「イヤイヤ期」の癇癪に大切なのは「思いを受けとめること」「行動の枠を示すこと」発達心理学者が解説

#3 言葉で表現できるようになると「イヤ」は減る

坂上先生:他者と自分が違う、そして「自分」が自分の行動の主体であることに気づくという段階が、「イヤイヤ期」と重なることになります。

すなわち、自分の行動を起こすのは、他ならぬ自分であることや、自分の行動は自分が選べる、自分で決められるということに子どもが気づくようになったから、というのが「イヤイヤ期」が起こる理由ということになります。「イヤ!」は、「自分のすることを自分で決めたい」とか、「わたしを(ぼくを)尊重して!」というアピールなのです。

〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
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──なんでも、“反抗している”ように思える行動も、自己主張ができるようになったあかし、ということなのですね。

坂上先生:そうですね。ただ、語彙がまだ少なく、自分の気持ちをうまく言葉にすることが難しい子どもたちは、「イヤ!」というシンプルな表現になったり、全身を使ってアピールしたりしているのです。

このようにして、自分の気持ちを表現しようと葛藤し、気持ちを受けとめてもらうことや、ときに自分の思いどおりにならないこともあることを経験するのは発達において不可欠なことです。「イヤ!」は、子どもが自分の気持ちをうまく言葉で伝えるようになるにつれ、自然に減っていきます。

気持ちを受け「とめる」ということ

──“気持ちを受けとめる”というのは、子どもの要望どおりにするということではないですよね。つい、その場をおさめたくて、「わかったわかった」となってしまう自分がいるのですが……。

坂上先生:子どもにとっては、自分の思いが通らないことや実現しないこともあること、すなわち、ぶつかることを通して、ルールやマナー、他者の思いを知ることも、この時期の大事な役割です。

この時期に、そうした枠を子どもに提示すること、言いかえれば、行動として認められることと認められないことの線引きをすることが、親の大事な務めでもあります。

子どもが枠をはみ出す行動をしたときに、その行動は認めない、でも、そうしたいと思った子どもの気持ちは否定しない、というのが思いを受け「とめる」ということです。行動の枠を示すこと、思いを受けとめること、この二つは車の両輪のようなもので、その両方を大人がしてくれるからこそ、子どもは安心して自分の思いを表し、チャレンジすることができ、長じて、自分の気持ちや行動をコントロールできるようになります。行動の枠を示す、というのは、子ども自身を守るためでもあり、ともに生活する他者を大切にすることを学ぶためでもあります。

──なるほど。子どもに「いけないことはいけない」と伝えつつも、ことばを尽くして「あなたの思いをわかろうとしている」と伝えることが大事なんですね。

坂上先生:自己主張をはねのけ、いつも高圧的な態度で接していると、子どもは言うことを聞かなくなったり、自分の気持ちを表そうとしなくなったりします。

要求が通らなかったとしても、自分の主張に耳を傾けてもらうことで、子どもは「自分の思いをわかってもらえた」という安心感をもつことができます。自分の思いを大事にしてもらった、という実感は「他者の思いを大事にしよう」という気持ちにつながります。自己主張と自己抑制の両方をバランスよく育むことで、子どもは自分の行動の舵取りを柔軟にできるようになっていきます。

子どもの望みがわからないときは、思い当たることをあれこれ言葉にしてみるのもよいでしょう。一生懸命考えてくれる姿を見て、子どもは「大事にされている」と感じることができます。

もし、要求がエスカレートする場合は、真の訴えや願いが別のところにある可能性もあります。下にきょうだいができたとか、環境の変化によるストレスなど、ほかに原因があることも。そうやって試行錯誤してやりとりをくり返すことが、養育者の対応力を育むことにもなります。

〈Photo by iStock〉

──あれこれ言葉を尽くしてうまくいかなくても、「大事にされている」と態度で伝えることが大事なのですね。他にも効果的な方法はあるのでしょうか。

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