イランの画家の絵に日本人が物語をつけた! 異彩を放つ「わたしの馬たち」制作秘話

作者・堀川理万子さん&翻訳・愛甲恵子さんによるオンライントークショーの模様をご紹介!

げんき編集部

(左から)愛甲恵子さん、堀川理万子さん、聞き手:飯島未彩紀(「さがるまーた」編集部)
絵本雑誌「さがるまーた」の中でも異彩を放つ「わたしの馬たち」。物語を手がけた堀川理万子さんと、翻訳を担当した愛甲恵子さんが貴重な制作秘話を語ってくれました!

「堀川さんの言葉の使い手としての才能に感動!」(愛甲)

──今回、イランの画家モルテザー・ザーヘディさんの絵に物語をつけようという企画で、愛甲さんに相談したところ、一番最初に名前が挙がったのが堀川さんでした。

堀川理万子さん(以下、堀川):自分は絵が仕事だと思っていたので、言葉を頼まれるのはとても新鮮でした

愛甲恵子さん(以下、愛甲):2022年の3月ぐらいにJBBY(日本国際児童図書評議会)がオンラインイベントを開催したんですが、そこで、「ペルシア語の単語を音だけ聞いて、どんな意味なのか当ててみましょう」というお題があったんです。そこでの堀川さんのお答えが最高だった!

堀川:ふふっ。ペルシア語の「ゴンジェシク」って単語の意味を、イメージだけで当てなければならなくて。考える時間、3分くらいしかなかったんですが、ない知恵をくるくるくるって回転させて、ウサギが自転車に乗って川を下っている絵を描いたんです。

それで「これはイランのことわざです」と申し上げました。「不可能なことを可能にするという意味のことわざで、困ったことや大変な問題が起きたときに、イランの人たちは『ゴンジェシク!』と言う。気合を入れる言葉としてよく使われている……」と。嘘八百がすぎるんですけど!

愛甲:その斜めというか、反対側からきたようなお答えに感動して「この人すごい!」って。それまで絵を描かれる方というイメージでしたが、言葉の使い手としてもとても気になる存在になりました。ちなみに「ゴンジェシク」っていうのは、ペルシア語で「すずめ」という意味です。

堀川:全然違いましたね!(笑)

愛甲:そんな堀川さんならモルテザーの絵に素敵なお話をつけてくれると思いました。また、堀川さんは絵本作家のほか、画家としても活動されている。二つの表現の在り方をよく知っている方なので、画家であるモルテザーの感性にも近い部分があるかもしれないなと。

正方形の絵だからこそ描いた、内面の世界。

──絵本の制作では、文章から始まることのほうが多いですが、今回は、正方形の中に馬たちが収まっている絵を50枚ぐらいお渡しして「自由にお話をつけてください」とお願いしました。とても難しいことをお願いしてしまったのですが……

愛甲:私ならそんな難しいこと、絶対無理って思いましたけどね。

堀川:難しかったです(笑)。でもすごく新鮮な喜びがわいてきました。普段見ている私の知っている絵とは全然違う色使いとフォルム。少しにじむ紙にペンで描いて、そのにじみを活かしながら描いている。楽しいし、きれいだし、心が伝わってくる。とてもわくわくしました。でも、お引き受けはしたけれど、実際どうやったらいいだろうと不安にはなりました。

──どんなふうに絵を選んでお話をつけていったんですか?

堀川:言葉をつけられそうな絵を1枚1枚選び出して、その絵に対して思い浮かぶ言葉を付箋に書いて絵に貼っていったんです。テーマは馬との旅なのか、もっと内面世界なのか。旅に関する言葉ならピンクの付箋に、内面だったらブルーの付箋という感じで組分けをしていきました。

そのうちに全部の絵が正方形の中で描かれていることが、制約の中で感じている内面的なことのように思え始めました。正方形の中は、体の中に充満している自分の内側の思いだとしたら。そこで女の子の心の中を表す言葉をたくさん書き出すようになりました。

──物語は、馬がほしいなと思っている女の子のところに、馬たちが本当にやってきた、というところからお話がスタートしますね。馬と女の子のやりとりがとても愛おしいです。

堀川:女の子と馬のお話で、イマジナリーフレンドではない、女の子が本当に実在感をもって馬と関わる物語ができないかなって思い始めたんです。

愛甲:すごい、こんなふうに馬と遊べるんだって思いました。馬たち自身もただ単独の絵として自由にしていただけだったのが、ふっとこっちを向いてくれた感じがして、自分のなかでも、新しい馬との関係ができた気がしました。

こんなにすてきなお話だから、モルテザーが気に入らなかったら、全部翻訳のせい。ものすごく緊張しました。でもすぐ返事がきて「すごいね」って彼も言ってくれたので、安心しました。

堀川:やっぱりモルテザーさんの絵の力って大きい。土俵が大きいというか、懐の深い、いろんな言葉のイメージを受け入れてくれる絵だったと思います。
堀川さんがカットとして描いてくださった女の子の絵。はく靴下や、編んでいるマフラーには、馬たちのようなしましまが。

