2021.03.05

「子育てに無関心な夫」は変わるのか? 勝ち負けにこだわらない「伝え方」の極意

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔01〕

寄稿家:石原壮一郎

石原壮一郎ジイジと、2歳の孫・F菜ちゃん
写真:おおしたなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本のコレクターで、2歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回のお悩みは、
「夫が子育てに無関心で何も相談できない」
というママ(3歳女児の母32歳)からのご相談。はたして石原ジイジの答えは?

バブル前までは、不満を持つ妻の方が責められた

ウホン、石原壮一郎ジイジである。さっそく今回の悩みに立ち向かってみよう。「子育てに無関心な夫」への不満は、人生相談の定番のひとつじゃ。コレクションの中から、対象年齢などで見当を付けて200冊ほどめくってみたところ、昭和30年代から平成まで幅広い時代で、たちまち10を超える「子育てに無関心な夫」に関する相談が見つかった。

相談を寄せている妻は「悪いのは夫」という前提で、「どうすれば夫を変えられますか」というたずね方をしておる。しかし、まんまと期待どおりの答えが返ってくるほど、人生相談の世界はシンプルではないし甘くもない。

高度経済成長が始まったばかりの1961年に新聞に掲載されたのは、【仕事第一主義の夫 良い父親になってほしい】というT子さん(結婚5年、2児の母、東京都)からの相談。回答者である直木賞作家の小山いと子さんは、「仕事の鬼」である夫への不満を述べるT子さんを強い口調で責めておる。

〈失礼ながらあなたの悩みはご主人に対するないものねだりの感があり、あなたのほうに反省の余地があると存じます。(四畳半一間から数年で家まで持てたのに)ぜいたくというか、いい気なものだというか、とにかくご主人への理解がなさすぎます〉
(1961年11月『読売新聞』の「人生案内」欄に掲載 ※読売新聞社婦人部編『日本人の人生案内』1988年平凡社刊より抜粋)

当時の時代背景を見ごとに反映していると言えるじゃろう。仕事の鬼になって稼いでくれている夫を変えるより、妻が家庭を守る「鬼」になったほうが総合的には「得策」ではないか。厳しい言葉の背後には、そんな一種の親切心が込められているのかもしれん。実際、戦後の日本では多くの夫婦が「役割分担」を実践して、経済的な豊かさを手に入れてきた。

モーレツな働き方や「夫は仕事、妻は家庭」という夫婦のあり方を本気で反省する声が高まってきたのは、バブルが崩壊した平成の初めごろからじゃな。そういう働き方も夫婦のあり方も、現在の価値観からすると違和感があるし、失ったものも大きかったに違いない。ただ、その時代の中で男女ともに毎日や人生を懸命に生きていたわけで、そのことを外野から批判するのは控えたいもんじゃ。

すべては妻の責任と厳しく叱咤する美輪様節

相談者が怒られているのは、高度経済成長期だけではない。2010年代のはじめに美輪明宏さんが担当する雑誌の人生相談コーナーに掲載された【「疲れているから」と、夫が育児に協力してくれません】という、N子さん(37歳、結婚10年、3児の母で義母と同居、長野県)からの相談。夫は1年前に社会保険労務士の資格を取って転職し、夜遅くに帰ってくるそうじゃ。N子さんは、日々の子育てのたいへんさを切々と訴えておる。

ところが、美輪さんはいきなり「あなたはシンデレラのつもりですか?」と、キツイ一発を繰り出してきた。さらに「夫の立場を考えたことはありますか?」とさとしたり、イソップ童話の『北風と太陽』を引き合いに出して、「あなたはいままで冷たい北風だったのです。家じゅうに、ビュービューと冷たい風を吹きつけるだけだったのです」と続く。すでに相談者はかなりのダメージを受けている気はするが、美輪節はまだまだ止まらない。

〈わたしに同情されて、夫やお姑さんを動かす方法を教えてもらおうと思ったのかもしれませんが、そうはいきません(笑)。自分が北風だったことを認識して、すべての原因は自分にあると反省なさい。これからは、ポカポカと暖かい太陽になりましょう〉
(雑誌『家の光』の「美輪明宏の人生相談」に掲載 ※美輪明宏著『人生はドンマイドンマイ』2013年家の光協会刊より抜粋)

こう締めくくっておる。相談者が素直に納得したかどうかはわからんが、悩みの迷路に迷い込んで行き場を見失っていた気持ちに変化を及ぼす効果はあったじゃろう。ついやりがちじゃが、「どっちがよりたいへんか」を比較して、被害者意識をふくらませることに熱中したところで、何も始まらんからな。

