部屋の広さより刺激‼ 脳科学者が明かす、「子どもの脳」を伸ばす住環境

脳科学者・細田千尋先生に聞く「子どもの脳」が伸びる家庭環境の整え方 #1 「子どもの脳」が家でのびのび成長する環境はどう作る?

医学博士・認知科学者・脳科学者:細田 千尋

脳科学者・細田千尋先生。2022年4月から、東北大学加齢医学研究所及び、東北大学大学院情報科学研究科の准教授に。  撮影:森﨑一寿美

「部屋の間取りや広さよりも、子どもの興味を引き出すものを、子どもの注意を引くように置いているかが、子どもの脳を伸ばすポイントかもしれません」と話すのは、脳科学者であり、東北大学加齢医学研究所及び、東北大学情報科学研究科准教授の細田千尋先生。

前回、「脳科学的に考える子どものならいごと」の連載では、子どもの年齢が上がるとともに脳も成長していき、ならいごとをスタートさせる時期や選び方にも影響があるということをお話しいただきました。

今回は、「子どもの脳」が伸びる家庭環境の整え方について細田先生にお聞きしました。第1回は、子どもの脳が家庭で伸びやすい住環境について教えていただきます。

(全3回の1回目)
※前回の細田先生の「脳科学的にみるならいごと」記事はこちら

子育て家庭の住環境に欠かせない要素とは

私も子育て中の母親として、住環境についてはよく考えます。ただ、住環境というと、家の広さや間取りといったことに注目しがちですが、実はもっと注意すべき要素があると考えています。

それは、子どもの脳を育てるために、“日常的にいろいろな刺激を用意できるか”ということ。

具体的に言うと、家の中や外に、子どもが手に取って動かしたり、自発的に行動がとれるような環境を設定しておくことが重要です。

例えば、マウスを使った実験ですが、ゲージの中に回し車や迷路など、脳の刺激となる装置を整えてあげると、マウスやラットの記憶力が上がるという結果が出ています。

また、装置を整えたゲージにいるマウスと、そうではないマウスとでは、脳梗塞になった後の脳細胞の壊死の度合いが全然違ってくる、という研究報告もあります。

これは、周囲に刺激や体を動かすものが常にある場所にいると、その刺激によって脳の神経細胞のニューロンが新生されやすいからと考えられます。脳の中で、情報処理や伝達を担当するニューロンは、新しく作り出される場所が決まっており、そのうちの1つが海馬だとされています。

海馬は、記憶や学習などに関係がある場所なのですが、海馬で新生するニューロンは、刺激によって生み出されやすい。だから体を動かし、脳を刺激する環境を整えていると、ニューロンの新生を促し、記憶や学習の定着につながってくると考えられるのです。

ですから、体を動かすようなおもちゃや、刺激となる装置が、小さなお子さんの身近なところにあると、脳の成長を促しやすいと言えるでしょう。

あくまでも「これをやりなさい」と強制するのではなく、お子さんが手に取りやすく、興味を持ちやすいものを周りに配置してあげること。自発的にそれで遊ぶように促す、ということが大切です。

脳の集中を引き出す色、安定をもたらす色

そのほかに、住環境に関連する話題としては色彩論があります。

例えば、赤は集中力を高めると言われているので、細かい作業をするときには、赤を見えるところに置くと集中するでしょう。赤はちょっと刺激が強すぎる、という方には、オレンジを見えるところに置いてもやる気が出るとも言われています。

逆に、ブルー系の色をカーテンや壁紙などに使うと、心を落ち着かせる効果があるので、子ども部屋はブルーで統一してあげるとよいという話も聞きますね。

他にも色彩論を使っている例として、少し特殊な話なのですが、スイスの刑務所に、ピンク色の内装の部屋があるんです。というのも、淡いピンク色には、心を落ち着ける作用があるから。実際に淡いピンク色には、興奮や攻撃性を減退させる効果があることも実験によって実証されています。

ある研究では、興奮状態になっている3~4歳の子どもたちを、ピンクに塗られた部屋に入れると落ち着いて昼寝をする、就寝する率が上がるという結果も出ています。

こうした色彩の効果を、実際に社会で応用している例は、世界中にいくつも確認できます。お子さんの目に入る場所に、それらの効果を考えて色を配置してみるのもよいかもしれませんね。

家の外の環境も重要!? 遊びをクリエイトできる場所へ子どもを放り込む

子育てに適した環境を考える上では、家の外も重要です。空間認知機能は、知能の中でも重要な要因で、体育のような運動はもちろんですが、算数や数学などにも関連する能力です。このような空間認知機能は、どのような地形で育ったか、ということに関連しているというような報告もあります。

つまり、お子さんの空間認知機能を育むような遊ぶ場所がどれくらいあるか、という意味です。

例えるなら、複雑な地形を持つ場所、山や海、公園など、自ら遊ぶものや遊び方を見つけられる環境というのでしょうか。

ご自身も3人の子どものママという細田先生。ワーママとして忙しい日々を送っています。  撮影:森﨑一寿美

先ほどの「興味を持つおもちゃを周りに置くのがいい」という話と少し矛盾しているように聞こえるかもしれないですが、おもちゃの中でもシンプルなブロック、積み木といったものは、どう遊ぶかを自分で考えるものです。それと同じで、決められたとおりに遊具を使って遊ぶだけではなく、その場にあるものでどうやって工夫して遊ぶかを考えることが、脳のトレーニングになるわけです。

家の外のような刺激をもたらす場所というのは、脳の成長には必要で、そういう環境へお子さんをポンと置いてあげることはとても大切です。こうした空間では、自ら考えて何かをしようとするモチベーションや意志の力が必要になってくる上に、何をどうしたら楽しくなるかということを常に考えるため、想像力を働かせて考えることができるようになります。考える力を身につけるのは、大人になってからできるわけではありません。小さいときの遊びの中で育てることはとても重要なことなのです。

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