2021.07.09

中国・小学生たちのお勉強事情「塾に行くヒマはない?」宿題てんこ盛り。

世界de子育て日和  ~中華人民共和国・大都市部編~

江藤 亜由美

子育てに正解はなく、世界に目を向けてもその実情は様々です。
今回の「世界de子育て日和」は中国。近年、経済が加速する一方、米中対立の高まりや日本との関係でも難しい側面がクローズアップされています。とはいえ中国と日本の経済上での結びつきは非常に強く、中国の在留日本人の多さはアメリカに次いで世界第2位。それだけ多くの日本人の暮らしや子育てがあります。

鈴木慎一さんは、中国の大学を卒業後、日系大手部品メーカーに就職。営業マンとして、中国勤務はかれこれ15年ほどになります。現地で中国人女性と結婚し、現在は一男一女のパパ。もちろん中国語(北京語をベースにしたマンダリンと呼ばれる普通語=プートンファ)も堪能です。

中国の大都市ならではの子育てや学校事情、さらには新型コロナがもたらした生活への影響などについて、鈴木さんが日頃から感じていることを伺いました。
(記事中の人名は全て仮名です)

膨大な宿題に親も唖然! 勉強熱が加速する中国で水泳を習う子どもたちが急増中のワケ

イラスト:Ayumi Eto

いまだコロナ禍から抜け出せない世界。記憶に新しい2019年12月、その最初の感染者が発見された湖北省武漢市では、政府指導による徹底した抑え込みが行われました。しかしながら新型コロナの波紋は広大な中国本土のみならず、世界中に拡がっていきました。

このとき中国では、ちょうど旧正月が始まったばかり。この休みを利用して日本に帰省していた人たちも多く、中にはそのまま日本に足止めされてしまったケースも……。一向に中国へ戻るメドが立たない中、日本の学校への転入を余儀なくされた子どもたちもいました。

そんな事情もあり、鈴木さんの長男、慎也くん(仮名)が通う、現地の日本人学校では生徒数は減ったものの、現在では、ほぼ平常状態に戻っています。ちなみに慎也くんは11歳で小学校高学年、6歳になった妹の祐里ちゃん(仮名)は私立幼稚園の年長クラスに通っています。

「日本から来た駐在員や日本国籍を持つ人などは、ほぼみなさん日本人学校に行くんじゃないでしょうか。高校まであるので、中国語が苦手でも、そのまま日本語だけでとりあえず高校3年生まで進級できますからね」(鈴木さん)

さらに現地の日本人学校のカリキュラムは、日本の学校とほぼ同じというのも人気のひとつ。教材は日本から取り寄せ、先生たちも日本人。授業も全て日本語で行われます(現地の日本人学校への入学には日本国籍が必要です)。

「日本から来た生徒の中には、日本で使っていたランドセルや体操服をそのまま使用しているお子さんもいますよ。日本人学校規定の体操服などありますが、そのへんはわりと自由ですね」(鈴木さん)

現地の子どもたちが通う中国の小学校では、そもそもランドセルや体操服といった文化はありません。大抵の子どもたちはスニーカーなどの歩きやすい靴を履いて登校し、普段着で体育の授業を受けています。

「実は現在、都市部を中心に、その体育の授業に関して少々問題になっていることがあるんですよ」(鈴木さん)

ここ数年、中国では勉学に力を入れるあまり、体育の授業に関しては『特に必要ないのでは?』との声が高まっていました。そこで体育のクラスを減らした結果、身体が弱くなったり、運動神経の発達に遅れが生じるといった子どもが目立ち、徐々に社会問題にまで発展し始めたのです。

「そういった子どもたちは精神的にも弱くなるといった懸念の声があがり、小学校では政府指導のもと、ある一定の学年以上の生徒を対象に水泳テストの導入が検討されつつあります。このテストでは50mや100m程度を泳がなければならないため、今では市内のトレーニングジムで水泳の練習をする子どもたちが少しずつ増え始めています。

トレーニングジム側も『会員にならなくてもいいから、プール利用だけの客でも大歓迎!』みたいなことになっていますよ。この水泳テストは今年2021年中には本格的に導入されるんじゃないでしょうか」
(鈴木さん)

