いまだに「子育ての体罰」を正当化してしまう親への「2つの決定的な問いかけ」

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室【18】「子どもを叩いてしまう」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

孫娘・F菜ちゃん(3歳)と石原ジイジ。“失礼”の本質や正体について考える『週刊新潮』の連載「令和の失礼研究所 #これってアウト?」が話題。  写真:おおしたなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、3歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、「いけないとは思いつつも、言うことを聞かない子どもを叩いてしまう」というママ(2歳男児の母32歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

※過去の悩み相談はこちら

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)PROFILE
コラムニスト&人生相談本コレクター。1963年三重県生まれ。1993年のデビュー作『大人養成講座』がベストセラーに。以降、『大人力検定』など著作100冊以上。現在(2022年)、3歳女児の現役ジイジ。

約20年前は「ちょっとくらいは仕方ない」が主流

子どもは親の意のままにはなってくれない。どうやったら言うことを聞いてくれるか、親は日々悩んでおる。イライラして子どもを叩いてしまい、そんな自分を責めているパパママも少なくない。

2020年4月に体罰禁止が法制化されるなど、「体罰は百害あって一利なし」という認識はかなり広まった。

いっぽうで「躾(しつけ)のためには体罰も必要」という意見も根強くある。子どもを叩くことに対して、人生相談はどんな見解を示してくれるのか。

二十数年前に出た本を見ると、子育ての専門家のあいだでも「多少の体罰は仕方ない」という見方が“常識”だった節がうかがえる。1998年刊の本に載っている「つい子どもに手を上げてしまう」と悩むママからの相談だ。

夫が病気がちで病院へのつきそいや看病に忙しくて息子(1歳5ヵ月)にかまってやれず、言うことを聞かないと「つい頭をたたいたり(原文ママ)」してしまうという。

小児科医の藤田光江さんは「私も若くて、心のゆとりのないときには、よく長女に手が出ました」と共感を示しつつ、こう答える。

〈最近、体罰や虐待という活字が目につくようになり、家庭においても、子どもをたたくこと、すなわち虐待ではないかと母親をおびえさせています。

小児がその養育者によって長期にわたり、通常の程度を越えた肉体的あるいは精神的な暴行を加えられている状態を虐待といいます。従って、愛情によって信頼関係が成立している親子の間で、ちょっと手を上げたからといって、虐待とは言えません。(中略)

あなたも、一日のわずかなときでもいいので、お子さんをしっかり抱きしめてやさしい言葉をかけてあげてください。“親に充分愛された”という満足感は、まわりの人への愛情や信頼感にもつながるのです。〉

(初出:雑誌「婦人之友」連載「お母さんの悩み相談室」。引用:藤田光江著『0歳─6歳の子どもをもつ お母さんの悩み相談室』1998年、婦人之友社)

病気の夫を抱えている相談者の状況を慮(おもんばか)って、あたたかい言葉をかけている。

ただ、今読むと「体罰に理解がありすぎでは?」と感じなくもない。言うまでもなく、今の感覚や常識で過去の発言を批判するのは筋違いじゃ。

時代が変化したことと、追い詰められている相談者を救いたいという藤田先生のやさしさを読み取りたい。相談者と回答者の藤田先生が、ともに「自分もたたかれて育った」とサラッと言っているのも、当時ならではかもしれん。

「叩かれて育ったから叩く」の正当化はズルい

次も二十数年前の本にあった相談。さっきの相談にもその要素はあったが、「親に受けた体罰」の影響に悩むパパママは多い。

「私は幼いころ、親によく叩かれました。子どもを𠮟るとき、叩いてしまうのは、そのせいかと悩みます」という4歳のママ。「私はそういう子育てしかできないかと思うと辛くなります」とも。

保健婦の羽室俊子さんは、「叩かれて、あなたはどう思いましたか」と問いかけつつ、体罰の連鎖を断ち切ろうと促す。

〈「まっすぐに、いい子に育ってほしい」という親の願いからされたことであるとはわかっていても、自分としては叩かれたその時、悔しかった。と、あまりいい思い出ではないわけですね。(中略)

落ち着いてよく考えてみると、お子さんはなにも叩かれなくてはならないようなことをしてはいないのに、あなたの思いどおりにならないので、つい叩いてしまった、などということも多いのではありませんか。(中略)

叩かないで育てることはきっとできます。「親に叩かれたから叩く親になったのではないか」などという気持ちの順送りは、あなたのところで断ち切ろうと、ママ、ちょっと努力してみましょう。〉

(引用:育児文化研究所編『幼稚園のころのママの悩み相談100』1999年、赤ちゃんとママ社)

「言葉で解決する努力をするのも親の役割です」「叩きそうなときはちょっと深呼吸をすれば踏みとどまれるでしょう」とも。

親に叩かれたことは嫌な思い出のはずなのに、我が子に同じ思い出を抱かせてしまうのは理不尽な話である。過去の体験が「都合のいい言い訳」になってくれるのかもしれん。

子どもを叩いたあとで「昔、自分も叩かれて育ったから」というところに原因を求めるのは、甘い誘惑に負けたことを正当化するズルい了見でしかない。

体罰は親の悪い癖

13年前の2009年に発売された育児雑誌に掲載された読者アンケート(1500人のパパママが回答)にも、体罰に関する項目があった。

「言うことを聞かなければ体罰を与えてもいい?」という質問に対する回答は、「時と場合によって、体罰のほうが効果的」が73%、「絶対にダメ。言葉で解決する」が21%。「体罰容認派」が圧倒的に多数派である。

その結果を受けて、神戸少年の町施設長の野口啓示さんは次のようにアドバイスする。

〈その(注:体罰の)効果に持続性はありません。外圧によって行為を押さえ付けられているだけで、いけないということが内在化できていないからです。(中略)

たたかないとわからないのではなく、親がほかのやり方があることを知らないだけ。

たたく、怒鳴るなどの罰は、いけないということを伝えるより、親は怖いという恐怖心を伝えてしまいます。それだけ親の愛情が伝わりにくくなり、親子のコミュニケーションが悪くなる。〉

(引用:雑誌「日経キッズプラス」2010年1月号、日経BP社)

さらに「子どもの問題行動が増えて親はいらだちを募らせ、さらに怒鳴り、たたくようになる。バッドサイクルに陥ってしまうのです」と、野口さんは警告する。「体罰は親の癖です。悪い癖はなくしたほうがいいのです」とも。

あれこれ細かく干渉したり、自分の価値観を押しつけたり、ひいては子どもの人生を支配しようとしたりなど、親が持ちがちな「悪い癖」は多い。

そして、いちばんタチが悪い癖は、子どもの気持ちや将来への影響はお構いなしで、「子どものためを思って」という言葉ですべての行為を美化してしまうことじゃ。

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