コロナ禍で子どもの足トラブル急増! はだし育児はNG!? 今「足育」が必要なワケ

3万人以上の足をみた専門家・伊藤笑子氏に聞く「子どもの足育」#1~足トラブル編~

合同会社フェルゼCEO・マスターシューアドバイザー:伊藤 笑子

日本は靴が普及して約70年。世界最古と言われる靴店が発祥したドイツをはじめ400年以上の歴史のあるヨーロッパとでは大きな常識の違いがあるといいます。  写真:アフロ

環境や遊びが大きく変化した現代の子どもたち。人間の子どもの足は、未完成の柔らかい状態で生まれてくるため、靴や地面の影響を受けやすく、変形しやすいという弱点もあるそうです。

2020年から2年以上も続くコロナ禍では子どもたちの運動不足も問題に。足の筋力が弱まり、健康的な足を育てる「足育」に、改めて注目が集まっています。100年の人生を生き抜く足を育てるにはどうしたらよいのでしょうか。

足育の第一人者でもある子ども靴の専門家、伊藤笑子さんに話を伺いました。

歩行が完成するまで7年!? 14歳までの靴選びが重要

全体重を支え、唯一地面と接する「足」。人間の子どもは、さまざまな器官が未熟な状態で生まれてきますが、それは足も同じこと。

体も足も未熟なまま生まれるため、生まれてすぐ歩けないことはもちろん、外的要因の影響も受けやすいのです。

ですが、子どもの足の発達について、まだまだ正確な情報が伝わっていないのが現状です。

たとえば子どもが1歳を過ぎるころによちよち歩きを始めると、「もう歩けるようになった」と考えがちですが、実は小学校入学ごろにようやく“しっかり歩けるようになる”ということを知っている親御さんは少ないのではないでしょうか。

「驚かれることが多いのですが、歩行が完成するのは6~7歳なんです。下肢(股関節より下部の、脚、足のこと)の骨格が成人と同じようになるのは、早くて13~14歳です」と解説するのは、子ども靴の専門家で約30年間「足育」の普及に携わってきた伊藤笑子さんです。

直立二足歩行をするため、完成されたヒトの足は複雑な構造になっています。片足だけでも28個の骨が組み合わさっていて、まるで難解なパズルのよう。

城の石垣のように隙間なく骨が組み合わさり、アーチ構造を持つことで、複雑な動きも可能で、体重を支えながら地面の衝撃にも耐える強さがあります。

ところが未完成の子どもの足はそうはいきません。しっかりとした硬い骨となっていない軟骨部分が多く、すべての骨が出来上がるのに13〜14歳くらいまでかかります。それだけに足を入れる靴の影響を受けやすいのです。

「7歳ごろまではまだまだ軟骨部分が多いので、足部の細かな骨と関節は柔らかく、ゆるゆるの状態なんです」

毎日履く靴がいつも小さめだと、歩く一歩一歩が足ゆびの変形につながり、かかとまわりが支えられないゆるゆるぶかぶかの大きめの靴は、足がグラグラしたまま走り回ることになります。

骨組みを形成していく成長期は、適切な靴で“足をつくっていく”ことが大事です。歩き始めから14歳ごろまでの靴選びと履き方が、成人後にも影響を及ぼすとも言えます」(伊藤さん)

現代の環境ではだし・草履・下駄オンリーはNG

また、足の健康を考えると、はだしや草履、下駄を思い浮かべる人も多いはず。近年ははだし保育や草履保育を実施する園も増え、保育者や親の関心も高まっています。

こうした方針がプラスに働くこともありますが、毎日続けるとかえってダメージとなってしまう場合もあると伊藤さんは指摘します。

「はだしがいいと考える人たちは多いです。私もすべてにおいてダメだとは言いません。畳や芝生、砂浜、土の上といった昔ながらの柔らかい地面や環境でしたら、はだしや草履、下駄もいいでしょう。

でも、グラウンドやフローリングのような硬くて平坦な場所では、逆効果になる場合もあります。

繰り返しとなりますが、子どもの足は軟骨部分が多くていわば未完成な状態なので、固い地面で長時間活動することは、かかとや足裏への衝撃が強すぎてしまうんです」(伊藤さん)

靴の先進国であるドイツの幼稚園では、はだしにいい環境を整えて「はだし遊びの時間」を設けるほど、“靴で足を育てる”ことへの意識が高いそうです。

「フローリングではだし保育をするなら、週に1回、数時間程度でしたらいいでしょう。でも固い園庭や床で“はだしでしか遊ばない”となると心配です。

はだし保育はコストがかからないので普及しやすい考え方ですが、足への負担が大きすぎるケースが多いのでは」と伊藤さんは憂慮(ゆうりょ)します。

日本の履物文化はガラパゴス化! ヨーロッパとの意識の差

こうした背景には、急速に広がった日本の住環境や路面環境の西洋化に、日本の履物文化が追いついていないという状況があります。

靴文化が成熟しているヨーロッパと草履・下駄文化だった日本。日本の履物に対する意識は、ガラパゴス化しているようです。

「住環境や路面環境は西洋化したのに、履物だけは昔ながらのジャパニーズスタイルが悪しき習慣となって残っています。

靴であっても脱ぎ履きのしやすさが重要視され、手を使わずにベルトや紐を外さないでそのままつっかけて履くという、草履や下駄と同じ履き方をしていることが一番の問題です。

また、日本の子ども靴には3000円神話というのがあって、すぐ大きくなるから、安ければ安いほどいい、3000円以上の靴は売れないと言われてきたために、品質や機能ではなく、見た目重視のものが普及してきました。

ランドセルには何万円もかけるのに靴は安価でいいというのは、足の大切さが認識されていないとてもわかりやすい例ですね」」(伊藤さん)

ドイツの幼稚園にある、はだし遊び用の「どんぐりプール」。週に何時間か、森へ散歩に行き、そこで拾ってきたどんぐりをきれいにして、プールに入れ、はだし遊びをします。これが足裏への刺激になります。  写真提供:伊藤笑子
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