このように勉強熱心な中国では、中国人が通っている現地の小学校における宿題の多さに関しても保護者を中心に疑問の声があがっています。

「まだ小学校低学年とはいえ、毎晩7時や8時頃まで学校の宿題で時間を取られるのは当たり前。問題が解けず、結局夜10時過ぎまで小さな子どもが勉強机に向かっている、などといった話もよく耳にしますよ」(鈴木さん)

このようなことから、子どもたちが平日に塾へ通うのはかなり厳しいといった現実があります。

「もちろん学校にもよりますけど、保護者たちからは『小学生のうちからそんなに宿題ばかりで大丈夫?』と心配する声が結構あがっているんですよね」(鈴木さん)

対する日本人学校の場合は「そもそも日本のカリキュラムに沿った授業内容なので、日本で出される宿題の量とそんなに変わりないと思いますよ」(鈴木さん)

さて、週末になるとダンス教室へ通うのが楽しみな祐里ちゃん。一方、兄の慎也くんは塾で使う教材のひとつ、レゴのエデュケーションセットがお気に入りです。ちなみに、この小学生向けに開発された学習セットはプログラミングや論理的な考え方を学ぶ上で、とても注目されている教材のひとつです。

「たとえば配線で繋いだモーターを動かすための『スタート→10秒右に回転させる→ストップ』といった設定を、自分でプログラミングすることができるんです。こうやって遊びつつ、思考力を養いながら物理やプログラミングなど、ハードウェア面とソフトウェア面の両方を自然に学ぶきっかけになれば嬉しいですね」(鈴木さん)

中国の私立幼稚園 倍率10倍をくぐり抜けた「お受験」のリアル

イラスト:Ayumi Eto

現在、妹の祐里ちゃんは私立幼稚園の年長クラス。生徒のほとんどが中国人で外国人はほぼいません。対する兄の慎也くんは幼稚園時代を日本で過ごしました。そこで日本と中国、両者の幼稚園の違いについて聞いてみました。

「まず日本の幼稚園に比べて、中国の場合、ちょっと情報公開が少ないといった印象を受けましたね。日本の先生はこちらが質問すると、わりと親切丁寧に答えてくれたのですが、中国ではなんとなく幼稚園の内容自体をあまり話したがらない雰囲気があるような気がしますね」(鈴木さん)

この情報開示については鈴木さん本人だけでなく、奥さんも同じように感じています。もちろん、こういった対応の違いは幼稚園や学校にもよるところが大きいのですが「やはり国民性の違いもあるのでは?」と鈴木さん夫妻は感じています。

「私立幼稚園ということもあり設備もしっかりしていますし、先生たちの対応も基本的には親切ですよ。ただ特定の子ども同士の関係性など、ちょっと突っ込んだ話になると日本のように親切には話してくれないと妻も言っていましたね」(鈴木さん)

とはいえ祐里ちゃんが通っている幼稚園では、週2~3回のペースで保護者宛に園児たちの写真をWeChatなどで送ってきてくれます。そこから園児たちの普段の様子を垣間見ることができるのですが、中にはこんな写真も……。

「給食では基本的に中華料理がメイン。たまにすごいのが出てくるんですよ。たとえば、ひとり1尾ずつ、殻付きのエビが丸ごと出てきたり……。園児相手になかなか挑戦的なメニューですよね。豪勢というか、これはさすがに驚きましたね」(鈴木さん)

思わずパパもびっくりの給食でしたが、祐里ちゃんはエビ好きなこともあり、なんとか無事に完食! ですが当然ながら中には怖くて触れない子やエビ嫌いな子も……。小さい子には少々ハードルの高いメニューかもしれませんね。

祐里ちゃんの通っている幼稚園は現地の公立幼稚園に比べて園児の定員は少なめです。年少、年中、年長ともに各3クラスずつあり、生徒数は1クラス平均20~25人程です。

「1学年の園児の定員は約75人前後でしょうか。人口の多い中国、しかも大都市エリアのわりにはちょっと少ない気もします。ですから、この狭き門をめぐって毎年10倍近くの入学申し込みが来るそうですよ」(鈴木さん)

