。
 
熾烈を極める韓国での進学競争。中でも都心部ソウル市はその代表格と言えます。今回はそのソウル市内の江南区(カンナム区)で小学生2人の男の子を育てるカンナムママさんと、同じくソウル市の鍾路区(チョンノ区)で大学3年生になる娘を持つカンブクオンマさんの、2人の日本人ママに話を伺いました(オンマ=韓国語で『お母さん』)。
(記事中の人名は全て仮名です)

ソウル市内で『習い事を1つもしていない子どもを見つけるのは難しい』 そのワケは?

イラスト:Ayumi Eto

別名『韓国のビバリーヒルズ』と呼ばれ、多くの芸能人が住む高級住宅街のひとつ、ソウル市内の江南エリア。特にエリア内の江南区と瑞草区(ソチョ区)、松坡区(ソンパ区)は3つ合わせて『江南3区』と呼ばれ、韓国屈指のスーパーお受験激戦区を形成しています。

中でも江南区にある大峙洞(テチトン)、道谷洞(ドゴットン)は進学競争の代名詞ともいうべきエリア。韓国の超難関大学の総称『SKY(スカイ)大学』(S=ソウル大学、K=高麗(コリョ)大学、Y=延世(ヨンセ)大学)や医科大学への合格を目指して、子どもたちは日夜しのぎを削っています。

「江南区には通称『大峙洞(テチトン)塾通り』と呼ばれるエリアがあるんですよ。大通り一面、どこを見渡しても塾、塾、塾……。2~3駅から成る、この小さな区画に1000軒近くの学習塾が集結していると言われています。うちの子どもたちも大峙洞塾通りの学習塾に通っていますよ」(カンナムママさん)

SKY大学や医科大学への合格率が高いことでも知られる大峙洞塾通りの学習塾。そのため学校が長期の休みに入ると地方の学生たちも、こぞって泊まり込みでやってきて勉学に励みます。まさに海外留学ならぬ、大峙洞塾通りへの駅前短期留学というわけです。期間は夏休みや冬休みの1~2ヵ月間と短期のため、中には部屋の下見をせずに賃貸契約をする家族もいます。

「この時期はマンションのほかにもビジネスホテルに宿泊し、子どもを塾通いさせる家族も多いですね。また家具付きのオフィステルも人気です」(カンナムママさん)

このオフィステルとは『オフィス』と『ホテル』をくっつけた造語で建物内に事務所や商業施設などが入り、その他を居住スペースとして貸し出している物件のことです。キッチンやお風呂などを完備しているところも多く、この時期になると地方からやってくる学生たちで賑わいます。そのため一時的に不動産価格が高騰するといった現象も……。

「それでも限られた時間を有効的に塾通いに活用しようと、毎年利用する人たちはすごく多いですね」(カンナムママさん)

大峙洞塾通りでは主に小・中・高等学校の各レベルに合わせた国語、数学、英語塾などが揃っています。さらに科学、社会、倫理、音楽、美術塾などの広範囲に渡る科目に関しても専門的に学習することができます。

入塾には試験があり、その成績によってレベル分けされ、場合によっては落とされるという現実も……。よって、遠路はるばる大峙洞塾通りへ来たからといって、お目当ての塾に入れるとは限りません。

「自分の子どものレベルって、やはりどの親も気になりますよね。もちろん人にもよりますが、大峙洞塾通りではママ同士、お互いどこの塾の、どのクラスに子どもを通わせているのか、自分からはあまり言わないですし、なるべく聞かないというのが暗黙のルールになっていますね」(カンナムママさん)

ここ江南区と瑞草区は1980年代に政府が教育目的で開発したエリアとしても知られています。両区内の高等学校にはそれぞれ番号が付けられ、それらは通称『江南8学群』と呼ばれています。この江南8学群に属する学校の授業内容は小・中・高等学校共に韓国内で最も難しく、将来は医者を目指す子どもたちが多く在籍しています。

またSKY大学をはじめ、難関大学医学部や医科大学への合格率も群を抜いています。そのため子どもがまだ小さいうちに地方から引っ越してくる家族もあり、他都市の学校に比べて生徒数が多いのも特徴です。

「うちの長男は小学5年生ですがクラスの人数はざっと40人ほど、全校生徒で1600人ぐらいはいますね。一般的なソウル市内の小学校ではだいたい1クラス20~25人ですから、かなり多いと思いますよ。教室は生徒でいっぱい。ちょっと窮屈そうですね」(カンナムママさん)

韓国全土から成績上位の子どもたちが集まってくるため必然的に学校のレベルも上がり、そうなると難関大学への進学率も高くなり、ますます人気を呼ぶことに……。カンナムママさんも、この現実を目の当たりにし「ちょっと異常現象なのでは?」と感じることもあります。

「そもそも韓国は国土も狭く、競争の激しい国なので仕方ないとは思うのですが……。こういった教育制度や入試制度については、親としてなんとかしてほしいというのが正直なところですね」(カンナムママさん)

