中流家庭からプチセレブ一家へ嫁いだライター・華子。愛娘は自分と同じ普通コースで育てようと思っていたものの、義母の一言から、小学校受験への道が始まりました。
まったく未知だった東京のお受験は、庶民にはわからないことだらけ! 受験マニュアルには決して書かれていない(書けない)、お受験の赤裸々な裏話をお伝えします。
第2回は知られざるお受験界のワザ「生まれ月」と、「紺スーツ」の重要性について。
お受験対策で生まれ月を調整! 究極は名字も変える!?
義母の知人である山の手マダムの紹介により、小学校受験の要といわれる「個人のお教室」に通うことになった私たち家族。心配していた料金も、事前に調べた大手幼児教室と比べてわずかだけどコスパがいいことも分かりました。何より娘が体験レッスンでとても気に入った様子。私も、サポートが手厚そうな個人のお教室の方が娘には向いているような気がしていたので、もはや料金問題が解消した以上、迷うことなくここに決めたのでした。
そのお教室では、毎回“授業参観”形式を取っていて、子どもたちが課題に取り組む様子を教室の後ろで親が見守るシステム。しかし、どの子もこの子も何をやらせても、テレビで見たどこかの国の英才教育を受けている天才キッズたちのようにシャキシャキとなんでもこなせる。立ち居振る舞いも実に堂々としていて、みんなまばゆいばかりのオーラを放っていた。
そんななか、1人トロトロしていて何もできない娘。私は授業のたびにハラハラしながら、彼女の背中を祈るような気持ちで見守ることしかできない。それは私にとって非常に辛い精神修行のような時間で、日を追うごとにだんだんと気落ちしていったのです。後から入ったとはいえ、娘と他の子どもたちとのあまりにもの差に「やっぱりお受験なんてムリだったのかも……」と、自信をなくしかけていたときでした。
よほどどんよりとした暗い空気が漂っていたのでしょう、授業後に隣に座っていたママさんがそっと話しかけてくれました。
「娘さんはいつ生まれ?」
「え? 秋です」
「ああ、やっぱり。ここにいる子たちはみんな春から初夏生まれなんです。この年齢で月齢が半年違えば、学年が違うようなものですから、気になさることはないですよ。私も上のお姉ちゃんのときは低月齢で苦労したんです。だからこの子は4月生まれにしたの」
え? 4月生まれにした!?
それって、最初から「4月に産むぞ」と決めて、その月ぴったりに産んだということ? 男女の産み分け的みたいなことは聞いたことがあるけど、月を決めて産むというのは初めて。
すぐには理解できず、キョトンとしている私に、そのママさんが教えてくれた話によると、実はお受験界ではよく使われるワザらしい。考えてみれば、4月生まれと3月生まれでは体力、知力、気力、全ての成長面で1年の開きがあるのに、たった6年後に横並びで受験なのだから、確かに経験者なら生まれ月を考えてしまうだろう。
そのママによると、生まれ月の能力差が解消されるのは小学校高学年ぐらいになってからだという。また、月齢順に行われることの多い小学校入試では、生まれ月によっては受験が重なりやすく、併願がひとつもできないこともあるらしい。それゆえ、誕生月は、占いどころかリアルに、お受験の命運を左右するほど重要なのだという。
だが、生まれ月を決めるなんてまだまだ序の口らしい。お受験界の上級者になってくると、なんと、姓を変える人までいるのだという。
なんでも、受験する学校が名前順に入試を行うため、併願したい学校と受験日が重なりそうだと予測したからだとか。そのために事前に夫を婿養子にして名字を変え、見事希望の2校を受験することができたという。そんな都市伝説のような、にわかに信じがたい話まであるのだとママは教えてくれた。
す、すごい。ぽっと出の私とは覚悟がちがう……。
ボーッとしていても小学校に入れた公立育ちの私にとって、小学校入学のために生まれ月を考えるのも、名字を変えるのも、思いもよらないハイレベルな話だった。しかし、ママさんが教えてくれたこれらの話のおかげで、そんな方々の足元に到底及ばない私は、あきらめというか何か吹っ切れた気持ちになり、逆に底無しのどんより沼から救われたのです。
みんなができることを娘ができないのは、生まれたのが半年ほど遅いから。両親の遺伝子のせいでもなければ、私の教育のせいでもない。娘の能力がおとっているからでもない。そう知ったことで、背負っていた重たい気持ちを下ろすことができ、一気に軽快な気分になれたのです。
「できなくてもしょうがない、だって『学年が違う』ようなものだもの。気楽にぼちぼちとやっていこ〜」と、早い段階でそういう楽観的な境地になれたのは良かったと思います。
決して逆らってはいけない、「紺スーツ一択」の深い理由
「もう誕生日は変えられないのだから、今からできることをしていこう!」