充実した教育内容や設備の整った幼稚園に我が子を通わせたいと願う親の心は、日本でも中国でも同じです。それでは中国の私立幼稚園のお受験や面談とは、いったいどのような様子なのでしょうか。

日本と同じく3歳から幼稚園が始まる中国では私立の場合、事前に親子面談があります。通常、こういった面談は中国語で行われます。ですから、もしも中国で子どもを私立幼稚園に通わせたいと思うなら、まずはパパとママの語学力が必須条件と言えそうですね。

鈴木さん夫妻の場合、ママは中国人ですし、鈴木さん自身も大学時代を合わせると在中歴はかれこれ15年以上と、両者ともに中国語はバッチリでした。

「幼稚園の面談では様々なことを質問されましたね。たとえば『子どもは普段、家の中でどんなことをしていますか?』『それに対して親として、どのように接していますか?』といった基本的なことや、『親子で遊ぶとき、どんなことをしますか?』など、家族間での普段の関わり方についても聞かれましたね」(鈴木さん)

ひととおり面接を終えた後、さらに個室へと案内された鈴木さん夫妻。次に『子どもと遊んでいるイラストを描いてください』と言われ、夫婦で絵を描くことに……。

「最後に『今から実際に子どもと一緒に遊んでください』と言われました。要するに親に対するテストですよね。まあ、普段どおり遊んでいましたけど」(鈴木さん)

こうした面談時間は各家庭でおよそ15分間。決して長い時間というわけでもなく、鈴木さん一家も昼頃には全部の面談を終了しました。

「各自15分とはいえ、そもそもの倍率が10倍以上でしたからね。自分たちの面談番号を呼ばれるまで、長いこと待たされている家族も結構いましたよ。昼を過ぎてもまだまだ大勢の人だかりができていましたから」(鈴木さん)

人生初のお受験でしたが、祐里ちゃん親子は見事合格。もちろん良好な家族関係も理由のひとつ。ですが祐里ちゃんが先生たちの話す中国語をきちんと理解していたというのも、合格できた秘訣ではないでしょうか。

たとえパパやママと一緒でも、相手が何を話しているのかさっぱり分からなければ、やはり子どもは不安になります。海外で一番のネックは言葉の壁ですが、家庭内ですでにこの壁をクリアしていたことも面談に無事パスできた要因のひとつと言えそうです。

さて、晴れて幼稚園に入園した祐里ちゃんは早速お友達にも恵まれ、楽しい毎日を送っています。この幼稚園では週3~4回、ネイティブによる英語クラスがあります。

「園内では中国語がメインなので、いきなり英語ペラペラとまではいかないにしても、小さいうちから少しでも英語に耳を慣らせておくのは良いことだと思いますね」とパパも期待を寄せています。

この幼稚園では他にも書道や美術専門の教室、プールなどの設備があり、さらに字も教えてくれるなど、教育に関するカリキュラムも整っています。

最新テクノロジーを駆使して国民を守る! 健康QRコードってなに?

イラスト:Ayumi Eto

さて、ここからは社会生活や学校などにも導入されている中国独自のセキュリティシステム、ヘルスコードについて説明しましょう。

日本で人気の無料通話アプリといえばLINEですが、中国では微信(WeChat=ウィチャット)が広く普及しています。他にも電子決済などをメインに広く使われているアプリに支付宝(AliPay=アリペイ)があります。

今回の新型コロナ感染拡大を受けて、これらWeChatやAliPayといった、もともとスマートフォンに搭載されていたアプリケーションに、新たに追加されたのが『ヘルスコード』と呼ばれる機能です。

いくつかあるヘルスコードのうち、最も普及率の高いものが、今回ご紹介する『健康QRコード』と呼ばれるものです。(エリアによっては、この健康QRコードの代わりに、その地方政府が独自に認定したオリジナルのヘルスコードを使用しているケースもあります)

「この健康QRコードには僕たちがどこへ行ったのか、どこで長時間滞在していたのかなどの位置情報がリアルタイムで記録されます。このヘルスコードは3色に色分けされていて、安全な場所にいたのか、それともコロナなどによる危険区域に長時間滞在していたのか、一目でわかるしくみになっているんですよ」(鈴木さん)

