夜の高尾山で歓喜!【昆虫採集の聖地】で超珍しい昆虫をゲット!

[ちょっとマニアな季節の生きもの]昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

昆虫研究家:伊藤 弥寿彦

高尾山(夜の部)で見つけた昆虫を紹介します!

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裏高尾の木下沢(こげさわ)林道で昼の虫の採集・観察をした後は、いよいよ第2部「夜の虫」探しです。ここから参加する人たちとは午後6時に高尾山のふもと、標高201mにあるケーブルカー清滝駅前で待ち合わせとしました。

はると君とゆのさんの親子は昼の部だけの参加となりましたが、ここから新たにしんご君(12)親子とりょう君(11)、がく君(7)兄弟とお父さまが仲間に加わります。午後6時45分発のケーブルカーに乗り込み、山の上へ向かいます。
ケーブルカーに乗り込みます
高尾山ケーブルカーの傾斜角度は最大31度18分。日本一急な斜面を登るケーブルカーです。椅子に座っても前のめりになる状態で約6分、標高472mの高尾山駅に降り立ちました。山の上では夏の間、ビアガーデンが開かれていて、夜9時15 分までケーブルカーが動いています。時間は丁度日暮れ時。太陽が西の空に沈みゆくところでした。
午後7時西の山に日が沈む
活動前に夜の部参加者で記念撮影!
夜の部参加のMOVE ラボ研究員たち
大人も一緒に全員集合
さて、これからどうやって虫を探すかというと……ケーブルカー高尾山駅から山頂(標高599m)まで続く道は、途中まで薬王院というお寺の参道になっていて、一晩中、点々と明かりがついています。その電灯に引き寄せられてくる虫を探して採るのです。

高尾山は、スダジイやカゴノキなどの南方系とマタタビやブナなどの北方系の植物が両方見られる非常に面白い山で、タカオスミレやタカオヒゴタイなどここで発見された植物もたくさんあります。植物の種類が豊富ということは、昆虫もそれだけ豊富ということ。

ここには何千種類もの昆虫が生息しています。幸い高尾山での昆虫採集は今のところ禁止されていないので、安心して虫採りができます(人が目で見つけた昆虫をいくら採集したところでその虫が絶滅するようなことはありません)。*ただし、人の迷惑になるのでケーブルカー営業中に駅構内で網を広げるのは禁止です。

私(伊藤)は、1990年から2000年代にかけては夏になると毎年のように、虫友や家族と一緒にこの高尾山ナイター採集をしていました。最終ケーブルカーで山の上に上がって一晩中、明かりに来る虫を探すのです。私たちの目的はいつも珍品、ヨコヤマヒゲナガカミキリを採ることでした。

ヨコヤマヒゲナガは、体長約35ミリほど。ゴマダラカミキリと同じくらいの大型のカミキリで、ブナとイヌブナに依存しています。高尾山はこのカミキリが生息している東京の都心から最も近い山なのです。因みに私は何十回も通ってこれまで2回オスを採ったことがあるだけ(そのうち一回は息子が採集。笑)です。

今回も目標は一応このヨコヤマヒゲナガカミキリとしました。一応と言ったのは、はなから誰も採れるはずはないと思っていたからです(笑)。さぁ、何が見つかるか? みんなヘッドランプや懐中電灯を片手にわくわくしながら参道を進んでいきます。
参道の明かりを見回る
次々と現れる虫にみんな大興奮
辺りが暗くなると、明かりに向かっていろいろな虫が飛び始めました。ウスバカミキリノコギリカミキリホソカミキリなどが次々と見つかります。
ノコギリカミキリ(メス)
メスでしたがアカアシクワガタミヤマクワガタも採れました。アゲハモドキはまるでチョウのような蛾! 体の中に毒を持ち、鳥が食べることのないジャコウアゲハに擬態しています。今回私が驚いたのは山の上で起こっていた「ナラ枯れ」でした。

