「おさんぽ探究」子どもの好奇心や創造性を育てるスゴい散歩とは?

①「家の中や近所のさんぽで好奇心が動き出す」編

ライター:山本 真理

おさんぽ探究「ぐるぐる」スパイラルのイメージ

ワクワクする気持ちや「好奇心」は、学びのうえでも遊びのうえでも、とても大切なこと。

2021年、ノーベル物理学賞を受賞した日本人研究者の真鍋淑郎さんが「研究のモチベーションとなる原動力は何か?」と問われて、「好奇心!」と楽しげな表情で即答していたのも記憶に新しいところです。

なにげないひらめきも、高度な専門的研究に打ち込むパワーも、根っこにあるのは好奇心。そこにはワクワクするような楽しさがあります。自然とわき上がる「なに?」「なぜ?」という気持ちには素直にありたいもの。

そんな好奇心「なぜ?」を見逃さず、探究心と創造性をぐんぐん育む、楽しいおさんぽを紹介します。

教えてくれるのは、社会と学校をつなぐプロジェクトでのゲスト授業をはじめ、アートや創作のワークショップなどを数多く企画運営し、“おさんぽ探究”を行なうチーム「ぐるぐる探究隊」を主宰する、一般社団法人 まなびの天才畑代表理事の高秀章子さん。くわしくお話をうかがいました。
 
(全3回/おさんぽ探究②    おさんぽ探究③

1 歩いて「発見する」「観察する」

——全国の小中学校や高等学校などで、2000年から段階的に始まった「総合学習」は、『子どもたちが自ら学び、自ら考える力や学び方、ものの考え方などを身につけ、より良く問題を解決する資質や能力などを育む』ことをねらいとしています。

総合学習スタート時から学校授業に関わってきた高秀さんは、どのような思いから『おさんぽ探究』の活動を始められたのでしょうか?

高秀さん「子どもたちの学びの場に関わるようになって、『学校ならではの学びや体験だけでなく、“学校の外で個人の好奇心とつながる時間”も大切なのでは?』と強く感じるようになりました。ワークショップなども主催者側が用意したテーマの枠内にとどまらず、『自ら動き出す衝動や好奇心の存在をもっと感じる場』にできないものかと。

そんなときに探究の実践を長くつくってこられた市川力先生(一般社団法人 みつかる+わかる代表理事)と出会い、「Feel度Walk」(フィールド・ウォーク)というメソッドを取り入れたワークショップをご一緒しました。ポイントは、“あてもなく、なんとなく、ただ歩く”。文字どおり、感じる温度が上がっていくウォーキングです。

すると、大人も子どもも忙しい毎日の中では見過ごしていたことが、おもしろいように、どんどん見つかっていったのです。その体験がキッカケとなり、“まずは歩いて自分が発見したもの”をテーマにしていくおさんぽ探究『ぐるぐる探究隊』の活動へとつながっていきました」

『ぐるぐる探究隊』は、そんな一人一人の興味、関心を大事にしながら、ワクワクすることに出会い、さらにその好奇心がどんどんつながっていくというスパイラルをイメージして名付けられたのだそうです。

2 気になったものを発見したら、どんどん集めていく

おさんぽ探究のやりかたはいたって簡単。道ばたの草木や虫、空に浮かぶ雲、建物や道、標識や看板など何でも、ぶらぶら歩いてなんとなく気になるものを見つけたら、思いのままに写真に撮って、自分にとっての“ふしぎのタネ”を集めていきます。

気になるものをどんどん写真に撮っていく

たとえば、高秀さん自身が観察しているふしぎのひとつは、木の幹や道ばたに生える“コケ”。散歩中に片側だけにコケがついた木を発見し、「なぜ、片側だけに?」とふしぎに思ったことが始まりだったといいます。

以来、それまで全く興味のなかったコケが妙に気になり、木についたコケをじっくり観察するようになったとか。撮りためた写真は数百枚にもおよび、もはや趣味の枠を超えた探究テーマとなっているそうです。

——最初の“発見”は、どのように深まり、広がっていくのですか?

高秀さん「気になるものをひたすら集めていると、そこから“新しい発見と問い”が生まれてきます。『コケがついている木とそうでない木の違いってなんだろう?』とか、細い溝にギュッと密生しているコケを見ると、『どうしてこんなに狭くてじめっとした所が好きなんだろう?』といった素朴な疑問が次々に浮かび、より深く観察するようになりました」

撮りためたコケの写真の数々

——日々の発見は一人でもできますが、探究仲間とともに歩き回ると、一人の時とはまた違った展開がいろいろありそうですね。

高秀さん「『ぐるぐる探究隊』の参加者とともに、いろいろな場所でさまざまな発見をしてきました。大人も子どもも入り混じって歩くのですが、一人が発見したものに関連したものが次々に見つかったり、『ふしぎだな』と思うことも人の数だけ、どんどん積み重なっていくという、おもしろさがあります」

仲間と歩きながらたくさんの不思議を発見!

