急増する「梅毒」! 「妊婦が感染」すると胎児はどうなるか? 専門医に聞いた

専門医に聞く「先天梅毒」#1~梅毒の症状と予防法編~

亀田総合病院感染症内科部長/医師:細川 直登

母親の胎内で感染する「先天梅毒」

赤ちゃんへの感染を指す「先天梅毒」は、大人の場合と感染経路や症状が異なります。

「先天梅毒は、梅毒の菌が胎盤を通り抜けて赤ちゃんの血液の中に入ることで感染します。胎児は免疫の仕組みが整っていないので、大人のように梅毒の菌に対する抗体を作ったり、感染をコントロールしたりする仕組みが発達していません。そのため、大人の梅毒のように皮膚の一部にとどまらず、全身に菌が入り込んでしまい、重篤な症状になる恐れがあります」(細川先生)

『先天梅毒診療の手引き 2023』によると、梅毒に感染した子どものうち、出生時は約60~90%が無症状で、通常生後3ヵ月までに発症します。2歳未満に発症した場合を「早期先天梅毒」、2歳以降に発症した場合を「後期先天梅毒」と呼びます。

「先天梅毒は治療が難しく、乳児期から発疹などの皮膚の異常や黄疸、骨や関節の異常が起こるのに加え、数年後に難聴や目の異常などが現れるなど、子どもにさまざまな影響を及ぼします。中には赤ちゃんが亡くなってしまうこともあるのです」(細川先生)

同手引きによると、母親が梅毒感染している場合、母子感染のリスクがもっとも高いのは、感染から約1ヵ月に当たる「I期」で、感染率は約70~100%。また、母親が妊娠中に梅毒にかかるケースもあり、感染時期が妊娠後期になるほど、胎児への感染率は高まります。

日本産婦人科学会を中心としたチームで調査した結果では、飲み薬で母親の治療を行った場合、適切な時期に治療を行っても、14%程度母子感染が起こってしまったという報告があります。WHOなどでは、母子感染を防ぐための梅毒感染をしている母親の治療には、筋肉注射用のペニシリンを唯一の推奨薬としています。

母親が梅毒だと必ず子どもに感染するとはいえないものの、「母親の症状が軽いから赤ちゃんの症状も軽い」ということもありません。母親の症状の程度と赤ちゃんに及ぼす影響は必ずしも比例しないと言います。

「先に述べたとおり、梅毒は症状が途中で消えることがあり、その場合も菌は体内に残っています。つまり、お母さんに症状がなくても菌は胎盤を通じて赤ちゃんの体中に入ってしまう。そこが非常に大きな問題だと考えます」(細川先生)

コンドームで予防できないケースもある

梅毒を防ぐには、「①セーファーセックス」「②コンドームの適切な使用」「③パートナーが変わったら検査を受けること」が大切と細川先生。

「セーファーセックスとは、安全な性交渉を意味します。何かと引き換えにするセックスやよく知らない相手とのセックスなど、性感染症に感染するリスクの高い性交渉をしないことが大切です。

コンドームの適切な使用もセーファーセックスにつながります。コンドームの使用は梅毒以外の性感染症の予防にもなるので、パートナーのことを大事にする意味でも重要です。ただし、唇や口の中、性器周辺に梅毒の症状が出ている場合、コンドームだけでは防げないこともあります。

それから、パートナーが変わったら一緒に検査を受けることも重要なポイントです。結婚や妊活を考える際も検査を受けてほしいですね」(細川先生)

「梅毒の症状が消えても菌は体内に残っている」「感染後1年以内なら、ペニシリンの注射を1回接種すれば治る」など、放置せず早めに受診することが大切だとわかります。

第2回は、妊活を考える際に受けておくべき検査について伺います。


取材・文/畑 菜穂子

【参考】先天梅毒診療の手引き 2023

※専門医に聞く「先天梅毒」は第2回(公開日までリンク無効)
#2

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ほそかわ なおと

細川 直登

Naoto Hosokawa
亀田総合病院感染症内科部長/医師

亀田総合病院(千葉県鴨川市)感染症内科部長、臨床検査科部長、地域感染症疫学・予防センター長兼務。1990年日本大学医学部卒業。 2005年より亀田総合病院感染症内科に着任。感染症診療のベストプラクティス(最善の治療)を提供できるよう心がけている。YouTubeで性感染症の情報発信をするなどの啓発も行う。 ●関連サイト ・YouTubeチャンネル「kamedaChannel 亀田メディカルセンター」 ・X(旧Twitter)亀田メディカルセンター(公式)@kameda_official ・X(旧Twitter)亀田総合病院(ちっとばあり公式)@kmc_pr ・X(旧Twitter)亀田総合内科(亀田総合病院)@kameda_gim

亀田総合病院(千葉県鴨川市)感染症内科部長、臨床検査科部長、地域感染症疫学・予防センター長兼務。1990年日本大学医学部卒業。 2005年より亀田総合病院感染症内科に着任。感染症診療のベストプラクティス(最善の治療)を提供できるよう心がけている。YouTubeで性感染症の情報発信をするなどの啓発も行う。 ●関連サイト ・YouTubeチャンネル「kamedaChannel 亀田メディカルセンター」 ・X(旧Twitter)亀田メディカルセンター(公式)@kameda_official ・X(旧Twitter)亀田総合病院(ちっとばあり公式)@kmc_pr ・X(旧Twitter)亀田総合内科(亀田総合病院)@kameda_gim

はた なおこ

畑 菜穂子

ライター

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・執筆を行う。多摩地域で、小学生の娘(2012年生まれ)、夫と暮らす。 Twitter @haricona