熊本発・子どもの「学びたい」があふれ出す プロジェクト型探究学習の中身とは?

【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#1 「学ぶ意欲があふれ出す探究学習」

ライター:川崎 ちづる

「やりたい」を尊重すれば、子どもたちの学びのエネルギーは次から次に湧き出てきます。  写真提供  松永賢斗氏

新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」「探究的な学び」が謳われ、社会的にも知識の詰め込みに偏る教育を見直そうという気運が高まっています。これまでの「一方的に知識を教える授業方法」を見直す自治体も出てきました。

そんななか、自治体や学校からの働きかけではなく、個人で「子ども一人ひとりの興味関心を尊重し、その育成をサポートする授業や学習方法」を実践している小学校の先生がいます。

熊本市立弓削小学校教諭、松永賢斗さんです。赴任当初から一部の教科で自由進度学習を行い、昨年度からプロジェクト型の探究学習に取り組んでいます。

子どもたちの「やりたい」を大切に、自分のペースで自由に学びを深める授業を行ったところ、子どもたちから「学びのエネルギーがあふれ出す瞬間」に何度も遭遇したといいます。さらに、自分の興味・関心から出発した学びで得た情報は、「生きた知識」となって子どもたちのなかに蓄積し、成績も上がりました。

そして、たった一人で始めた「子どもたち自身を尊重する学び」は、紆余曲折を経て、少しずつ学校内に広がりを見せています。

この連載では、松永先生の奮闘と子どもたちの大きな変化、学校内への広がりなどについてご紹介します。

第1回は、2022年度1学期に取り組んだ、社会での探究学習の具体的な実践についてうかがいました。

※全4回の第1回

子どもたちから学びのエネルギーがあふれ出す探究学習

松永賢斗先生が熊本市立弓削小学校に勤務して、今年(2022年)で3年目。2018~2019年の臨時採用教員を経て、2020年に弓削小学校に赴任しました。

今年で教員5年目を迎える松永賢斗先生。  写真提供  松永賢斗氏

松永先生は、大学時代、苫野一徳氏(熊本大学教育学部准教授)のゼミで学び、「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」(詳細はこちらの記事を参照)について理解を深めました。そして、ご自身でも子どもたちが本来持っている「学びへの意欲」を引き出す教育を実践しようと、教員を目指しました。

臨時採用時代から少しずつ自由進度学習を取り入れ(自由進度学習の実践については、#3で詳細をうかがいます)、昨年度から、「どうしてもやりたかった」というプロジェクト型の探究学習を実践。

松永先生は、探究学習への想いをこう語ります。

「学びって、本来は他の誰かに与えられるものではなく、自分のなかから自然と湧き出てくるものだと思うんです。でも、現在の教科別の学習では、教師から課題や問い(問題)を“与えられる”ことがほとんど。自分で問題を考える機会はあまりありません。

(それまで実践していた)自由進度学習でも、子どもたちのペースを尊重し、学びへの意欲や達成感を高めることはできたと思いますが、どうしても学習範囲が限定されてしまいます。

子どもたち自身のなかにある興味・関心から“問い”を設定し、それを掘り下げていく。そのなかで新しいことを知り、ワクワクする。そして、もっと学びたいという気持ちが湧いてくる……そんな学びを経験してほしいと思って、探究学習の導入に踏み切りました」(松永先生)

松永先生は、「子ども一人ひとりが自分で問いを立て、自分なりのやり方で、自分なりの答えにたどり着く」を大切に、できるだけ制限を設けず探究学習ができる授業方法を、試行錯誤しながら実践してきました。

すると、子どもたちはもっと知りたい、学びたいというエネルギーを爆発させたといいます。

夢中で探究学習に取り組む子どもたち。  写真提供 松永賢斗氏
探究学習では、「まがたま作り」に挑戦する子もいました。  写真提供 松永賢斗氏

では、具体的にはどのような方法で、探究学習を実践したのでしょうか。2022年度の1学期に、松永先生が6年生の社会科・歴史の授業で行った、プロジェクト型の探究学習を例に見ていきます。

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