3 こんな所にふしぎのタネが!「おうち探検」をやってみよう

一方で、コロナ禍でリアルに仲間と歩くのがむずかしくなってきたときに、身近な場所でも“発見”が続けられるようにと考え出されたのが、探究のフィールドを屋内に移しての『おうち探検』。

限られたスペース、見慣れた生活空間にも、ワクワクするような発見=ふしぎのタネは意外と転がっているもの。家庭の事情でなかなか外出がしにくい、悪天候が続いて外へ出られないといったときも手軽にできてオススメです。

——「おうち探検」のポイントや実際に見つかった“ふしぎなもの”を教えてください。

高秀さん「リビング、キッチン、子ども部屋。家じゅうを探検して、ふしぎなものを集めてみます。制限時間は5分。きょうだいや親も参加して、ゲーム感覚でトライしても楽しいですよ。

今まで『おうち探検』で発見された“ふしぎ”は、『フライ返しの形や穴の形が違うのはなぜ?』『リコーダーのおしりにも穴が空いているのは?』といったモノの形に注目したもの、『家の前に何種類も違うキノコが生えていた!』という玄関先で見つけたもの、また、『お父さんとお母さんの仲がいいのはどうして?』なんていう微笑ましいものまで、さまざま。家の中にも“ふしぎ”はたくさんあふれているんです。

ひとつ発見をすると、『これは何だろう!?』と、あれこれ考えをめぐらせます。そんなキッカケひとつから自然と好奇心が刺激されて観察が始まり、想像のつばさもぐんぐん広がっていきます」

その後の発表タイムもみんなでおもしろがることで、ふしぎのタネさがしはさらに楽しく、有意義なものになっていきます。家という生活の場を管理しているのは親ですが、ひとたび参加すれば、親も子どもと同じく“仲間”。大人もアタマをやわらかくして、没頭してみましょう。

見慣れたフライ返しにもふしぎがあった

ご近所さんぽやおうち探検は遠出の必要もなく、コロナ禍でも安心してできて、親子間の会話もグッと増えるのが良いところ。忙しい毎日のなか週一回でも、目的の場所に向かうだけではない、“あてもない散歩の時間”をお子さんと一緒に楽しんでみませんか?

高秀章子(たかひで あきこ)
企画・制作ディレクター/探究ジェネレーター/キャリア教育コーディネーター
総合学習がスタートした2001年頃より、学校と社会をつなぐゲスト授業を実践するプロジェクトに参加。杉並区学校教育コーディネーター、学校運営協議会委員などを務める。学校現場での実践ノウハウと、編集や広告などの仕事で培ったネットワークを活かした活動を展開中。好奇心を育てるプロジェクトファーム、一般社団法人 まなびの天才畑代表理事。

<主なプロジェクト>探究型の学習プログラム「TEAM ABLE PROJECT」、発見や創造を楽しむ探究体験「ぐるぐる探究隊」、スポーツ×ことば「スポーツ575」など。
https://www.gurugurutq.com/

第2回は、「リアルやオンラインでつながって仲間を広げる」についてお聞きします。

やまもと まり

山本 真理

Mari Yamamoto
ライター

ライター。大学在学中、出版社にて編集アシスタントを経験し、情報誌の仕事をもつ女性をターゲットにした特集記事の取材/執筆を機にライターとして活動を始める。以降、雑誌、ムック、書籍、企業の広報誌やウェブサイト等、様々なメディアで多岐にわたるジャンルの企画、取材、執筆に携わる。2004年、トルコ イスタンブールへ転居。居住歴14年。現地でトルコ語を学ぶかたわら、トルコを中心に、周辺の中東諸国や中央アジア地域、地中海地方の料理や文化などについて多国籍の人々から学び、知見を広げる。現在は日本を拠点に、ネット配信ニュースサイトなどで健康や暮らし全般、時事問題等、幅広いトピックスの執筆を手がける。

ライター。大学在学中、出版社にて編集アシスタントを経験し、情報誌の仕事をもつ女性をターゲットにした特集記事の取材/執筆を機にライターとして活動を始める。以降、雑誌、ムック、書籍、企業の広報誌やウェブサイト等、様々なメディアで多岐にわたるジャンルの企画、取材、執筆に携わる。2004年、トルコ イスタンブールへ転居。居住歴14年。現地でトルコ語を学ぶかたわら、トルコを中心に、周辺の中東諸国や中央アジア地域、地中海地方の料理や文化などについて多国籍の人々から学び、知見を広げる。現在は日本を拠点に、ネット配信ニュースサイトなどで健康や暮らし全般、時事問題等、幅広いトピックスの執筆を手がける。