苫野先生:ですから、プロジェクト型の探究学習は、計算などの知識や技能を定着させることにも大いに役立ちます。すべての学年で『探究型(プロジェクト型)の学習』を中心に据え、そこから子どもたちの学びが進んでいくカリキュラムを組み立てる必要があります。
しかし残念ながら、現在の日本の学校教育の多くは、机上での学びが中心です。もちろん、徐々に変わりつつあり、プロジェクト型の授業も取り入れられるようになってきましたが、まだまだ十分ではないと感じます。
小学校(特に低学年)では、探究学習よりも『基礎学力の定着が重要』と思われがちですが、小学校こそ日常の『生活経験』と結びつけた学習を展開しやすいものです。
繰り返しになりますが、そうした『体験を伴った学び』こそ、子どもにとって納得感が得られて、しっかりと知識が定着する、有効な学びとなります。
低学年すべての授業を「総合学習」で構成する小学校
――「生活経験から学ぶ」というのは、具体的にはどういうことでしょうか?
苫野先生:例えば、長野県にある伊那市立伊那小学校では、低学年の授業はほぼすべて総合学習で構成されています。3年生以上も、週5〜6時間の「総合活動」を中心にしたカリキュラムが実施されています。プロジェクト型の探究学習を行うなかで、算数や国語も学ぶことができるカリキュラムを組んでいるのです。
どんなテーマで総合学習を行うかは、毎年各クラスの先生と子どもたちで話し合って決めます。先生が一方的に誘導することはありません。
例えば、『動物の飼育』をすることになった場合、動物の餌や体重を量ることで算数を、協力者に手紙を書くことなどで国語の学びにも自然とつながります。
低学年でも、子どもだけで動物の小屋を作ることもあるそうで、どんなふうに柵を作るか、釘が何本必要かなど、すべて子どもたち自身が考えて実行します。
失敗もありますが、そこから学び、考え、まさに『自分たちなりの答え(成果)』をつかみ取っていくのです。
伊那小学校は、総合学習の60年以上の歴史があり、チャイムも通知表もないなど、かなり思いきったことを実践している学校です。
いきなりここまでの実践するのはなかなか難しいかもしれませんが、プロジェクト型の学習を取り入れるヒントになると思います。
教科にとらわれず、子どもたちの好奇心を出発点とした『ワクワクする学び』を展開する余地は、小学校にこそ豊富にあるのです。