いったい何のため!? カエルやバッタの死体を枝に刺す習性をもつ鳥とは?

【ちょっとマニアな季節の生きもの】サイエンスライター・柴田佳秀先生が見つけた生きもののふしぎ

サイエンスライター:柴田 佳秀

モズ(百舌鳥)が持つ面白い習性とは?

ハヤニエにされたコバネイナゴ
キャー!
ある日、子どもたちと昆虫調査をしていたときのことです。とつぜん、女の子が悲鳴を上げました。

いったい何事かと駆けつけると、女の子が木の枝を指さしておびえています。そこには、枝に体を串刺しにされて死んでいるバッタが! うわーっと思いながら近くの枝を見てみると、今度はカエルがぶっささっています。

あっちにもこっちにもたくさんの死体が枝に刺さっているのです。いったい誰がこんな残酷なことをしたのか。ちょっと背筋が寒くなるホラーな感じで怖くなります。
じつは、これ、鳥のしわざ。モズという小鳥が捕らえた獲物を枝に刺していたのです。

モズは、全国で普通に見られる全長20cmほどの小鳥で、嘴の先が鋭く曲がっているのが特徴。食べものは昆虫やトカゲなどで、ときにはスズメを捕ることがあり、小さな猛禽とも呼ばれます。
クビキリギリスを捕まえた

何のために獲物の死体を枝に刺しておくの?

モズが捕った獲物を食べずに枝などに刺しておく習性を「ハヤニエ」と呼び、秋から冬にかけてみられる行動として昔から知られています。

しかし、なぜハヤニエを作るのか、その理由は長いあいだ謎でした。獲物を固定して食べる説、自分の縄張りを示している説など、いろいろ言われてきましたが、最新の研究で食べものを貯えるための行動だということがようやくわかってきました。

また、ハヤニエを作るのは今のところオスしか見られないこともわかっています。いったいどうしてオスはハヤニエを作るのでしょうか。
ハヤニエをする若いオス

早口はできる男の証なのだ

オスしかしない行動ということは、やはりこれは恋愛に関係しそうです。オスはとにかくメスにモテるのが命ですから、きっとそのための作戦に違いありません。そこで鳥類学者の西田博士は、さまざまな実験をしてそれを確かめました。

モズのオスは、メスにプロポーズするときにラブソングを歌います。そのラブソングは、短い時間に細かい音がたくさんあるほうがメスにうけるそうです。とにかく早口で歌うオスがいいのです。そこで、早口とハヤニエの数に関係があるか西田さんは調べました。

するとハヤニエの数が多いほうが早口になっていることがわかったのです。

では、なぜハヤニエがたくさんあるほうが早口になるのでしょうか。それはハヤニエを食べてパワーがついたから。

モズの求愛時期は1月から2月の寒い冬。バッタやトカゲなんかいませんよね。そこで秋にとっておいたハヤニエが栄養補給食として威力を発揮します。ハヤニエを食べて力をつけ、猛烈な早口でメスにアピールするのです。

また、早口で歌えるオスは、ハヤニエがたくさん作れる能力、すなわち獲物を捕るのが上手なことを示しています。早口ソングはできる男の証明なんですね。たくさんのエサが捕れるオスが旦那さんだったら、子どもたちがお腹をすかす心配がないので、奥さんは嬉しいですよね。ですから、もし、ハヤニエを見つけたらそのままにしておいてください。大切な栄養補給食なのでなくなったらオスは困りますから。けっして怖い物ではないのでご安心を。
写真提供/柴田佳秀
しばた よしひで

柴田 佳秀

Shibata Yoshihide
サイエンスライター

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。