正解がない時代を生きるためにやっておきたい「思考実験」って何?

論理的に自分で考える子どもに育てるために

昨今、教育業界で「論理的思考力」が注目されています。
今、大注目の論理的思考力を伸ばしながら、自分の意見や考えを持てるようになるトレーニングに「思考実験」と呼ばれるものがあります。
『思考実験ドリル』(11/13刊行、講談社)の著者である北村良子さんに、インタビューし、思考実験の面白さを聞いてきました。
イラスト:伊藤ハムスター


───最近、「思考実験」というタイトルが付いた本を目にするのですが、思考実験とはどのようなものなのでしょうか?



(北村良子さん/以下、「北村」) 思考実験とは頭の中を実験室として行う思考による実験です。多くの場合、すぐに答えがわからないような問題が与えられて、それを実際に考えてみることで取り組むものです。実験という言葉が入っていますが、理科の実験のような道具は必要ありません。

有名な思考実験として、「トロッコ問題」というものがあります。この問題は、哲学者のフィリッパ・フットが提唱したものです。ハーバード大学の人気講義「白熱教室」でも取り上げられ、その講義は日本でもNHKで放送されました。

思考実験では、日常的なことも、非日常的なこともさまざまなことを実験することができます。考える人によって、細かな設定によって、答えが変わっていくところが魅力的だと思っています。


───1人の命も、5人の命も大切だし……。確かにこの問題とても奥が深いですね。こういった思考実験をするとどんな力が身につくのでしょうか?



(北村) 先ほどのトロッコ問題のように、思考実験の多くは正解のない問題です。「正解がないのであれば考えても意味がないのでは?」と聞かれることも多いのですが、生きていく中でぶつかる問題の多くは正解のない問題でしょう。

たとえば、「将来の夢」に正解はありません。一人一人が自分だけの答えとして「将来の夢」を持ちます。この夢が正解なんていう模範解答すら存在しません。自分でしっかりと考えて出した答えであることが大切になるのではないでしょうか。本当に考えなくてはいけない瞬間に考え、何かしらの答えを導く力をつけなくてはなりません。

また、思考実験では、どのように考えるかという論理的思考力が重視されます。昨今、注目されている論理的な力を育むこともできると考えています。思考実験を通して、自分なりに考えて、答えや意見、疑問を持つトレーニングを楽しく行うことができるのです。

子どものうちから思考実験を通して正解のない問題に繰り返し取り組むことで、大人になっても困らない力を身に着けることにつながると考えています。


───なるほど! 思考実験は子どもたちに身に着けてほしいと思う力を育んでくれますし、私たち大人もすぐにでもほしい力を育む万能ツールですね。一方で、今は考えることを面倒くさがる時代でもある気がしています。思考実験に現代的な意義があるとすればどのようなものでしょうか?


(北村) 何か疑問が見つかったとき、どうやって解決しますか。真っ先にスマートフォンでの検索を思い浮かべるのではないでしょうか。指先でいくつかの単語を入力して、検索ボタンを押すだけで何かしら答えが出てくるのですから、とても便利です。タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉が生まれた現代社会に、スマートフォンの検索が好まれるのは自然な流れのように思えます。

一方で、スマートフォンでの答え探しに慣れてしまうと、自分で考えるという脳の大切なスキルを使う機会が減っていきます。たとえば、算数の問題に、考えもせずに答えを見てしまう行動に似ています。脳は使えば使うほど能力を増していきますから、脳の成長の機会を奪ってしまっているとも言えるのです。

いざ、検索しても正解が見つからない問題にぶつかったとき、重要になるのは自分の頭で考える力です。思考実験を使って自分の頭で考えることで、自分の答えや自分の意見を探し出す力を、楽しみながら身に着けることができます。
───本当に大切なことは調べても見つからないものだと思います。そうしたものに出会うためにも自分の頭で考えることを習慣化したいですね。最後に、おすすめの思考実験を教えてください。


次の問題は刑法37条1項に規定されている「緊急避難」の例としてよく使われています。きれいごとが語りづらい状況で皆さんはどんな判断やふるまいをするでしょうか?
イラスト:伊藤ハムスター
次の問題は有名な「テセウスの船」という思考実験です。同じとは何かを考える思考実験で、哲学の世界でも多くの人が考えている難問です。
イラスト:伊藤ハムスター
2問とも正解のない思考実験です。スマートフォンを置いて、ゆっくりと考えることを楽しんでみませんか。