2021.05.15

子どもを‟小さな大人”として扱うドイツの水泳教室が「平泳ぎ」から教えるワケ

ならいごとは楽しければOK! 第1回 ドイツ・ベルリン編 

子どものならいごとは、万国共通の関心事。世界各地で暮らす日本人親子のみなさんに、現地のならいごとについて聞いてみました。リアルな体験談を通して、教育観や子どもとの距離感に、その国ならではの独自性が浮かび上がってきます。第1回はドイツ・ベルリンに住む希代さんご一家です。

瑠南ちゃん5才、玲くん3才の頃。近所の公園にて。
写真提供:希代真理子

●Mama&Kids Data●

ママ:希代(きたい)真理子さん

【お仕事】撮影コーディネーター/メディアプロダクション/翻訳
長女:瑠南(るな)ちゃん(11歳)
【ならいごと歴】
日本語補習校(継続中)→幼児体操教室→バレエ→ ピアノ→水泳(継続中)
長男:玲(れい)くん(9歳
【ならいごと歴】
日本語補習校(継続中)→ サッカー(継続中)→水泳(継続中)

ベルリンは人口約380万人(2020年)のドイツの首都。壁が崩壊した1989年以降、自由で寛容な空気が流れる中、芸術家たちが移り住むようになり、そこに暮らす人々も様変わり。近年では「欧州のシリコンバレー」と呼ばれ、スタートアップ都市としての存在感を強める一方で、ヨーロッパの中でも子育てしやすいキッズフレンドリーな街として認識されつつあります。在独25年以上のママ・真理子さんとベルリナー(ベルリンっ子)との間に誕生した、ベルリン生まれの2人のお子さんが取り組んできたならいごとについてお聞きしました。

楽しければOK! がドイツのならいごとの基本ルール

ママ・希代さんがドイツで初めてのならいごとで印象に残っていることは日本との違いだったと言います。

「幼児向けのワークショップがドイツにもあり、モンテッソーリ教育を取り入れた体操のグループに参加したときのことです。そこで、“親は見るだけにして、絶対に子どもに手を出さないでください。彼らの好きなようにさせてください”と言われました。それがすごく印象的でしたね。日本とドイツを比較したときに、一番違うのがここではないかと思いました。

公園での遊ばせ方ひとつとっても、日本では親が遊び方に口を出して、“危ないよ”と最初から声掛けをする傾向にありますよね。対して、ベルリンではとにかく好き放題やらせて、危険が迫ったときに初めて介入するんです。基本的に最終段階まで放っておくのですが、それはならいごとについても同じことが言えると思います。うまくなることを目的としておらず、楽しく好き勝手にやらせる方針のところが多いと感じますね」

ちなみにベルリンで人気のならいごとは、“スポーツ系”と“音楽系”とのこと。

「ひと言で音楽といっても、子どもたちはいろんな楽器をやるんです。娘の同級生も、ギター、バイオリン、ピアノ、ウクレレ、ドラム……と、皆それぞれにやりたいものを自由に選んでいて、ジャンルに偏りがないのもベルリンらしい。クリスマスには子どもが弾き語りをする時間があったりと、音楽は常に身近な存在です。

スポーツはなんといってもサッカーが大人気。サッカーファンの親も多いですし、幼児から地域のサッカークラブに参加するケースが多いですね。ベルリンの場合は、近所にクラブ専用の本格的なサッカースタジアムがあり、かかる費用は良心的なんです。条件的にも恵まれているように思います。週に2回の練習と週末には遠征試合があるので、親は大変ですけどね」

ドイツでの水泳レッスンは先生がプールに入らない!?

希代家のおねえちゃんのならいごとデビューはというと、日本語補習校からはじまり、最後に通いはじめたのが水泳でした。

「そもそも水泳をはじめるきっかけは、小学校の水泳の授業が関係しているんです。ベルリンでは(小学校6年間のうち)3年生の1年間しか水泳の時間がないのですが、その1年間で少なくとも初級の“タツノオトシゴ級”を取る必要があるということをドイツ人のママさんから聞いたんです。
条件はとにかく25mを泳ぎきること。週に1回、クラス全員で近くのプールに行って授業をするのですが、それだけでは大変だと思い、娘は小学校に上がる直前に水泳教室に入れました。