ここ10 年ほどカシノナガキクイムシという小さな甲虫が全国的に大発生して、カシやナラの仲間を枯らしているのですが、高尾山にも確実に入りこんでいて、樹齢100 年を越えるようなコナラの大木がほとんど枯れかけていました。
アゲハモドキ(蛾)
そのせいでしょう、衰弱したコナラやクヌギを好むキマダラカミキリアカアシオオアオカミキリ(昔はほとんど見られなかった)が大発生していました。ナラ枯れによって一時的に激増する虫が他にもいろいろといそうです。
ヘッドランプに飛んできたキマダラカミキリ
大きな羽音が闇を切り裂きました。ヘッドランプの光を当てると巨大なカミキリの影! すかさず網ですくいます。シロスジカミキリのメスでした。
何採ったの?
巨大なシロスジカミキリのメス
シロスジを持ってご満悦のれいいちろう君
私が子供のころは東京近辺の雑木林に普通にいた虫ですが、最近はすっかり姿を見なくなりました。れいいちろう君が持って帰りましたがうまく標本にできたかな?

ベンチでくつろいでいた私に電話がかかってきました。誰かがヨコヤマヒゲナガを採ったというのです。半分信じていなかったのですが、現場へ行ってみるとしんご君がニコニコしていました。
ニコニコ顔のしんご君
捕獲ビンの中を見せてもらうと、紛れもないヨコヤマヒゲナガカミキリ! しかもメスです。明かりに飛んでくるのはほとんどがオスで、メスは滅多に見つかりません(メスは、ブナやイヌブナの根元にいることが多くそれを探します)。

しんご君、エラい!
幻の?ヨコヤマヒゲナガカミキリ(メス)
ヨコヤマをゲットして誇らしげな親子
それにカミキリ屋の定説?として、ヨコヤマヒゲナガは深夜0時を越えた真夜中に採れることが多い。しんご君が採ったのはまだ8時過ぎだったと思います。何事も常識に囚われてはいけませんね。

何組かの親子は下りのケーブルカーが動いている午後9時半までにケーブルカーでふもとへ降りていきました。残ったのはれいいちろう君、しんご君親子と佐藤編集長。夜も更けて、お腹がすいたところで佐藤さんが持ってきたガスバーナーでお湯を沸かしてスープを作り、ウィンナーを焼いて振る舞ってくれました。
休憩タイムにウィンナーを焼く佐藤編集長
山の上でみんなで食べる熱々の食事。最高に美味しかったですね。
最後まで残ったメンバー
人影が少なくなった山では「グルルルル~グルルルル~」とムササビの声が聞こえます。

残念ながら今回は見られなかったけれど高尾山にはムササビが数多く生息していて、私は何度も観察しています。一度など、頭上でムササビとアオダイショウが絡み合っていて、夢中で見ていたらそのアオダイショウが目の前にドスンと落ちてきたこともありました。朝まで夜明かししてもよかったのですが、今回は午前0時すぎに山を下りることにしました。

帰りは一号研究路を歩いて下ります。真っ暗ですが、この道は舗装されており、ライトさえあれば安心して下りられます。途中、木のベンチに美しいガが止まっていました。ハグルマトモエ。その名のとおり、上ばねの「巴模様(ともえもよう)」が美しいガです。
ハグルマトモエ
木の洞を除くと、見事な「ゲジゲジ」がいました。正式な和名はゲジ。ムカデやヤスデのように足がたくさんある「多足類(たそくるい)」です。不気味な姿で嫌われがちですが、よく見れば美しい。この青いゲジ、何かを食べているように見えました。
下山途中で見つけた青いゲジ
れいいちろう君としんご君に光を当ててもらい、写真を撮ろうとして気づきました。「あっ!これ脱皮中だ!」
食べている獲物かと思ったのは脱皮殻でした。普通は茶色いゲジが青っぽかったのは脱皮中で、まだ体が柔らかく、充分に固まっていない状態だったからでした。森の中ではそこら中で私たちの知らない世界が広がっていますね。
脱皮中だった!
8月4日午前2時、ようやく山から下りて、高尾山口駅前駐車場で解散。長かった一日、みんな疲労困憊したと思いますが、楽しい夏の思い出がひとつできました。
写真提供/伊藤弥寿彦
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いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。