「特別な意味を持たせたかった、バラのページ」(堀川)

原宿の絵本喫茶「SEE MORE GLASS」では、馬たちの原画を展示しました(展示期間は終了)。紹介のパネルにも、バラの絵が印象的に配置されています。
堀川モルテザーさんと愛甲さんの信頼関係がすごいなと思います。まとまった50枚の原画を人にたくすなんて、なかなかできないことだと思います。

愛甲:彼との付き合いは20年ぐらい。この馬の絵は、たしか4~5年くらい前に預かったんです。「いつ展示してもいいから」と言われていたんですけど、今回のお話をモルテザーに話したら「ぜひやりたい、面白そうだね」って言ってくれて。

──愛甲さんの翻訳も素晴らしかったです。

愛甲:物語の中で女の子が「でたらめの歌」を歌うところがあるんですけど、「でたらめ」というのはペルシア語に訳すと「チャランドパランド」という言葉になるんです。音の感じが日本語の「ちゃらんぽらん」と似ていますよね。「これはチャランドパランドが使えるところだ」って、とてもうれしかったです(笑)。

堀川:きっとシルクロードを通って、「チャランドパランド」がペルシアの風といっしょに伝わってきたのかもしれませんね。

愛甲:物語の最後をモルテザーがすごく気に入っているんです。「ねぇねぇ、今年最初のバラが咲いたよ」っていうテキストを、ペルシア語で直訳しただけなんですけれど、とてもリズムが良くて、ペルシア語としてもきれいな文章になった、素晴らしい終わり方だなと思いました。

堀川:いただいた50枚の中で、バラは馬以外の唯一具体的なモチーフでした。特徴的で特別だと感じたので、この絵はお話の最後に使いたいなって最初から考えていました。モルテザーさんもバラは特別だっておっしゃってましたね。

──モルテザーさんには直接お会いしていませんが、愛甲さんのおかげでつながって、心を通わせることができたかな、と思う瞬間がいくつもありました。とても幸せなページになりました。ありがとうございました。

「わたしの馬たち」は『さがるまーた Vol.1』に掲載!

ほりかわ りまこ

堀川 理万子

Rimako Horikawa
画家

1965年、東京都生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業、同大学院修了。絵画作品による個展を毎年開催するほか、グループ展、出版など幅広く活躍。絵本に『あーちゃんのたんじょうび』(偕成社)、『ぼくのシチュー、ままのシチュー』『くまちゃんのふゆまつり』(ともにハッピーオウル社)、『権大納言とおどるきのこ』(偕成社)、『おへやだいぼうけん』(教育画劇)、『アンニンちゃんとパオズ』(ポプラ社)、『ひみつだけど、話します』(あかね書房)、『海のアトリエ』(偕成社)では絵本として初の第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。絵を担当した絵本に『くるみわり人形』(石津ちひろ/文 講談社)、『花さかじい』(広松由希子/文 岩崎書店)などがある。

1965年、東京都生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業、同大学院修了。絵画作品による個展を毎年開催するほか、グループ展、出版など幅広く活躍。絵本に『あーちゃんのたんじょうび』(偕成社)、『ぼくのシチュー、ままのシチュー』『くまちゃんのふゆまつり』(ともにハッピーオウル社)、『権大納言とおどるきのこ』(偕成社)、『おへやだいぼうけん』(教育画劇)、『アンニンちゃんとパオズ』(ポプラ社)、『ひみつだけど、話します』(あかね書房)、『海のアトリエ』(偕成社)では絵本として初の第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。絵を担当した絵本に『くるみわり人形』(石津ちひろ/文 講談社)、『花さかじい』(広松由希子/文 岩崎書店)などがある。

あいこう けいこ

愛甲 恵子

Keiko Aiko
ペルシア語翻訳家

東京外国語大学大学院修士課程修了後、10ヶ月のイラン留学を経て、2004年より美術家フジタユメカとともにサラーム・サラームというユニット名で、イランの絵本やイラストレーターを紹介する展覧会などを開催している。訳書に『ごきぶりねえさんどこいくの?』(ブルース・インターアクションズ)、『ボクサー』(トップスタジオHR)、『ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が』『いろたち』(カノア)など。再話に『ノホディとかいぶつ』(福音館書店)、『アリババと40人のとうぞく』(ほるぷ出版)、『2ひきのジャッカル』(玉川大学出版部)。

東京外国語大学大学院修士課程修了後、10ヶ月のイラン留学を経て、2004年より美術家フジタユメカとともにサラーム・サラームというユニット名で、イランの絵本やイラストレーターを紹介する展覧会などを開催している。訳書に『ごきぶりねえさんどこいくの?』(ブルース・インターアクションズ)、『ボクサー』(トップスタジオHR)、『ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が』『いろたち』(カノア)など。再話に『ノホディとかいぶつ』(福音館書店)、『アリババと40人のとうぞく』(ほるぷ出版)、『2ひきのジャッカル』(玉川大学出版部)。

げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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