【昆虫採集の聖地】高尾山で本気の虫とり! 珍しいヘビそっくりの幼虫を発見!

[ちょっとマニアな季節の生きもの]昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

昆虫研究家:伊藤 弥寿彦

高尾山(昼の部)で見つけた昆虫を紹介します!

さて、この生きものはなんでしょう?
2024 年8月3日(土)から4日(日)にかけて、MOVE ラボ研究員の皆さんと一緒に昆虫採集・観察会を行いました。場所は東京の高尾山。高尾山は古くから虫屋にとって昆虫採集の聖地として知られる場所です。以前から一部の研究員の人たちから「昆虫採集に行きたい!」という声があったのですが、コロナウィルス蔓延による自粛のせいで、ずっと開催できずにいました。

今回、ようやくみんなで自由に動けるようになり、満を持してのフィールド採集会となったわけです。8月に入り、東京の日中の気温は時に35度を越えるような危険な暑さだったので、どのようなメニューにしようか悩みましたが、結局「昼の虫」と「夜の虫」の両方を楽しんでもらおうと、2部制にすることにしました。

第1部は「昼の虫」探しです。夜の活動もあることを考えて、ちょっと遅めの午後2時に京王線「高尾山口駅」で待ち合わせとしました。ひであき君(17)、れいいちろう君(11)、ゆうま君(9)、はると君(9)、ゆのさん(7)がそれぞれお父さまやお母さまと一緒に参加、そしてMOVE 編集長の佐藤華さんが来てくれました。
目的地に到着し、全員が車から降りてまずは記念撮影
これからの行動やネット(網)の使い方など説明しようとしたとたん、大型のトンボが飛んできました! はると君が素早く反応して、見事ネットイン!
コオニヤンマでした
コオニヤンマは黒と黄色の縞模様のパターンがオニヤンマによく似ていますが、頭がずっと小さいことで区別できます。はると君、他の人たちよりも小さな網でよく採ったなぁ! 念のため、助手のひであき君が持っていた「三角紙」に包んでキープです。
森の中へ続く道を進みます
四角いのはビーティングネット(たたき網)
日陰に入るともうヒグラシが鳴いていました。いきなり大型のチョウが飛んできました! モンキアゲハです。みんなネットを振りますが、チョウは次々と襲いくる網をたくみにすり抜けて飛んでいってしまいました。残念!

でもこれはよくあること。そう簡単には採らせてくれません(笑)。

前日の雨のせいでしょう。未舗装の道には所々に水たまりができていました。目をこらすと湿った土の上で黒いアゲハがとまっています。オスのカラスアゲハが吸水していたのです。

気配を消してそ~っと近づく、れいいちろう、はると、ゆうとの3人。
地面で水を吸うカラスアゲハを発見!
飛んだ!
捕まえた?
美しいなぁ。みとれるれいいちろう君
今度は見事に、れいいちろう君が採りました。この日は、クロ、カラス、モンキ、オナガと黒いアゲハチョウを4種類見ることができました。
オナガアゲハ(伊藤採集)
私(伊藤)の専門は、カミキリムシです。「昼の部」の第一の狙いは「イッシキキモンカミキリ」と定めました。体長1.5cm ほどで黒と黄色のコントラストが美しいカミキリです。成虫はクワの葉を食べるのですが、幼虫は枯れたヌルデの木を食べるようで、この虫を探すひとつのポイントは、クワとヌルデが1ヵ所にセットであることです。

木下沢林道には川沿いにクワの木が多く所々ヌルデもあります。クワの木を見上げていくと、確かにイッシキキモンがいる証拠がありました。葉に細い線のような穴が空いていて、これがイッシキキモンの成虫が食べた痕。「食痕」といいます。
クワの葉についたイッシキキモンカミキリの食痕
目を皿のようにして探しましたが、残念ながら今回イッシキキモンカミキリは発見できませんでした。いることは確かなのですが見つからない。虫採りにはこういうこともよくあります。代わりにクワを食べるカミキリムシが2種類いました。普通種ですがキボシカミキリクワカミキリです。*それぞれどんな虫なのかは是非、「図鑑MOVE・昆虫」で確認してください。
クワカミキリをゲット
カミキリムシは日本に700 種類以上いますが、種類によって食べる植物がたいてい決まっています。だから植物の種類がわかると狙ったカミキリを見つけるのに役立ちます。川沿いにカラムシという草の群落がありました。カラムシはラミーカミキリが食べる植物です。ラミーはすぐに見つかりました。美しく愛らしいカミキリムシです。
カラムシの葉上のラミーカミキリ
長い竿、大きい網で木をすくって採る
ゆのさんは、ゴミムシダマシの仲間のキマワリを採りました。黒くてピカピカしていてかわいいね。
キマワリ採ったゆのさん!
道脇の斜面に赤い実をつけた不思議な植物がありました。テンナンショウの仲間(恐らくミミガタテンナンショウ)です。その葉に奇妙なイモムシがいるのをはると君が見つけました。
ミミガタテンナンショウにいた幼虫
ヘビのようなビロードスズメの幼虫!
これはスゴい! ヘビに擬態しているとしか思えないビロードスズメという蛾の幼虫です。目玉模様に鱗のような体の模様。まるでヘビが鎌首をもたげているような姿です。テンナンショウはサトイモの仲間で、葉にはシュウ酸カルシウムという毒が含まれています。

人間は絶対に生で食べられません。それをこのビロードスズメの幼虫はムシャムシャと美味しそうに食べてしまうのには驚きました。
涼しい沢に下りて虫探し
夕方5時過ぎまで、2時間半ほどの短い間でしたがいろいろな昆虫に出会うことができました。やはり自然の中に身を置いて、生きている虫を自分で探し、捕まえて、触ってみる、それが何より楽しいことを感じてくれたのではないかと思います。(夜の部につづく)
写真提供/伊藤弥寿彦
いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。