
子どもの「抜毛症」 ボール状に固められた毛を発見して気づくことも… 親子で取り組む治療法〔児童精神科医が解説〕
「抜毛症」 #2 ~学校生活への影響と治療編~
2025.06.06
児童精神科医:宇佐美 政英
ポイント②代替行動の導入
宇佐美先生:毛を抜いてしまう状況を把握できたら、「②代替行動の導入」に進みます。
『毛を抜くこと』に代わる行動を取り入れる方法です。例えば、①で分かったことが『寝る前にベッドで抜いてしまう』なら、『寝るときに手袋をはめよう』『今日は寝る場所を変えてみよう』と代替案を提案します。
ゲームをしている子は、ゲームに意識が向いているので、あまり毛を抜かないんですよ。逆に、退屈してしまうと毛を抜いてしまう場合は、外出するのも方法の一つです。
ポイント③モチベーションの維持
宇佐美先生:そして、もう一つの大事なポイントが「③モチベーションの維持」です。
ハビット・リバーサルを行っても、一足飛びに良くなるとは限りません。抜毛症の治療には、モチベーションの維持が大切です。生えてきた毛を再び抜いてしまったり、『止められないから仕方ない』と諦めてしまったりするパターンもなかにはあります。
保護者の方にはお子さんに対して「1人じゃないよ」と伝えていただくことと、子どもが『この方法をやってみたい!』と提案したことに対して一緒に計画を立てるなど、「一緒に抜毛症に取り組む」姿勢が大事です。
また、毛を抜かないようにしつけようとしたり、マイナスな言葉は絶対に避けてください。
治療中「子どもをほめること」も大切
宇佐美先生:特に年齢が低い子どもにとって、保護者の方からの称賛はとても大切です。
例えば治療中、症状が落ち着いていたときに、毛を抜いているところを見てしまったとしても、それまでの時間を抜かずに過ごせていたなら、大成功なんです。ぜひ、がんばっている過程をほめてあげてください。
あくまでも治療の主役は子どもだと、心に留めておくことも大切です。モチベーションの維持にご褒美を活用する場合は、本人と一緒に決めるようにしてください。
また、金銭や物をあげる、スマホの利用時間を伸ばす、などを安易に約束するのはあまりおすすめできません。夜ごはんをお子さんの大好きなおかずにする、くらいのご褒美がいいですね。
もうひとつ。お子さんが興味のあることや、好きなことに絡めるのも一つの方法です。例えば、電車が好きな子の場合、「1週間毛を抜かなかったら、鉄道路線図に1枚シールを貼ろう!」というような報酬システムを取り入れる方法もあります。
思春期の子など、年齢によってご褒美は変わると思いますが、各家庭ごとの親子の距離感や関係性を考えながら、「子どもにとっていい方法」を探っていってくださいね。
最後になりますが、抜毛症は、「これをしたら治る!」という、確実な方法はありません。治療をしてもすぐに抜毛行為が落ち着くわけではないので、側で見ている親御さんも不安になると思います。
抜毛症の治療には、子どもが「抜毛行為に勝てる!」と信じて、意欲的に取り組み続けることが大切です。親御さんも不安だと思いますが、「うちの子は抜毛症に勝てる!」と信じて、一緒に取り組んでいってほしいと思います。
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「抜毛症に関して、まだまだわからないことが多い」と宇佐美先生。症状や背景に個人差があり、治療に時間がかかるからこそ、子どもの様子で気になることがあれば、早めに医療機関に相談するようにしましょう。取材・文/畑菜穂子
抜毛症の記事は全2回。

畑 菜穂子
1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona
1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona
宇佐美 政英
国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長、心理指導室長。 山梨医科大学卒。専門は児童思春期精神医学。 子どものこころ専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本児童青年精神医学会認定医・代議員、精神保健指定医、臨床研究指導医、厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー。日本思春期青年期精神医学会会員、日本うつ病学会会員。日本ADHD学会理事。
国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長、心理指導室長。 山梨医科大学卒。専門は児童思春期精神医学。 子どものこころ専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本児童青年精神医学会認定医・代議員、精神保健指定医、臨床研究指導医、厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー。日本思春期青年期精神医学会会員、日本うつ病学会会員。日本ADHD学会理事。