このように塾通いが一般的なソウル市では『学校から塾まで送迎付き』という学習塾も多く、共働き家庭には人気です。また1日に2つ3つ、子どもに塾を掛け持ちさせるなどして、親子の帰宅時間を合わせる家庭も少なくありません。

こうした事態を受け、5~6年前から韓国政府は学校でも授業以外の教育を提供する政策を始めました。これは学校以外から専門講師をアウトソーシングして、授業後の教室を間借りしてバイオリンやサッカー、体育など様々な分野の習い事をカバーする取り組みです。

『放課後学校』と呼ばれる、学校を利用したこの学習システムは一般的な習い事教室よりもリーズナブルということもあり、今では多くの生徒たちが利用しています。

こうした背景から『もはや1つも習い事をしていない生徒はいないのでは?』とまで言われるソウル市内の子どもたち。勉学目的のほかにも男子に人気のスポーツジムや女子に人気のピラティスなど、習い事教室の種類は実に様々です。

人気はK-POPアイドル級? 年収20億円! 江南区『大峙洞塾通り』のスター講師たち

さて首尾よくお目当ての塾に入れたとしても、人気講師の受講枠には制限があります。わざわざ時間とお金をかけて、ここ大峙洞塾通りまでやってきた地方在住者にとっては、人気講師の授業を受けずには帰れません。

「お目当てのクラスを受講するには、まず先に登録する必要があるんですね。たとえば塾側から『朝9時より登録受付を開始します』とお知らせがあった場合、人気クラスの受講枠を巡っては早い人だと前日から列を作って並んでいます。子どもは勉強で忙しくて並ぶ時間はありませんから、たいてい親が並ぶことが多いですね」(カンナムママさん)

とはいえ、この時期はちょうど夏休みや冬休みです。猛暑や吹雪の日だってありますし、かわいい我が子のためとはいえ、丸一晩ひたすら待つのは骨身に沁みます。そこで登録代行アルバイトの登場です。

「このバイト代は一律ではありませんが、だいたい10時間で2万円ほどで請け負ってくれます。なんせ先着順の登録ですし、誰もが良い席を狙っていますからね。中には10~15時間も前からスタンバイしてもらう、なんて話も聞きますよ。そんなわけで人気講師のクラスだと受講枠は100人ぐらい用意されていますが、すぐに埋まってしまうんですよね」(カンナムママさん)

学校が長期休みのシーズンに入ると、ソウル市内では様々な講師たちの広告を載せた宣伝カーならぬ、宣伝バスが目につくようになります。もちろん学習塾や講師の宣伝目的とはいえ、中にはまるでK-POPアイドルのように撮影された、きらびやかな講師たちの姿も……。

イラスト:Ayumi Eto

「やはり学習塾選びでは授業内容が一番大事ですよね。大学入試における傾向と対策など、優れた分析力を持つ講師で、しかも講義が楽しいとくれば当然人気も出てきます。その上『見た目も良ければ、なお良し』ですから、みなさん宣伝用の写真には結構気を使っていますね」(カンナムママさん)

街中で実力派講師たちの写真を見ても、さほど驚くことはないというカンナムママさん。ですが「思わず二度見しちゃいました!」というのがこちら。

「中には学習塾に勤務しているイケメン現役講師を使って、わざわざ宣伝用にK-POPアイドルっぽく撮影した塾のポスターもよく見かけます。バス停などに大きく掲示されていますから、かなり目立ちます。これは韓国特有の文化かもしれませんね」(カンナムママさん)

トップクラスの人気を誇る売れっ子講師ともなれば、その年俸は軽く200億ウォン(日本円でおよそ20億円)を超えると言われる、大峙洞塾通りでの学習塾ビジネス。いかに多くの生徒たちがここでしのぎを削っているのかが伺えます。

イラスト:Ayumi Eto

歴史的建造物が色濃く残る街・鍾路区(チョンノ区)には韓流ファンの聖地もいっぱい!

さて次に所変わって鍾路区にお住まいの日本人ママ・カンブクオンマさんにも話を聞きました。大学3年生になる娘のタルギさんと夫の3人家族です。生物学を専攻しているタルギさんはソウル市内の大学に通っています。

さきほどの江南エリアが韓国における教育の中心地で政府により区画整理されたことなどもあり、近代的な佇まいを見せるのに対し、鍾路区のある江北エリアは朝鮮王朝時代からの歴史的建造物が色濃く残る街。

朝鮮王朝時代の最高位の貴族たち、両班(ヤンバン)の屋敷などが立ち並び、そこかしこに古き良き時代の名残が感じられます。現在、これらの建造物は韓流ファンたちの聖地として観光地化しています。

