不安を増幅する子どもの脳
子どもの脳が大人の脳と特に異なる点は、ストレス耐性です。
子どもの脳は大人と比べるとずっとストレスに弱い。その特性から、不安障害にもなりやすいと考えられています。
それなのに、現在の大人たちが子どものころよりもずっと多くの情報を処理しなくてはならず、時には脅威となる情報を含む所属集団からの有形無形のメッセージに晒され続け、その影響下で生き延びなくてはなりません。
ニューヨーク州立大学のシェンが2007年にネイチャー・ニューロサイエンス誌に発表した研究によれば、THPというホルモンが脳内で果たす役割が大人と子どもでは違うのだといいます。THPはストレスを受けると放出されて、大人の脳ではこれが不安を抑える働きを持ちます。
しかし、子どもの脳では逆に働いていたのです。THPは不安を抑えるどころか、むしろ増幅させていることがわかったのです。子どもの脳では、ストレスを感じると不安がより大きくなってしまうということになります。
性ホルモンの影響も大きいと言えます。
思春期を迎えると急激に性ホルモンの分泌が盛んになり、女子ではエストロゲンとプロゲステロン(女性ホルモン)の、男子ではテストステロン(男性ホルモン)の濃度が高まります。女性ホルモンの濃度は月周期で変動して女子の感情の起伏を激しくし、不安と過剰なテンションの高さを行ったり来たりさせます。
男性ホルモンは男子の攻撃性と性衝動を高めてしまいます。情動を司る脳機能部位である扁桃体には、これを受け取る受容体が集中しています。扁桃体は恐怖を感じ、相手と闘うか、それとも逃げるか(Fight-or-flight)反応を起こす場所です。
不安を感じやすく、感情の起伏が激しく、攻撃的で、性衝動に振り回されます。この脳を制御したり、自分や自分の置かれた状況を客観視するためのコントロールセンターはまだ、この年齢では成熟していないのです。大人はその声を拾って、未成熟な機能のサポートをする必要があるケースも多いでしょう。
若者の脳の完成度は80%
10代は「若気の至り」と言われるほど衝動的で計画性に欠け、後先考えず危険な行動に走りやすく、感情を抑えることが大人に比べると難しい。集中力や根気がなく、イライラしやすく、誘惑に弱いものです。
とはいえ、本稿を読まれた10代の読者、もしくはその養育者の方に、自分または子どもにこうした性質が当てはまっても、多くの場合心配はいらないとお伝えしておきましょう。10代の脳とはそういうものだからです。これらを制御するコントロールセンターは20歳になってもまだ建設中なのです。
かつては、10代で脳の成長は終わり、20歳ごろに完成してその成長のピークを迎えたあとは、ゆっくりと機能が衰えていくのだと考えられていました。神経細胞が死んで脳は少しずつ萎縮を続け、再生したり鍛えたりすることはできないのだと信じられていました。
しかし、近年の知見は従来の通説を覆し続けています。
成人後にも神経細胞が新生することがわかり(逆の主張をする文献もありますが)、さらに20歳前後の脳は完成するどころか、かなりの部分が未成熟な、いわば「子どもの脳」であるということも示されました。この年齢では、まだまだ判断力も知的能力も成長を続けている最中だということが明らかになってきたのです。
なかでも、知的能力を担う前頭前野と、情動の座である扁桃体は未熟であり、20代になっても成長は続いていきます。
10代の脳では、灰白質(かいはくしつ)は育っていても白質が足りません。灰白質というのは神経細胞の細胞体の集合した部分のこと。白質というのは細胞体から延びる軸索(じくさく)と呼ばれる長い線維が集まった部分で、神経細胞同士を結ぶ配線の集合体のことです。
白質は白く見えるから白質という名がつけられているのですが、白く見えるのは、神経線維がミエリンという脂肪でできた鞘に覆われているためです。この脂肪の鞘(ミエリン鞘)ができていくと、神経細胞同士を伝わっていく電気信号の伝達速度が格段に速くなります。脳が十分に機能を発揮するためにはこのミエリン鞘が発達、つまり神経線維がミエリン化している必要があるのです。
ミエリン鞘が発達している脳の撮像をすれば、白質は分厚く写ります。灰白質に比べて白質が薄い子ども・若者の脳は、神経細胞の数そのものは十分にあるのですが、まだ配線ができあがっていないということになります。その完成度は大人の5分の4程度。20%は未完成、ということです。


































