1万人以上の子どもが受けた“虫育”授業から学ぶ自己肯定感、非認知能力、命の尊さとは

こんちゅうクンに聞く「夏休みにやりたい“虫育”」#1 ~昆虫から学ぶこと~

磐田市竜洋昆虫自然観察公園館長:こんちゅうクン

クワガタメガネがトレードマーク。研究者という立場ではなく、虫好きの館長「こんちゅうクン」として子どもたちにの人気を集めている。磐田市竜洋昆虫自然観察公園(静岡県)にて。  写真:大石真弓
磐田市竜洋昆虫自然観察公園(静岡県磐田市)の大人気名物館長として、これまで1万人以上の子どもたちに昆虫の魅力を伝えてきた「こんちゅうクン」こと、北野伸雄(きたの のぶお)さん(37)。

保育園や小学校での出張昆虫教室、親子向け講演会など、昆虫のおもしろさや奥深さを子どもから大人まで幅広い世代に伝える活動をしています。

昆虫は子どもにとってどんなプラスの影響をもたらすのでしょうか。保育士資格も取得している「こんちゅうクン」に、昆虫✕子どもの魅力についてインタビューしました。
※1回目/全3回
こんちゅうクンPROFILE
北野伸雄(きたののぶお)。1985年生まれ。磐田市竜洋昆虫自然観察公園館長。幼いころから昆虫が好きで、九州大学農学部生物資源環境学科で昆虫について学ぶ。2014年より磐田市竜洋昆虫自然観察公園(静岡県磐田市)に勤務し、2020年館長就任。静岡県内外での出張授業や講演活動を通して、子どもから大人まで幅広い世代に昆虫の魅力を伝える活動を展開している。

子ども✕昆虫が生み出すスゴいチカラ

クワガタメガネにクワガタの麦わら帽子とリュックがトレードマーク。独特の風貌で子どもたちから大人気の磐田市竜洋昆虫自然観察公園(静岡県磐田市)の大人気名物館長「こんちゅうクン」こと、北野伸雄さん(37)。

2014年より昆虫を介して1万人以上の子どもたちと直接ふれ合ってきました。こんちゅうクンが“登場”してからの6年間で、知名度は急上昇。「あっ! こんちゅうクンだ」と行く先々で子どもたちに囲まれる人気ぶりです。

保育士資格も有するこんちゅうクンは、ただ昆虫の知識を伝えるだけでなく、子どもたちの心の成長のきっかけになる体験を心がけてきました。昆虫を「さわれた」「捕まえられた」という体験は、子どもたちの心にどんなことをもたらすのでしょうか。

「必ず盛り上がるのが本物体験です。毎回、昆虫は頭、胸、腹に分かれているんだよ、という話をするのですが、実際に本物のダンゴムシやカイコ、クワガタを見比べて、さわって違いを体験してもらいます。そこでさわれたこと、つかんだことが、感動や成功体験につながります」(こんちゅうクン)

たった45分の授業で虫を克服した子も

「さわれた」という自信の積み重ねは、自己肯定感にもつながります。虫に苦手意識を持っていた子どもほどその影響力は大きいそうです。

「僕は全員が虫を好きになる必要はないと思っています。でも仲間と体験することで、昆虫が好きになれる子はたくさんいて、そのうれしさを表現する子どもたちをたくさん見てきました。

ある小学校の授業で、僕が昆虫を出した瞬間、泣き出した3年生の女の子がいたんです。苦手な子には『無理しなくていいよ』といつも言っているんですが、たった45分の授業内で劇的に変化しました。

自分からさわるほど昆虫が好きになり、授業が終わるころには飼い方の質問までしてきたんです。苦手だった子ほど『さわれた』『捕まえられた』の喜びは大きくて、僕に『見て見て!』と声を掛けてきてくれるんです」(こんちゅうクン)

ゲームでは分からない! 本物体験で知る力加減

こんちゅうクンが重視している本物体験には、バーチャルな世界の遊びに没頭する子どもたちへの懸念があるからです。非認知能力を育むきっかけになれば、との思いが込められています。

「僕が昆虫にのめり込んだきっかけは、小学6年生のときに出会った理科の先生の存在でした。

今でも付き合いがあるのですが、その恩師が『最近の子はonとoffしか知らない』とぽつりと放った言葉がとても心に残っていて。つまり、0か100しか知らない子が増えた、ということなんです。

ゲームで虫を捕まえるとなると、ボタンを押すだけ。でも実際に捕まえたりさわったりするには、いろんな加減を微調整する必要があります。

例えばイモムシをさわる場合、強くつかみすぎると死んでしまいます。カブトムシだったら100の力でもいいかもしれない。

でも60%の力でそっと持たなくてはいけない虫もいます。オケラはもうちょっとつかんでいいとか、ちゃんとつかまないとクワガタに挟まれる、カマキリはここを持つと大丈夫だとか、虫の種類によって力加減や持ち方は全然違います。そういうことを本物にふれることで体験してもらいたいです」(こんちゅうクン)

嗅覚も味覚も! 豊かな育ちを促す五感体験

ゲームではおもに視覚や聴覚が大きく刺激されますが、本物の昆虫に関わる遊びは五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を刺激するため、豊かな育ちにつながりやすくなります。

見つける(視覚)、鳴き声を聞く(聴覚)、さわってみる(触覚)のほかに、においを嗅ぐ(嗅覚)や、味わってみる(味覚)という体験も可能です。

「今の季節ならまず樹液のにおいですね。樹液のにおいがすると、近くに樹液を好む夏の昆虫がいるかもしれません。アゲハチョウの幼虫を捕まえれば独特のにおいを出しますし、アメンボは甘いにおいがします。

特定のにおいによって古い記憶を思い出させることはよくあるので、僕は今でもアゲハチョウのにおいをかぐと子どものころを思い出します。

味覚はいま流行りの昆虫食ですね。うちの昆虫館では昆虫食の体験講座も開催しています。これで五感全部そろってしまうんです」(こんちゅうクン)

じつはこんちゅうクンは1歳10ヵ月(2023年7月時点)の子を育てるパパ。早くもアリやチョウチョ、テントウムシ、クワガタを判別できるわが子から、昆虫✕子育ての魅力を改めて学んでいるといいます。

「1歳でも幼虫、成虫の区別はできるようで、最近うちの子はチョウチョの幼虫を見て『チョウチョ』と言うようになりました。さらに毒がある、刺される、挟まれるなど高度な判断基準も教えますし、学びます。

絵本や図鑑で見たものと、現実で見たものをリンクさせる体験がしやすいのも魅力です。ライオンだと動物園にしかいませんが、昆虫はそこら辺にいる身近な存在ですから。

昆虫好きの子はカタカナを覚えるのが早いという話はよく聞きますね。図鑑から自然と覚える子が多いようです。

運動能力にも寄与します。バッタを捕まえるために、アスファルト以外のでこぼこ道も走ります。危険がなければ草むらも走ります。虫を追いかけるうちに、うちの子は転んでも受け身がうまくなりました」(こんちゅうクン)
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