【特別養子縁組】 「養親」久保田智子が生みの親に「産んでくれてありがとう」とは言わなかったワケ

養親当事者・久保田智子(兵庫県姫路市教育長、元TBSアナウンサー)インタビュー【3/3】~娘との出会いと今~

兵庫県姫路市教育長:久保田 智子

「夫は、将来、娘がどう思うかわからないのに、親の判断だけで公表してもいいのかと気にしていました。もちろん夫婦で何度も話し合いをしました。

娘が3ヵ月くらいのときにこれまでのいきさつについてエッセイを書き、雑誌『Newsweek(ニューズウィーク)日本版』の編集者だった友人に読んでもらいました。すると、友人から『このエッセイは悲しすぎて今は公表できません』と言われてしまったんです。

おそらく、娘がやってきてくれて本当にハッピーなんだけれど『産んでいない私は本当に母親と言えるのだろうか? 母と呼ばれていいのか?』という私自身の葛藤が文面にあふれていたのだと思います。

それをマスメディアで発表すると、読んですごく悩んでしまう人がいるかもしれないという友人の判断でした。確かに、当事者だからこそ客観的に書くというのはとても難しいと自分でも思いました。

それなら私の言葉で発信するより、私たち家族の生活を記者に見てもらい、客観的に発信してもらうほうがよいのかもしれないという考えに至ったんです」

2020年12月『Newsweek(ニューズウィーク)日本版』でハナちゃんと夫の平本さんと3人で誌面に登場し、養子縁組を公表しました。

その後は、育児と仕事を両立しながら、養子縁組や里親制度への認知度や理解度を高めるための活動にも積極的に取り組んでいます。

2024年姫路市の教育長に

養子縁組をはじめ、子育て支援や子どもの教育支援などの活動を評価され、兵庫県姫路市の教育長に抜擢。2024年4月に就任しました。

「お話をいただいたときは、びっくりしました。行政の経験もなかったので、こんな選択肢があるのかと驚きましたが、なにか私で力になれることがあるのであればと思い、お引き受けしました。

日常的に先生や市職員たちと接することが多いのですが、話すときには保護者目線でもお話しするということを大切にしています。

もちろん、子どもたちと関わることもありますので、機会があるときには私が特別養子縁組で子どもを迎えたということも児童、生徒たちには伝えています。

生徒たちにとって今はピンとこなくても将来的に1つの選択肢となることもあるかもしれないと考えて伝えています。私も高校生のとき、授業で聞いた養子の話が巡り巡って、自分の人生の道を示すことになったので、いつか何かのきっかけになるといいなという思いはあります」

2024年、姫路市教育長として小学校の授業を視察中の久保田さん。  写真提供:姫路市教育委員会
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子どもを0歳から育てて6年(2025年4月現在)。最後に、特別養子縁組について、今の考えを伺いました。

「私自身、特別養子縁組を選択するまで不安がなかったわけではありません。本当にこれでいいのかな、ちゃんと育てられるかな、赤ちゃんが好きになれなかったらどうしよう……といった不安はもちろんたくさんありました。

でも、今思えばそれらは見えないものに対する不安であって、実際に赤ちゃんに会った瞬間からそういった不安は本当になくなりました。

ただ、もし養子縁組を検討するなら、夫婦で同じ方向を向いていないとうまくいかないことが多いと思います。なので、夫婦間で養子縁組に関してきちんと話し合いをしておくことは、重要です。それでも答えは出ないのかもしれない。

夫婦ふたりだけでも幸せだと思うことも正解だし、やはり子どもがいる生活を望みたいというのも正解。その思いを夫婦間で確認することが、大切なのだと思います。

どちらかが強く望むから、片方がそれに付き合うというスタンスでは、なかなか難しいことだと思います。特別養子縁組に限らないと思いますが、子育ては大変なこともたくさんありますから。

いろんな選択肢がありますし、どの選択にも不安があるのは当然です。それでもやっぱり子どもを育てたい、子どものために何かしたいという思いがあるのであれば、特別養子縁組は本当に素晴らしいものだと、私は胸をはってお伝えできます」

─・─・─・─・

終始、ハキハキと明るい笑顔でお話ししてくれた久保田さん。今は、ハナちゃんとふたりで姫路市で暮らしており、東京で働く夫の平本さんが週末、姫路に来る生活を送っています。忙しい中で、家族のベストな形を模索しながら向き合っている姿に、大きなパワーと強い覚悟が伝わってきました。

悩みながらも歩みを進めたことで、違った景色が広がっていったという久保田さんの言葉に、不安でも臆することなく、まずは一歩を踏み出してみること、その大切さを教わりました。

●久保田智子PROFILE
1977年生まれ。東京外国語大学卒業後、2000年TBSに入社しアナウンサーとして活躍。2015年に結婚、2016年に退社を発表し、その春に夫と渡米。2018年に帰国後、TBSの報道局に復職。2019年には特別養子縁組制度にて、1児の母となる。2024年4月からは兵庫県姫路市の教育長に就任した。


取材・文/関口千鶴

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くぼた ともこ

久保田 智子

Tomoko Kubota
兵庫県姫路市教育長、元TBSアナウンサー

1977年生まれ。東京外国語大学卒業後、2000年TBSに入社しアナウンサーとして活躍。2015年に結婚、2016年に退社を発表し、その春に夫と渡米。2018年に帰国後、ジョブリターン制度を利用してTBSの報道局に復職。 2019年には特別養子縁組制度にて、女児の母となる。2024年4月からは兵庫県姫路市の教育長に就任した。

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1977年生まれ。東京外国語大学卒業後、2000年TBSに入社しアナウンサーとして活躍。2015年に結婚、2016年に退社を発表し、その春に夫と渡米。2018年に帰国後、ジョブリターン制度を利用してTBSの報道局に復職。 2019年には特別養子縁組制度にて、女児の母となる。2024年4月からは兵庫県姫路市の教育長に就任した。

せきぐち ちづる

関口 千鶴

Sekiguchi Chizuru
編集者・ライター

大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon

大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon