危険な「子どもロコモ」 改善策はストレッチ・体操・睡眠・食事…〔専門医が解説〕

整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 #3 子どもロコモを改善するために親子でできること

整形外科医:林 承弘

親子で取り組みたい「子どもロコモ体操」とは一体どんな体操なのでしょうか?  写真:アフロ

「全国ストップ・ザ・ロコモ協議会」の理事長であり、林整形外科院長・林 承弘先生に聞く、「子どものロコモ」。

1回目では子どもロコモの原因と症状、チェック項目について。2回目では子どもロコモを放置したまま成長するリスクと対策について解説してもらいました。

3回目では、実際に親子でできるストレッチや体操と、睡眠・食事についてお話しいただきます。

(全3回の3回目。1回目を読む2回目を読む

「子どもロコモ体操」は親子で!

──子どもロコモを改善するためには、やはり親の役割が大きいのでしょうか?

林承弘先生(以下、林先生):そうですね。私はいつも「子どもロコモ体操」をレクチャーするときには、必ず「お母さん、お父さんも一緒にやってね」と伝えています。

というのも、子どもの姿勢をチェックすることでかなり変わってくるからです。それと、デスクワークが多い親御さんも、一緒にやることで効果が期待できますよ。

では早速、以下の方法で一緒にやってみましょう!

【子どもロコモ体操】

①両手を後頭部にあて、息を吸って肩甲骨を寄せる。

②息を吐きながら両肘を前に。数回繰り返す。

③両手を組み、手のひらを天井に向けて両手を頭上に上げる。

すべて引用:全国ストップ・ザ・ロコモ協議会

──実際にやってみると、肩甲骨がぐっと動くのがわかりますね。

林先生:そうなんです。肩甲骨の動きがよくなると体前屈もできます。体前屈ができない子は、単に股関節が固いだけでなく、肩甲骨まわりが固い硬い子が多いんです。

そして、姿勢で一番注意すべきなのが、骨盤を立たせることです。腰のところに手を当てて前にぐっと押してみましょう。すると骨盤が立ちます。骨盤が立つと背骨が連動して猫背が解消されて姿勢がよくなります。

片足立ちでロコモを改善

──日常生活で子どもロコモを改善できる方法は何かありますか?

林先生:片足立ちがおすすめです。日常生活では、歯を磨くときなどに1~2分行うといいですね。親御さんは、キッチンにいるときや、デスクワークの合間などに。

ちなみに、歩行中に両足がついている状態は2割程度で、8割は片足立ちです。片足立ちをしっかりやるとバランス能力や筋力がついてきて、歩行や階段昇降が楽になってきます。

スキマ時間の中でロコモ改善運動の要素を入れるといいですね。

運動機能を身に着けることが大切

──ところで、スキャモンの発育曲線(※)のピークを逃すと運動機能を取り戻すことは難しいのでしょうか?

スキャモンの発育曲線をみると、10歳前後で神経系はすでに成人の95.6%に達しています。10歳前後では、動きのもと(コーディネーション)を習得することが大切。  

(※)スキャモンの発育曲線
1930年、スキャモンが人の身体諸属性は大きく4つのパターン(神経型、リンパ型、生殖型、一般型)に分類されることを提唱しました。神経系は10歳前後で成人の95.6%発達し、さまざまな神経回路が形成されることがわかっています。

林先生:無理ではないですが、子どもの成長曲線に合わせて身につけるのが一番いいと思います。ピークを超えてからでも遅すぎることはないのですが、そのときにやったほうが、動きの質を高めることができて、スポーツを楽しんだり、日常生活で安全に身を守ることにつながります。

ロコモとは関係ないですが、小学生ぐらいの子どももダイエットしていると耳にします。一番困るのは、骨の成長に関してですが、最もスパークがかかる小学校高学年でダイエットをしてしまうことです。骨の成長のスパークに乗れず、骨密度が低いまま大人に……。

特に女性の場合は、閉経を迎えると骨密度がグッと下がってしまいます。はじめの骨量をきちんと上げておくには、もちろん運動も必要ですし、過度なダイエットは避けるべきです。小学校高学年の女子がなぜ太るかというと、この時期は骨に刺激を与えるためでもあります。痩せてしまうと栄養もそうですし、骨にとっても良くないんです。

だからこの時期は、体重を落とすのではなく、しっかりと食べてカルシウムなどの栄養素を十分摂っておくことが大切です。骨は20歳ごろに完成します。20歳の時点で骨量が少ないと、将来的に骨粗しょう症に早く入ってしまうことになります。これを伝えることも、子どもロコモ啓発のひとつになると思っています。

ロコモ改善には朝食も大切

──ロコモ改善のためには、生活習慣改善という意味で、食生活も大切になってきますか?

林先生:そうですね。主食、主菜、副菜のそろった食事でバランスよく食べることが大切です。特に1日の原動力になる朝食とたんぱく質をしっかり摂ること。

以前、埼玉県で運動器検診のモデル事業を行ったとき、食事内容のアンケートも取りました。すると、約9割は朝食を摂っているという回答だったのですが、バランスよく摂れている子どもは、約3割でした。「パンだけ」「牛乳だけ」といった内容が多くみられました。

朝食をバランスよく摂れているかどうかによって、学力も運動能力も明らかに違ってきます。文部科学省「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査」のデータにもありますように、朝食がしっかり摂れている子は、算数や国語の成績も良く、かけっこやボール投げなどの運動能力も高いことが報告されています。

しっかり眠ることも子どもロコモの改善に

──現代は「眠育」という言葉もあるほど、睡眠時間の短さが問題になっています。睡眠も子どもロコモに影響するのでしょうか?

林先生:睡眠時間が短いと、寝不足と寝坊して時間がないため、朝食がしっかり摂れないことが多くなります。食べること、休養をとること、運動すること。この3つは、子どもロコモ改善にはとても大事です。

子どもロコモで一番大切な「正しい姿勢」と併せて、ぜひ親子で意識しながら過ごしてみてくださいね。

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「外遊びは危ないから」といって避けてしまうことが、長期的にみると子どもの大きなケガにつながることも。

今回の林先生のお話を通じて、子どもを守りすぎず、見守りながら多くの経験と正しい体の使い方、身のこなし方を育むことが私たち大人の役目だと感じました。

取材・文/岩見真由美(メディペン)

「子どもロコモ」連載は全3回。
1回目を読む。
2回目を読む。

はやし しょうひろ

林 承弘

Hayashi Syohiro
林整形外科院長

林整形外科 院長。 特定非営利活動法人全国ストップ・ザ・ロコモ協議会理事長。子どもの体の変化にいち早く気づき、ロコモ対策に取り組んでいる。 http://www.iwatsuki-med.or.jp/mi/hayshi-orthopedics.html

林整形外科 院長。 特定非営利活動法人全国ストップ・ザ・ロコモ協議会理事長。子どもの体の変化にいち早く気づき、ロコモ対策に取り組んでいる。 http://www.iwatsuki-med.or.jp/mi/hayshi-orthopedics.html

メディペン

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医療ライターズ事務所

医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen

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