「ここ鍾路区には大統領官邸や官庁などもあるため、建造物に対する高度規制が厳しく低層マンションが多いんです。さらに昔からの街並みを保全しているので住人自体もソウル市内の他のエリアに比べて、それほど多くないんですよ。中には『3世代以上前から、ずっとこの地に住んでいます』みたいなおじいちゃん、おばあちゃんもいて、わりとのんびりした雰囲気です。近代的な江南エリアの雰囲気とはあきらかに違いますね」(カンブクオンマさん)

勉強熱の高い江南エリアでは塾帰りの我が子を迎えにくる保護者の車で、いつも塾通り近辺は大渋滞。ですが鍾路区にはそうした塾通りもなく、いわば都会の喧騒から少し離れ、懐かしい風情を残す街中のオアシス。

そういったのどかな住環境も理由のひとつでしょうか。「とりあえず大学に関しては『インソウル』に合格できればオーケー」という構えのカンブクオンマさん。

「韓国では大学受験の際に、この『インソウル』という言葉をよく使います。『ギリギリでも、とりあえずソウル市内の大学に受かれば御の字』という意味なんですよ」(カンブクオンマさん)

このように住むエリアによって温度差のある韓国のお受験や学習塾事情。同じソウル市内でも、漢江を境に北側の江北エリアと南側に位置する江南エリアとでは、これだけの温度差があるというのは実に興味深い現象ではないでしょうか。

高校は放課後に夜間授業 学校で2度目の給食

韓国では私立、国公立などに関係なく、全ての学校で給食が出ます(日本人学校ではお弁当を持参します)。小・中・高等学校には給食室があり、生徒たちは食事の時間になると一斉に給食室へと向かいます。そのため教室で給食を食べる習慣はありません。

「わたしが韓国へ来て、日本と違うなぁと感じたことのひとつに、韓国ではとにかく『食べることが一番大事!』と言われたことです。こちらの高校では夜間自律学習(通称『ヤジャ』)という教育システムがあり、学生たちは夕方6時頃から普段の授業とは別に、さらに学校に居残って夜間学習を受けるんですよ」(カンブクオンマさん)

もちろん通っている高校にもよりますが、だいたい夜10時頃まで学校で勉強する習慣のある韓国の高校生たち。当然お腹が減ります。

「こちらの高校では夕方5時頃にもう1回、学校内で給食を食べるんですよ。ヤジャ前に夕飯で腹ごしらえというわけです」(カンブクオンマさん)

このヤジャは最初の章でお伝えした放課後学校とは違い、特に内申点を上げたい生徒には必須の夜間授業です。このヤジャに出席することで内申点アップが見込まれるため、大学入学の際に少しでも高い内申点が必要な生徒にとっては避けて通れない授業となります。

「ヤジャを受講するには通常の授業料とは別に追加料金が発生します。ですから『それならもっと専門的に学べる学習塾の方が良い』と言う人もいます。とはいえ、いくら塾に通っても内申点には反映されませんからね。仕方なく内申点アップのためにヤジャを受講する生徒も実は多いんですよ」(カンブクオンマさん)

朝の始業ベルとともに授業がスタートし、放課後にはヤジャや学習塾に通う韓国の学生たち。韓国ではヤジャも塾も夜10時までと法律で決められいます。

ですからこれらの授業の後、さらに家庭教師を自宅に呼び、夜中過ぎまで勉強する生徒も少なくありません。お受験地獄と呼ばれる韓国では受験生はもちろんのこと、そうでなくても、とにかく1日中勉強に追われる日々……。

このように勉強漬けの子どもたち本人はもちろん大変ですが、サポートする親もまたストレスが多いのも事実。そんな中、韓国では『子どもが中学1年生の時のママ友は生涯の友』と言われ、ママたちの貴重な心の拠り所に……。

「わたしもタルギが中学1年生の頃のママ友グループとは、いまだに楽しくお付き合いさせてもらっています。韓国では1歳でも年上だとオンニ(『お姉さん』という意味)と呼び慕うので、初めは単なるママ友でも次第に姉妹のように仲良くなってきます。そうなると飲み友達になったり、一緒に日帰り旅行したり……。子どもの相談含め、なんでも話せる存在はとても貴重ですね」(カンブクオンマさん)


さて韓国・ソウル市での子育てママたちのリアルボイス、いかがだったでしょうか。進学や受験を控えた子どもがいると、サポートする側にも様々な葛藤が生まれます。子どものやる気や集中力が続かないとき、親が勉強を代わってあげることはできません。親にできることは受験を控えた我が子のサポートに回り、時に叱咤激励し、時に温かく見守ることぐらいでしょう。

このように超学歴社会を生きる韓国の子どもたち同様、日本においても勉強に集中できる環境作りはとても大事です。子どもが毎日勉強に明け暮れる日々の中で、どこかできちんと息抜きできるよう、家族みんなで上手にサポートしてあげたいものですね。

えとう あゆみ

江藤 亜由美

愛知県生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーター、エッセイスト。アメリカ、カリフォルニア州にあるアカデミー・オブ・アート・ユニバ...

江藤 亜由美