【古生物学者調査記】アンモナイト化石を見つけるコツは?イギリスの化石産地を巡る旅

【古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ】イギリス編① (3/3) 1ページ目に戻る

古生物学者:相場 大佑

フィールドワークで発見したアンモナイト

この日見つかったアンモナイトを順番に紹介していきましょう。

スカファイテス

異常巻アンモナイト「スカファイテス」の化石と生体復元図
こちらも異常巻アンモナイトの一種、スカファイテスです。途中まで普通のアンモナイトと同じように巻きますが成長の最後だけ巻きがふんわり解けて、全体が数字の9のような形になります。成体でもあまり大きくならない、優しい曲線の可愛らしいアンモナイトです。

ツリリテス

異常巻アンモナイト「ツリリテス」の化石と生体復元図
まるで巻き貝のように見えますが、これも異常巻アンモナイトの一種で、ツリリテスと呼ばれる種類です。殻にイボのようなものがたくさん並んでいることが特徴です。このイボは防御などに役立っていたという説がありますが、詳しいことはあまりよくわかっていません。
スキポノセラス、スカファイテス、ツリリテスはいずれも日本の北海道などでもよく見つかる種類です。遠く離れたイギリスと日本から同じ種類が見つかるのは、白亜紀セノマニアン期は地球全体が温暖な気候であったため浅海が広く続いており、これらのアンモナイトが生息分布を広げやすかったためかもしれません。

しかし、次に紹介するのは日本では見つからない種類です(日本で見つからない理由はよくわかりませんが、前の3種よりももっと温暖な海を好んでいたのかもしれません)。

シューレンバキア

正常巻アンモナイト「シューレンバキア」の化石と生体復元図
シューレンバキアという種類で、前の3つと異なり、きちんと巻いたいわゆる「普通の」アンモナイトです。

殻表面にたくさんの凸凹とイボのようなものが並んでいます。この種類が面白いのは、同種の中で「個性」の差が非常に大きいということです。殻が膨れ横幅が広く、突起がごつごつと発達した「マッチョさん」から、殻が細く、突起が弱い「ほっそりさん」までさまざまな個体が見つかっています。

今回見つかった個体は、マッチョでもなくほっそりでもなく、平均体型に近いものでしょうか(正確にはたくさん集めて並べてみないとわかりませんが)。アンモナイトも生物なので私たち人間と同じように個性があって当然ですが、そのことを思い出させてくれる種類です。
他には、二枚貝によく似た、でも全く異なる腕足動物の化石や、食べると美味しいウニの化石なども見つかりました。

温暖で大量の植物プランクトンが漂い、当時の海中にさまざまな種類のアンモナイトが泳ぎ、海底では二枚貝や腕足動物、ウニなどの海洋生物が生息していたのでしょう。そんな豊かな白亜紀の海の情景が次第に浮かんできました。

イギリスのアンモナイト化石調査はつづく

調査旅行は最高の滑り出しとなりました。もう少しここで化石探しを続けたい気持ちに後ろ髪をひかれながら、日が暮れる前に次の目的地へと出発しました。

※化石産地についての個別の質問等にはお答えできません。また、定められたルールに従い、野外調査を行なっています。
写真・文/相場大佑

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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 主査研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現所属。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに3種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 主査研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現所属。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに3種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。