「平時」こそが、伝えるベストタイミング
──〈𠮟る依存〉に陥らないために、親ができることを教えてください。
村中:親御さんに気をつけていただきたいのは、𠮟ることでお子さんが行動を変化させても、満足しないでほしいということです。
繰り返すようですが「𠮟ったら言うとおりにしてくれた」では、結局、お子さんは「何が原因で𠮟られているのか」を、学んでない可能性が高いのです。だから同じことを起こし、親御さんがまた𠮟る、という悪循環に陥ってしまいます。
「何回言っても全然聞かなくて」と言う親御さんに、いつお子さんに伝えているか尋ねてみると、𠮟っているときにしか言っていないことが多い。しかし、𠮟るときお子さんは「防御モード」になり、理解力は下がっています。お子さんに変えてほしいことを伝えても、届きづらいでしょう。
本当にお子さんに伝えたいと思うのなら、まだ何も起きていない「平時」に伝えることが大切です。お互いが落ち着いた気持ちのとき、お子さんに「◯◯のときは△△しがちだから、次は◯◯してみようね」などと説明してみてください。
親御さんが丁寧に、繰り返し伝えていけば、お子さんは自分で「どう行動したらいいか」を考えられるようになります。自分をうまくコントロールしながら、主体的に行動できるお子さんの「冒険モード」を、上手に育てることにつながるのです。
〈𠮟る依存〉に陥っていても自分のことを責めないで
村中:過去にも、𠮟ることを否定的に取り上げる言論はありましたが、やはりどこかで𠮟ることに意味と効果があるという前提で、かわいそうだからやらないほうがいい、という論調が多くありました。
しかし、これから広めていかなくてはいけないのは、そもそも𠮟る行為には、お子さんの学びや成長を促進する効果がない、ということです。
𠮟る行為はお子さんにストレスを与え、お子さんがのびのびと考えるチャンスを奪います。一人一人の親御さんが、子どもにどう成長してほしいかを突き詰めて考えれば、根本的な解決につながると考えています。
一方で、今までお子さんを𠮟ってきた自分を責めないであげてください。𠮟る行為に依存してしまう人は、そうせざるを得なかった現実があったはず。
私は臨床心理士として、過去に多くの親御さんと接してきました。そこからわかったのは、𠮟る依存にハマってしまう理由は、人格の問題でも、能力の問題でも、愛情の問題でもないということ。人間の生理的な欲求が引きおこしてしまうだけで、誰も悪くはないのです。
𠮟る依存に悩む人は、𠮟ることを今すぐやめようとはせず、「いつの間に𠮟らなくなっていた」ことを模索していきましょう。
【村中直人さんへのインタビューは全3回。1回目では、叱ることのメカニズムと叱り続けるリスクについて、2回目では、しつけ躾や指導を「叱らず」にする方法、3回目では、〈𠮟る依存〉から抜け出す具体的な実践方法を解説します(2回目は2月25日公開、3回目は2月26日公開予定)】
叱らずにいられないのにはわけがある。「叱る」には依存性があり、エスカレートしていく――その理由は、脳の「報酬系回路」にあった! 児童虐待、体罰、DV、パワハラ、理不尽な校則、加熱するバッシング報道……。人は「叱りたい」欲求とどう向き合えばいいのか?
●きつく叱られた経験がないと打たれ弱くなる
●理不尽を我慢することで忍耐強くなる
●苦しまないと、人は成長しない……そう思っている人は要注意。
「叱る」には効果がないってホント?
子ども、生徒、部下など、誰かを育てる立場にいる人は必読! つい叱っては反省し、でもまた叱ってしまうと悩む、あなたへの処方箋。
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
村中 直人
1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)がある。
1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)がある。