さらにドイツではクロールではなくて、平泳ぎからスタートするんですよ。型はあまりうるさく言われないので、平泳ぎのようなものでなんとか25mを泳ぎ切ればそれでOK。他にも、プールサイドから飛び込む、輪っかを水中から拾い上げるといったのも初級テストには出てきました。

最初に在籍したBBB(ベルリン市の公営プール。現在はBerliner Bäder)でびっくりしたのが、先生が水の中に入らないんですよ。長い棒を持っていて、それを泳いでいる子どもたちのちょっと前に垂らして、プールサイドを歩いているんです。溺れそうになったら捕まれっていう恐怖心を和らげるための棒だったのかな(笑)?
その指導法はドイツではスタンダードのようですが、あまりにも雑だと思い、途中でフェアアイン(地域に密着したスポーツクラブであり、日本の学校の部活のようなもの)に移りました。こちらはいかにもドイツらしいクラブで、良心的な料金できっちり型から教えてくれます。平泳ぎで25m泳ぐことからスタートしますが、最初から深いところでは水深3mくらいある50mプールで、腕輪をつけて泳いでいました」

瑠南ちゃん7才、玲くん5才の頃。公園の池でいつも会うアオサギに挨拶。
写真提供:希代真理子

サバイバルを前提とした水泳指導!

水慣れ抜きに、いきなり泳がせるというのがベルリンらしい! そしてフェアアインの指導はかなり厳しかったとのこと。

「初級の次は、ブロンズ、シルバー、ゴールド級までありますが、最初のBBBで娘は1年でシルバー級まで進みました。シルバーの条件は、20分以内に300m平泳ぎと100m背泳ぎを泳ぎ切ることと、10mの潜水をクリアすること、2mの深さにあるものを潜って拾う、さらに3mの飛び込み台から飛び込むというものでした。

通常日本で最初に習うクロールは、ゴールド級にならないと出てこない泳法でした。なぜかというと、ベルリンの水泳は基本的にサバイバルの意味合いが強いんです。こちらでは湖でも平気で泳ぎますし、泳ぐことは日常的だから、生き残るために泳ぎを習得するイメージです。その意味では、クロールの優先順位は低くなってしまうようです」

瑠南ちゃん7才、玲くん5才の頃。ローラースケートとボードの練習を始めたときの様子。
写真提供:希代真理子

そして、ならいごとを始めて、子どもたち二人に大きな変化がありました。

「ふたりともすごく体力がつきましたね。息子にとっては、スポーツによってエネルギーを発散できたことがよかったな、と。サッカーを始めた頃は、私の横でベンチに座ってただずっと見ているだけだったんです。しばらく様子を見ようと思い、何も言わずに1年近くそのまま放置しましたが、ある日、6歳を前にして突如自らやり始めたんです。サッカーのおかげでチームプレイを身をもって学ぶことができましたし、精神的にも成長したように思っています。こちらでは無理強いは絶対にさせない。日本との違いはここにもあると思います。

他のならいごとに関しては、基本的にいろんなことを試したうえで、好きなものが見つかればいいなというスタンスでいます。
娘の場合は日本語を維持するために、バレエとピアノはあえて日本人の先生に習っていました。日本語を使ういい機会だったのですが、コロナによるロックダウンでオンラインレッスンに切り替わってからは参加しなくなり、結局辞めてしまいました。もったいなかったけれど、考えようによっては、ロックダウンのおかげでやりたいことと、やりたくないことがハッキリ見えてきたようにも思います。
娘は水泳については最後の級まで取りたいと言っているので、そこまでは頑張ってくれるんじゃないかな。ゴールド級では、人を助けるといった項目があって、何か重い物を持って泳ぐのですが、いわゆる救助活動を前提としたものなんです。それで一区切りになるからそこまでは見守りつつ、コロナが落ち着いたら、今度は自分でやりたいことを見つけて欲しいと願っています」

子どもを“小さな大人”として扱うドイツでは、本人の気持ちを尊重し、幼い頃から自主性を促します。ならいごとでも本当にやりたいことに打ち込むことで、ときに大人顔負けの上達を見せることも。探求心と自分で考える力を育むので、ならいごとひとつでも人格形成に大きな影響を与えてくれることが伺えます。

第2回はフランス・パリのならいごと事情をお伝えします。

取材・文 有元えり