一転、ポジティブになった私は自分の得意分野である情報収集力を生かして徹底的に試験対策を練ることにした。まだまだ受験まで時間もあるし「まずはいろんな小学校を見てみよう」と、説明会や学校見学に行くことにしました。
そこでまた疑問が出てきた。そもそも「学校訪問」は、どんな格好で行くの? お受験用の紺スーツ? イヤ、それだと、まだ見学なのに勝負服を着ていく感じだし“やる気マンマン”と思われちゃうかも。女性誌の好感度ファッションでよくあがるカラーといえば……、ベージュ!? イヤイヤ、もしみんなダーク色のスーツだったら目立ってしまうし、やはりチャコールグレーあたりが無難かなぁ……などと1人で考えてみたところでらちが明かないので、またもや頼れるお教室のママさんに聞いてみることにしました。
「紺のお受験スーツ一択です。百貨店の“お受験コーナー”に行くとコンシュルジュの方が相談にのってくれて必要なものが一式揃いますから。念のために言いますが、旦那さんのスーツも紺ですからね」
言われた通りに百貨店で買った紺のお受験スーツを着て、夫と説明会に行ってみると、見渡す限り紺一色。まさに濃紺の深海が広がっている感じ。会場の後方に座った私は、その壮観な眺めにド肝を抜かれた。いくら「紺一択」といっても、約1000人もの人がいるのだから、2割ぐらいはグレーや黒スーツの人がいるだろうと想像していたが、本当にほぼ紺。たまにポツン、ポツンと紺のスーツ以外の人がいたが、絵本の「スイミー」状態で、自然と衆目を集めている。
あぶない、あぶない、危うくグレーのスーツで来るところだった。ほんと、紺にしておいてよかった……、「紺一択」とズバリ言い切ってくれたお教室ママ、ありがとう! お受験のマニュアル本ではこういうリアルな実状は教えてくれないからね。やはり経験者に聞くのが一番だわ。
学校訪問で浮かないためのファッション
① 黒のハンドバッグ&サブバッグのコンビの人が多かったが、私はA4が入る黒バッグひとつ(単に2個持ちがわずらわしかった)② ヒール部分が太いローヒールの黒い革のパンプス(長時間立っていても疲れなく、学校の芝生が耕されたり細い溝にヒールが入ったりしないようにするため)
③ 髪の毛が長い場合は顔に毛が掛からないように結ぶ(お固いお嬢様校は特に身だしなみ注意)
④ 爪は裸爪か肌色のマニキュア。もちろん短く切っておく(結婚指輪はOK)
⑤ 髪の毛の色は黒でナチュラルメークを心がけること(マツエクも避けたほうが無難)
まるで女学生時代に戻ったかのような真面目な格好である。まさか、この歳になって「制服」スタイルをさせられるとは……。しかし、なぜ、こんなにまでして目立つことを避けるのか。それは小学校お受験界が意外と狭く、知らぬ間に「プチ有名人」となっているかもしれないからなのです。
「あの人、〇〇校でも見かけたわ」
「△△校にもきていたわよ」
「あの方はうちのお教室にいるわよ」
「あら、××体操教室にも通っているわよ」
一度話題にのぼると、止まることなく噂は広がり、本人が気付かないところで個人情報がダダ漏れになっている可能性があるらしいのだ。なぜなら受験生の親たちにとって、誰がどこの教室に通っていて、どこを受験するかがもっとも関心度の高いホットな話題だから。だから多くの父兄がいる場では、高感度やファッション性よりその場に馴染む方が無難でなはいかと思います。
また、学校側も、目立つ「スイミー」より、一色に染まってくれる御しやすい父兄の方を望んでいるのでは、という考えもあるようです。なので、この世界では洗練された都会的な雰囲気はまったく必要なく、ただカメレオンのように同色になって、本番まで粛々と情報収集をするのが得策ではないかと思うのです。
そんな「没個性」なお受験スーツですが、着慣れると案外良いところもあります。毎回「何を着て行こうか」などと考えなくていいし、同じ服を着ていても気にしなくていいので、ある意味かなり便利なすぐれものといえます。まさに、お受験活動の期間に着る「大人の制服」といったところ。独特な型のスーツなのでお受験の時しか使えないし、なんならこの際思う存分着倒してしまえばいいのではないか、などと考えてしまうのは、庶民的思考が抜けない私だけでしょうか……。
続く
※この記事は、ライター華子の個人的体験及び感想に基づくものです。私見のため、一般的な見解とは異なる場合があります。また、一部については創作的表現が含まれております。
【1回目】小学校合格の下準備「お教室面接」には高級果物と身上書!
華子
ライター。一般的なサラリーマン家庭で育ち、公立で小・中・高を過ごす。都内の大学卒業後、プチセレブな夫と出会い、結婚。女児の母。庶民との差に日々驚きつつも、平然なふりを装ってアセアセと暮らしている。 TOKYOお受験の裏側
ライター。一般的なサラリーマン家庭で育ち、公立で小・中・高を過ごす。都内の大学卒業後、プチセレブな夫と出会い、結婚。女児の母。庶民との差に日々驚きつつも、平然なふりを装ってアセアセと暮らしている。 TOKYOお受験の裏側