作家・落合恵子さんは「整理して伝える」を提案

相談者である妻の気持ちに寄り添って回答してくれとるのは、作家の落合恵子さんじゃ。時代はさかのぼるが、1980年代に新聞に掲載された【子育てに無理解な夫‐外出もままならず、イライラ‐】というI子さん(結婚2年、1児の母、東京都)からの相談。夫から「お前は毎日が日曜日でいいな」なんて言葉を受けたこともあるそうじゃ。落合さんは、こう答えておる。

〈おつれあいといっしょに読んでいただきたいと思うのですが、「家にいることは毎日が日曜日だ」と、本気で思っているのでしょうか。代償として報酬を得ることだけが、人間の人間的な「仕事」であると考えているのでしょうか。(中略)夫だって、そして赤ちゃんだって、生き生きと輝いているあなたが好きなはずです。愚痴しか言わないあなたより、話題豊富な、趣味を持ったあなたが好きに決まっています〉
(1980年代に『読売新聞』の「人生案内」に掲載  ※落合恵子著『人生案内‐自分を育てる悩み方‐』2002年岩波書店刊より抜粋)

まったく、そのとおりじゃな。さすがに今は、こういうセリフを妻にぶつける夫はほぼ絶滅したことじゃろう。だが、口にはしないだけで、そう思っている夫が絶滅したわけではないかもしれん。落合さんは最後に、こうエールとアドバイスを贈ってくれておる。

〈まずはあなたのモヤモヤをきちんと整理して夫に伝えること。赤ちゃんがかわいくてたまらないことと、いつもいっしょにいることとは、共通する多くを持ちつつ、別の意味も持っていることを、きちんと夫に伝えましょう〉(同)

落合さんは「きちんと夫に伝えましょう」という締めの言葉こそを、いちばん言いたかったのではなかろうか。夫の言葉に怒ることで相談者の気持ちをほぐしながらも、暗に「わかってもらえない」と嘆いているだけでは事態は変わらない、悩んでるだけじゃなくて行動を起こしたほうがいい、と背中を押してくれている。そんなふうに、ワシには見えるな。

ステップ1は「勝ちたい」誘惑に耐える ステップ2は不満を言葉に!

<石原ジイジの結論>

「子育ては夫婦で取り組むもの」というのは、当たり前の大前提である。ただ、形としての「平等」を求めてしまうと、話がややこしくなるのが常じゃ。今の日本の現状として、まだまだ母親の負担が大きくなりがちでもある。

人生相談本で「夫が子育てに無関心」という悩みの回答を読み比べてみて、そこから次のふたつの教訓が浮かび上がってきた。

その1「相手を落ち度を責め立てて自分の『勝ち』を確認しようとするのは不毛」

その2「多くの悩みは『言いづらいことを伝えられない』という問題に行きつく」

悩むのは現状をいい方向に変えるためのはずなのに、うっかりどちらかの落とし穴にはまってしまう人は、昔から後を絶たん。その1の場合はもちろんじゃが、その2の場合も「言えない自分」を正当化したいがために、相手がいかにひどいかを数え上げることに精を出してしまう。

身に覚えがあるが、とくに若い頃は、配偶者を陣取り合戦の対戦相手だと思ってしまったもんじゃ。相手に不満があるときには、日々「なぜわかってくれないんだ」という不満やもどかしさも抱いてしまう。

子育てに限らんが、夫婦のあいだにはさまざまな不満が次々に生まれくる。勝ち負けの問題にしたくなる誘惑を振り払いつつ、自分の気持ちを相手にどう伝えるかを考えたいもんじゃ。伝えたけど理解されないケースもままあるが、まずは伝えてみないと始まらん。

これも身に覚えがあるが、相手をやり込める気満々で話し合った結果、どうやら自分の言い分や要求が間違っていたと気がつくこともよくある。それはそれで、言えなくて悩んでいるよりは、5000倍ぐらい有意義じゃ。伝えよ、さらば開かれん!

【石原ジイジ日記】
孫のF菜は、少し言葉が出てきました。親子で家に遊びに来てご飯を食べたあと、娘が「誰と手を洗いに行く?」と本人に尋ねます。何回かに1回の割合で「ジイジ」とご指名がかかると、表面上は平静を装いつつ、心の中でガッツポーズをせずにはいられません。

寄稿家紹介

石原壮一郎 いしはらそういちろう

コラムニスト&人生相談本コレクター。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。現在、2歳女児の現役ジイジ。

おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。21年3月に発売された『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。