「虫嫌いでもいい でも子どもの可能性は奪わないで」親の昆虫嫌がわが子に与える悪影響を専門家に聞いた
こんちゅうクンに聞く「夏休みにやりたい“虫育”」#2 ~虫嫌いを克服するには?~
2023.07.27
磐田市竜洋昆虫自然観察公園館長:こんちゅうクン
大人から子どもまで、幅広い世代に昆虫のおもしろさを伝える活動を各地で展開しています。人気は本物をさわって捕まえて五感を育む昆虫体験。
とはいえ、「昆虫はどうしても苦手……」という人も少なくありません。なぜ虫嫌いになるのでしょうか。
保育士でもある「こんちゅうクン」に、子どもの育ちに関わる虫嫌いが生まれる仕組みについて伺いました。
北野伸雄(きたののぶお)。1985年生まれ。磐田市竜洋昆虫自然観察公園館長。幼いころから昆虫が好きで、九州大学農学部生物資源環境学科で昆虫について学ぶ。2014年より磐田市竜洋昆虫自然観察公園(静岡県磐田市)に勤務し、2020年館長就任。静岡県内外での出張授業や講演活動を通して、子どもから大人まで幅広い世代に昆虫の魅力を伝える活動を展開している。
親の顔色を見て虫嫌いに?
親が虫嫌いだと、「家に持ち帰らないで」「さわっちゃダメ」とついつい子どもにネガティブな発言をしてしまいがちです。
子どもたちから絶大な人気を誇る静岡県の磐田市竜洋昆虫自然観察公園の名物館長「こんちゅうクン」こと、北野伸雄さん(37)は、これまでに1万人以上の子どもたちに昆虫の魅力を伝えてきました。
虫嫌いを克服する子どもたちを目の当たりにする中で、大人たちの虫への嫌悪感の影響を感じるといいます。
「虫を嫌う理由としては、都市化による虫への知識不足や、感染症回避の影響だとも言われていますが、それ以外にも親の顔色を見て嫌悪感を抱くということもあります。
これを『社会的参照』というのですが、未知の出来事が起きたとき、周りの反応を見て行動を決定します。身近な大人が虫に対してあからさまな嫌悪感を示したとき、子どもも嫌悪感を抱きます。
僕は以前、ハンバーガーのピクルスが苦手でした。これはまさに社会的参照の影響で、母がピクルスを抜いて食べていたからでした。でも大人になったあるとき、食べてみたらおいしかったんです。
虫嫌いが生まれる原因と一緒ではないかと。大人が苦手というから子どもも苦手になるということも大いに有り得ます」(こんちゅうクン)
虫が苦手でもいい でも子どもへの影響を意識して
「保育士さんは若い女性が比較的多く、虫が苦手な方が多い印象です。でも小さい子どもほど虫について知りたがるし、さわりたがります。
その要望に応えられる昆虫に詳しい保育士はあまりいないなと思って保育士資格を取りました」(こんちゅうクン)
これまでにも虫嫌いの母親が「さわっちゃダメ」と子どもに注意するシーンを何度か見てきたそうです。
「毎年、うち(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)の昆虫館でゴキブリ展を開催しています。ゴキブリといってもいろんな種類がいて、美しいゴキブリもいるのですが、ふれあいコーナーで喜んでさわる子どもに、お母さんが『やめて!』と嫌悪感をあらわにしていました。
講習会で保育士さんたちによく話すことですが、『無理に虫を好きになる必要はない』と伝えています。その代わり、自分が子どもたちへ与える影響を自覚しないとダメですよ、とも伝えています。つまり、苦手でもいいけれど、リアクションや言葉に気をつけてほしいということです。
保育士や親が虫に対してネガティブな反応をすることで、子どもの判断能力を奪うことにつながりかねません。大切なのは自分で感じて、好きか嫌いかを子ども自身が決めるということです。決定権は子どもに持たせてほしいなと思います」(こんちゅうクン)
こんちゅうクンは小学校での出張授業や職場(竜洋昆虫自然観察公園)で、虫嫌いを克服する子どもたちを多数見てきました。子どもの虫への印象が変化する背景には、安全性の確認と正しい知識の取得があると分析します。
「目の前でみんながさわっていると、『さわっても大丈夫』という安全性が確認できますし、持ち方も確認できます。その虫の性質やエサといった知識があるとより安心できます」(こんちゅうクン)
大人もいっしょに成功体験を分かち合う
「『虫を見るのもダメなんですが、子どものためになんとかしたいです。どうしたらいいですか』と相談に来る人もいます。あるお母さんは塗り絵から始めることにしました。図鑑を見て昆虫の塗り絵をするそうです。本当にダメな人は、イラストや絵本から始めるといいと思います。
それから、うちの昆虫館では昆虫を美しく見せることにこだわっていて、立方体のきれいなケースに入れてライトを付け、見た目の美しさにもこだわっています。まず第一歩として、美しさという視点から昆虫に近づくのもいいかもしれません」(こんちゅうクン)