小学生の【読書感想文嫌い】を克服! 「親子インタビュー式読書感想文」で言語化能力がアップするワケ〔文章力養成講座の専門家が伝授〕

「親子インタビュー式読書感想文」松嶋有香さんが解説② 教材:課題図書『ぼくの色、見つけた!』

中村 美奈子

ゆか先生:私が指導中によく言うのが「やばい、すごいにも200種類あんねん!」です。

『ぼくの色、見つけた!』の信太朗は、とても上手に自分の気持ちを表現しています。本を読んでいて「これは自分の気持ちにぴったりだ」と思った言葉を見つけたら、それをそのまま自分の気持ちの「ラベル」にしていくイメージです。

例えば信太朗のある行動に「すごい!」と思ったとしましょう。でも、他の人に「すごかった!」と言った時に「ふーん、そうなんだ」と返されたら、拍子抜けというか、少し物足りない気がしませんか?

──そうですね……。話に興味がないのかなと感じます。逆に「すごかった!」という言葉だけではなにがすごいのかわからないので、自分でも「ふーん」としか言えない気もします。

ゆか先生:そうでしょう? 自分が感じた「すごい!」をちゃんと知って欲しいと思ったら、それがどうすごかったのかを説明する言葉が必要になるんですよ。「親子インタビュー式読書感想文」では、まさにそこを、親子の会話でつきつめていくという手段をとっています。

ゆか先生

「どんなところがすごかった?」
「おどろいた?」
「信じられなかった?」
「感動した?」
「最高だった?」
「強かった?」
「大きかった?」

子ども

「大きいじゃないな」
「強いでもない」
「信じられなかったかな?」

ゆか先生:このように子どもから答えらしきものが返ってきたら、今度はそこをツッコミます。

ゆか先生

「じゃあ、なにが信じられなかったの?」

子ども

「それはね……」

ゆか先生:このように会話が続けば大成功! そうやってトコトン気持ちを突き詰めた後で原稿用紙に向かうと、単なる「すごい!」ではなく、その子が考えた末に生まれた、その子自身の言葉が綴られるはずです。そこまでできるようになったら、「読書感想文」は90%完成したようなもの。

子どもに限らずだれでも、「自分自身の考え」を持つことで、内面の強さが鍛えられます。それがたとえ「宿題をきちんとやる」でも「そうじを手伝う」といった小さなことでも、そこに自分なりの考えや理由があれば、くじけそうになったときに「でも、自分は理由があってこうするんだと決めたんだから」とあきらめない強さを発揮できるかもしれません。

「読書」は、その場にいながら、たくさんの人の生き方や考えに触れることができる、絶好の機会です。誰に気兼ねすることなく、自分勝手に想像して、「ホントはこうなんじゃない?」と決めつけてもいい。

考えることは、自由。

だから大人の価値観を押しつけるのではなく、子どもの言葉に耳を傾ける。「読書感想文」の第一歩は、そこから始まります。

撮影:講談社写真映像部
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「日記」や「読書感想文」を書くと2種類の言葉を同時に獲得できる

私は国語を指導する立場にある者として、言葉には「思考の言語」と「表現の言語」の2種類があると考えています。

「思考の言語」は、「ラベリング」された感情を表す言葉です。頭の中で悩んでいるときは、気持ちが同じところでグルグル回っているだけで、「考えている」という状態にはなりません。「考える」ためには、「言葉」や「文字」にして、一度出力しなくてはいけません。

一番良い方法は、文字として残すことができて、すぐ過去の出来事を振り返ることができる「日記」。ある日悔しいことがあって、「○○で悔しかった」と書きました。また違う日に悔しいことがあって、「□□で悔しかった」と書いたとしましょう。同じ悔しいでも、「○○」と「□□」は理由が違う。その違いを突きつめていくことで、自分でも気づかなかった領域に行けることができる。つまり、「悔しい」の分類が始まるんですね。

自分の努力が足りなくて「悔しかった」のか。
自分のプライドが傷つけられて「悔しかった」のか。

どのラベルにするのかを決めるのは、自分自身。そこで、過去の悔しかった経験を振り返って、プライドが傷ついた方が多かったら、「自分はプライドが高いんだ」とわかる。すると「悪いのは相手じゃない。私のプライドが高いから、もう少し謙虚にならなきゃ」というように、解決策が見つかることもあります。それが「思考の言語」を鍛えるということです。

そうやって得た自分の考えを、他人に伝えるときに初めて「表現の言語」が役に立ちます。

「表現の言語」は、「どう言ったら伝わりやすいか」「人を納得させる文章の構成とは」などのテクニックです。「読書感想文」は、これら2つの言語を一度に鍛えることができる、すばらしい教材なのです。

──次回からは、だれでも2週間、7つのステップで読書感想文を完成させることができる「親子インタビュー式読書感想文の書き方」の具体的なやり方をゆか先生が教えてくれます。

第3回ではその準備として、読書感想文が苦手な理由と対処法と、計画の立て方を紹介します。

書影『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)
『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)

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まつしま ゆか

松嶋 有香

Yuka Matushima
文章力養成コーチ、教育コンサルタント

静岡大学教育学部卒。海外にも教室がある大手塾の講師を経た後、教育支援業と執筆業を開業。文章指導歴は35年というベテラン講師。またライターとして、自身の教室の他、いろいろなプロジェクトで「書くこと」を担当。言葉、子育て系、国語系の記事やコラム、クラファンの広報文などを手がける。地域未来塾、不登校支援のほか、バンド活動も行っている。 オフィシャルサイト 文章力養成コーチ ゆか先生の「書きまくるトレーニング」

静岡大学教育学部卒。海外にも教室がある大手塾の講師を経た後、教育支援業と執筆業を開業。文章指導歴は35年というベテラン講師。またライターとして、自身の教室の他、いろいろなプロジェクトで「書くこと」を担当。言葉、子育て系、国語系の記事やコラム、クラファンの広報文などを手がける。地域未来塾、不登校支援のほか、バンド活動も行っている。 オフィシャルサイト 文章力養成コーチ ゆか先生の「書きまくるトレーニング」