世田谷区発・赤ちゃんが先生の“赤ちゃん授業“で中学生が気づいたスゴいこと

東京都世田谷区で実施「赤ちゃんとのふれあい体験授業」#1 ~活動の始まり編~

編集者・ライター:関口 千鶴

赤ちゃんを抱っこしたり、あやしたりする生徒たち。とってもいい笑顔!  写真:関口千鶴

「赤ちゃんはかわいいだけだと思っていました。でも、今日抱っこして命の重さとか大切さを学びました。親のありがたさを感じたので、今日は家へ帰ってから『ありがとう』って言おうと思いました」

これは、東京都世田谷区のとある公立中学校で行われている「赤ちゃんとのふれあい体験(通称:赤ちゃんを連れて学校へ行こう!)」という体験授業を終えた中学3年生のひとことです。

「赤ちゃんが学校へ!?」一見すると、ミスマッチな組み合わせですが、そこでは未来を担っていく子どもたちと、子育て世代とのあたたかいエールの交換がなされていました。

※全3回の1回目

きっかけは息子の友だちのひとこと

2020年にママ2000人を対象としたアンケート調査(※1)で「日本の社会は、子どもを産み育てやすい社会だと思いますか?」という問いに関して、「そう思わない」の回答は67.9%にも及び「産み育てやすい」と答えた人の14.5%を大幅に上回りました。

少子化が急速に進み、かつ子どもに恵まれても子育てに不安や困難を感じている人が多い現在の日本社会。核家族・ワンオペ育児・孤育てなどマイナスイメージの強い言葉も日常的に聞かれるようになりました。

そんななか、少しでも子育てしやすい社会をつくろうと、地域活動からアプローチをしている人たちがいます。東京都世田谷区のNPO法人せたがや子育てネットでは、おでかけひろばと呼ばれる地域子育て支援拠点(以下ひろば)の運営を中心に、赤ちゃんと保護者をサポートするためのさまざまな活動を行っています。

そのひとつが、「赤ちゃんを連れて学校へ行こう!」と掲げた体験授業です。その名のとおり、ママパパが赤ちゃんを連れて地元の中学校を訪問し、生徒たちと交流するという体験型の授業内容です。

この取り組みは、もともと、せたがや子育てネットの代表理事の松田妙子(まつだ・たえこ)さんが2003年に3人目の子どもを連れて中学校の授業を訪れたことをきっかけに世田谷区で始めたものでした。

松田さんは、当時中学生だった息子の友だちが「今まで赤ちゃんにさわったことがない」と話していたと聞き、この体験活動を世田谷区でも実施したいと考えました。

まずは、個人的な提案として“赤ちゃんを連れて学校に行き、親子と生徒のふれあい活動をしたい”と地元の中学校に持ちかけました。松田さんは、ひろばに集まる乳児の親子にボランティアとしての協力を求め、活動がスタートしました。

はじめは、なかなか思うように進まないこともありましたが、2019年にその活動が認められて、世田谷区の補助事業(※2)となりました。今では、せたがや子育てネット以外の区内の育児支援団体も参加し、区内中学校などと協働して実施しています。

「ママパパたちは、子育て中はサポートしてもらうことが多いけれど、この活動では逆にボランティアする側として参加できるといって喜んでくれる人がたくさんいます。

また、子どもを連れて母校に訪問できる人もいるので、感慨深いという人もいますね。もちろん、先々、我が子がこの学校に入るかもしれないと想像して、ワクワク気分で参加してくれる人も多いです」(松田さん)

生徒の指をギュッと握り、安心モードの赤ちゃん。生徒もうれしそうに見つめていました。  写真:関口千鶴
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