子どもと「音読」 スラスラ読める子は読解力が高い理由 現役小学校教諭がわかりやすく解説

現役小学校教諭・土居正博先生に聞く「音読」を楽しく取り組む方法 #1 音読の目的や読解力との関係について

小学校教諭:土居 正博

音読の宿題にモチベーションを保てない親子は多いのではないでしょうか?  写真:アフロ

多くの小学校で音読の宿題が出されています。しかし、音読の目的や効果をしっかりと理解しないまま、毎日の音読の宿題に取り組むと、親子ともに音読へのモチベーションが下がったり、なかには「毎日宿題を聞くのがつらい……」と苦痛を感じている親御さんもいるのではないでしょうか。

「音読は、すべての学力の基礎になります」と話すのは、公立小学校の国語教育を専門とする、小学校教諭・土居正博先生。

そこで、音読宿題の目的や、家庭で取り組む意義、読解力との関係について、土居先生に解説していただきました。

(全3回の1回目)

土居 正博(どい・まさひろ)
1988年東京都八王子市生まれ。神奈川県川崎市立公立小学校教諭。東京書籍小学校国語科教科書編集委員。全国大学国語教育学会会員。国語科学習デザイン学会会員。
2018年「読売教育賞」受賞。2023年「博報賞(奨励賞)」。国語科を専門として、子どもたちの力を伸ばす指導法や理論の開発に取り組んでいる。

言語理解に欠かせない音声からの学習

──入学してすぐ1年生から、音読の宿題が出されます。まずは低学年から音読に取り組むことの意味を教えてください。

土居正博先生(以下、土居先生):小学校低学年で音読に取り組むことは、学力の基礎をつくる上でとても大切です。学年が小さければ小さいほど、しっかりと取り組む必要があります。

なぜなら、人間の発達段階において、言葉を理解する最初のきっかけは「音声」だからです。

赤ちゃんのころ、お母さんやお父さんから言葉のシャワーをたくさん浴びた結果、1~2歳になると脳内にたまった語彙が「音声」としてアウトプットされますよね。つまり、子どもの本来の姿として「耳で聞いて言葉を理解する」ことはとても自然な学習といえます。

例えば、幼児に絵本を見せても、文字が読めなければ内容は理解できません。しかし、読み聞かせをして耳からお話を聞かせてあげると、絵本の世界に自然と入り込めるんです。

小学校低学年だと、文字は読めるけど、文章を目で追うだけでは内容を十分に理解できない子がいます。音読なら「文字を読みながら、同時に音声を聞く」ことを、自分一人でも取り組めます。

文章の理解度を上げるためにも、低学年のころから音読の習慣を身につけるようにしましょう。

スラスラ読み上げる力が文章の読解力につながる

──音読の習慣がついてからは、どのような読み方を目指せばよいのでしょうか?

土居先生:教育心理学の研究では、「スラスラと読み上げることができる子どもは、読解力が高い」というデータがあります。これは、音読が単に文章を読み上げる技術を習得するだけでなく、すべての学力の基礎となる重要な能力であることを示しています。

学校教育において、読解力は国語科だけに限らず、あらゆる教科で必要とされる力です。算数や理科の問題を解く際にも、文章の内容を正確にとらえる能力が求められています。

そのため、国語の授業という限られた時間で取り組むだけでなく、学校でフォローできなかった部分を家庭でもサポートしてもらうことが、音読を宿題として出す目的といえます。

実際に教室で指導をしていると、音読が苦手な子は文章の内容を十分に理解できていないことが多く見られます。これは大人でもいえることです。仕事で使う書類をスラスラと読めなかったら、内容の理解はできませんよね。

文章だけでは理解が追いつかないとき、声に出して確認することは大人になってもよくあることだと思います。
子どもも同じで、スラスラと声に出して読むことで、内容を理解できるようになるのです。

──文章を読解する力につながるのですね。

土居先生:そのとおりです。読解力という概念はとても広く、言葉の意味を理解する段階からはじまって、主語と述語の関係などの文の構造、文と文のつながりから推測する力などがあります。

行間に込められた心情を読み取ったり、書かれていないことを文脈から推測したりする力も読解力です。

このように、読解力は非常に幅広い力を指しているのですが、最初の「言葉の意味を理解する」段階において、音読が果たす役割はとても大きいといえますね。

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