この健康QRコードには、個人情報と携帯番号が紐付けされています。スマートフォンが電波を発信した基地局の位置情報を拾うことで、電話の持ち主がどこを移動したのか把握できる仕組みになっています。

「同じ基地局のエリア内に4時間以上いると、その場所に滞在していたと記録されます。もし仮にそこが新型コロナ感染者の多い危険エリアだった場合、スマートフォンの中にある健康QRコードの色が赤や黄色に変わるので、僕たちもすぐに対策ができるんです。安全エリアを示す色は緑で、家族全員が緑じゃないと、生徒は学校内へ入ることができません」(鈴木さん) ※健康QRコードの色見本についてはイラストをご参照ください。

このように自分が4時間以上いた場所が安全エリアだったのか、もしくはパンデミックエリアだったのか、各自のスマートフォンで即座にチェックできるため、善後策を考えるのに役立ちます。この徹底したシステムのおかげで学校側も、少なくとも現在校内にいる生徒たちと、その家族は危険なエリアに行っていないことを把握することができます。

また、学校以外にも公共機関を利用する際など、日常生活におけるさまざまなシーンでも、この健康QRコードがコロナ陰性の証明のために役立っています。

さらに中国では、送り迎え時間外の部外者による幼稚園内や学校内への立ち入りを厳しく制限しています。入るためには入門用のIDカードを通さなければならず、たとえ送り迎えに来た保護者であっても、このIDカードを忘れると校門の中へは一歩も入れません。

また、我が子が待つ教室まで来ても子どもが自分の保護者を認識し、また保護者側でも子どもの名前を先生に伝えることができなければ、学校側は子どもを引き渡してくれません。

「僕たちの周りで誘拐された人はいないですが、いまでも中国では誘拐事件が散発しています。とにかく広くて人口も多いですから、その分、犯罪も起こりやすい。そうした事件を未然に防ぐための処置といいますか、こういった対策に関して中国は徹底していると思いますね」(鈴木さん)

世界最大の検索エンジンであるGoogle関連アプリは中国では規制されている。その代わりに、ITやネット系に関しては中国独自のシステムが発達しています。

慎也くんが通う小学校からは新型コロナの影響でオンライン授業が始まると、すぐに全生徒へiPadが無料支給されるなど、学校側の対応も迅速でした。「この行動力の速さは中国の特徴と言いますか、ある意味強みなんじゃないでしょうか」(鈴木さん)

普段、中国人を見ていて、特にまとまりがあると感じることは少ないのですが、一度、『よし! これをやろう!』と決めたときの団結力と行動力には目を見張るものがある、と鈴木さんは言います。

「共産党一党による統治国家というのも理由かもしれませんが、とにかく『今、これをやらなきゃ!』となったときに総人口がおよそ14億人を超えるといわれる国民が一斉にパッと同じ方向へ動くって、いろいろな意味で結構スゴイことだと感じています」(鈴木さん)

このように同じアジア圏でありながらも、日本とはかなり違う側面を持つ中国。とはいえ子育てに国境は関係なく、我が子の未来に少しでも多くの可能性や選択肢を与えてあげたいと願う親の気持ちは、どの国にいてもみんな同じです。

冒頭でもお伝えしたように、中国は在留日本人の数がアメリカに次いで2番目に多い国です。それだけ多くの日本人たちが、それぞれ中国という異文化の中に溶け込み、日々の生活を送っています。

異文化ですから、とまどうことや迷うこともしょっちゅう……。それでも前を向いて、異国の地で明るく子育てをしている日本人パパやママの姿を想像すると、なんだか勇気をもらえるような気がしてきませんか。


さて、日本人パパと中国人ママによる中国大都市部での子育て、いかがだったでしょうか。
子どもが小さいうちから色々な言語に触れさせたり、遊びながらのプログラミングや物理を通して学ぶ楽しさを身につけたり……。

できるだけ子どもの持つ可能性や好奇心を満たしてあげられるような環境づくりをしてあげたいものですね。

えとう あゆみ

江藤 亜由美

愛知県生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーター、エッセイスト。アメリカ、カリフォルニア州にあるアカデミー・オブ・アート・ユニバ...