中学生と子育てする“赤ちゃん授業” ママパパも救われる想定外の効果とは?

東京都世田谷区で実施「赤ちゃんとのふれあい体験授業」#3 ~アフタートーク編~

編集者・ライター:関口 千鶴

生徒の腕の中で安心した様子の赤ちゃん。上手に抱っこできています。  写真:関口千鶴
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子どもの成長を実感することもできる

この体験授業は、赤ちゃんはおおむね1歳まで、保護者と一緒に参加する決まりで、タイミングがあえば数回参加する人もいます。

この日、3回目の参加だというママに話を聞きました。

「私たちは、生後1ヵ月から参加しているので、参加するたびに自分の子どもが成長して変わっていくのを目の当たりにできるんですよね。

前回は人見知りが始まった時期だったので、すごく泣いたのですが、今日は全然人見知りしなかったんです。こういう場所で家族以外の人とふれあっている姿を見ると、この子もちゃんと成長してるんだなと感じることができました」(3回参加のママ)

そして、この体験活動に参加する中で、心境の変化もあったと話してくれました。

「今は育休中なんですが、私はできれば早く復職したいと考えていたんです。でも保育所に入れず待機児童に。前は、“悩んでも仕方ないから今はこの時間を楽しもう!”と気持ちを切り替えようとしつつも、モヤモヤしてうまくできないこともありました。

でも、体験授業に参加していく中で、生徒さんと交流したり、同じように子育てしているママパパに出会って話をすると、少しずつ心のモヤが晴れていくように感じるんです」(3回参加のママ)

この日参加したママパパと赤ちゃん、スタッフが大集合!  写真:関口千鶴

私も中学生のときに参加したかった

この日、初参加だったというママは、交流した中学生に楽しませてもらえたと語ってくれました。

「中学生のみんな、とてもかわいかったです! なんか心が洗われた感じがありました(笑)。きょうだいがいない子が多かったようで、今まで赤ちゃんをさわったことがない子もいて、『赤ちゃんって、こんなに動くんだ!』と動きの激しさにびっくりしていました。

生徒さんもそれぞれに個性があって、赤ちゃんにとってもすごくよい経験だったと思います。最初はドキドキしてたんですけど、こんなふうに中学生と交流できて、とても楽しい時間でした」(初参加のママ)

そして、多くの参加者から聞かれたのが、「自分が中学生のときに、この授業に参加したかった」という声。

「私も学生時代に、こういう時間が欲しかったなと思いました。ああ、あのときお母さんが言っていたのはこういうことかとか、10代のときに考えることができるって、うらやましいなと思ったりしました。

子どもを産むまでは、“赤ちゃんはかわいいだろうけど、育児は大変だろうな”という思いがありました。でも実際は、その想像を軽々と超えてくるかわいさと大変さとがあって……。

私は、やっと母親になってわかりましたが、もし中学生のときに、こうして赤ちゃんや育児中のママとふれあう機会があったら、あのころの私はどう思っていたのかな? と考えたりもしましたね」(初参加のママ)

この日の体験授業の最後、この活動を世田谷でスタートさせたNPO法人せたがや子育てネットの松田妙子(まつだ・たえこ)さんは、生徒たちに語りかけました。

「みんな(中学生)、今日は赤ちゃんのことをかわいいと思ってくれたと思います。でも、同じくらいここにいる私たち大人もみんな(中学生)のことをかわいいと思っています! 

さすがに、街で会って突然『かわいいね!』と声はかけないけれど、そう思っています(笑)。地域の人がそんなふうにみんなのことを思っているということも、今日は伝えたいなと思ってきました。

そして、みんなは、今日子育てを少し“手伝った”と思っているかもしれませんが、今日のみんながしてくれたことは“お手伝い”ではなく“子育てそのもの”なんです。今日、赤ちゃんはみんなに育ててもらったんです。

こんなふうに子育ては、社会みんなでしていくものだと思っています。なので、もし、街中で赤ちゃんに出会ったら声をかけたり、微笑んだりしてもらえたらうれしいです! 今日は、本当にありがとうございました」

─◆─◆─
少子高齢化が当たり前の事実としてある現代日本。そのなかで、これからの時代を生きる世代が、何の不安もなく子どもを持つことができる社会をすぐにつくることは、もしかしたら難しいのかもしれません。

ただ、知らないことから生まれる、形のない不安を少しでも彼らの前から振り払っていくことは、今、大人である私たちができることと言えるでしょう。

「赤ちゃんと学校」という一見このミスマッチな出会いの場は、私たち大人にも、とても大切なことを教えてくれました。

取材・文・撮影/関口千鶴

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まつだ たえこ

松田 妙子

Taeko Matsuda
NPO法人せたがや子育てネット代表理事

NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事。1998年、自身の子育て中に赤ちゃんサロンを開催したのをきっかけに、2004年にNPO法人「せたがや子育てネット」を設立。 以後世田谷区を中心に子育て支援活動を行い、その活動は全国に及び、現在は、子育てひろばの全国組織「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」の理事も務める。せたがや子育てネットが主宰する「ぶりっじ@roka」は、子育てひろばのモデルケースとして全国から多くの視察者が訪れている。 ●NPO法人せたがや子育てネット

NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事。1998年、自身の子育て中に赤ちゃんサロンを開催したのをきっかけに、2004年にNPO法人「せたがや子育てネット」を設立。 以後世田谷区を中心に子育て支援活動を行い、その活動は全国に及び、現在は、子育てひろばの全国組織「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」の理事も務める。せたがや子育てネットが主宰する「ぶりっじ@roka」は、子育てひろばのモデルケースとして全国から多くの視察者が訪れている。 ●NPO法人せたがや子育てネット

せきぐち ちづる

関口 千鶴

Sekiguchi Chizuru
編集者・ライター

大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon

大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon