【優勝賞金100万円】求む──SF好きな15歳以下の少年少女
U‐15 SF作品コンテスト「よいこのanon press award 2023」募集のお知らせ
2023.11.10
東京大学大学院情報学環「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」の後援を受けて、アノン株式会社が15歳以下の子どもたちによるSF、ファンタジー作品を募集しています。優勝賞金は100万円。なぜ今、SFが注目されるのか。本コンテストを設立した皆さんに、プロジェクトの目指すところを伺いました。
賞金100万円を授与する意図とは?
──本コンテストを主催した森さんは、どのような趣旨や目的で実施を決めたのでしょうか?
森竜太郎さん(以下、森さん):
私はいま、アノン株式会社という会社の代表取締役をしていて、「SFの社会実装」をテーマに活動しています。会社を立ち上げる前は、飛ぶ車を開発する株式会社SkyDriveの前身である非営利組織と、培養食肉を開発するインテグリカルチャー株式会社で働いていました。
なんでこんなに自分が科学技術に強く惹かれるのだろうかと振り返ると、小さいころに星新一の小説を読んでいたことが大きいのかなあと思っています。私は星新一の著書の数々から、「夢を描く」「未来を描く」ことを学びました。
こういった経験をふまえまして、自由でやわらかい発想から生まれる、我々大人では描けない若い世代の作品を見てみたい、そして若い方たちの可能性を拡張したい、という思いが強くあり、今回の賞を創設しました。
──賞金を100万円に設定した意図はなんですか?
森さん:
すばらしい発想を持っているお子さんに、そのお金を使ってぜひ試行錯誤をしてもらいたいという意図があります。このような活動を若いうちから経験することで、歴史上の偉人のように、今後の未来を描き作っていく方が出てくるのでは、と期待しています。
100万円はなかなか大きな額ですが、大賞をとってくれるようなお子さんであれば、責任をもって使っていただけると思っています。
また、賞金を与えるだけでなく、科学技術で事業を行っている企業へのスタートアップツアーも企画しております。これによって、思考を拡張していただく狙いがあります。
小説の執筆で培われる力とは?
──今回のコンテストには、2017年に「第5回ハヤカワSFコンテスト」で大賞を受賞したSF作家の樋口恭介さんも参画されています。樋口さんは、子どもたちがSF作品を創作することはどういった経験になると思いますか?
樋口恭介さん(以下、樋口さん):
小説は想像したことを文章に変換するため、自分の考えや想像を客体化し、客体化したことを観察するという再帰的な作業を強いられます。これによって否応なく、今後の自分の行動さえも規定してしまう部分があると思います。
しかしながら「自分の経験や考えていることについて、『物語』を通じて言語化する」トレーニングを早くから経験することは、自由な発想力を培う、また実行することにつながるとも思っています。
私は最近、かわぐちかいじ氏が描いた『ジパング』(講談社)というマンガを読みました。この作品は複数の未来がシミュレートされていて、しかもそれぞれに確からしさがあって、すごくおもしろいな、これこそがSFの力だな、と思いました。
未来を知ってしまった3人の男が、それぞれの思い描く、並行世界として存在する3つの日本の可能性を追い求めるという物語なのですが、三体問題(※)のような、不確定性の話になっています。
※三体問題:「天体が3つある場合、それらの天体の運動はどうなるのか?」という問題。いまだに完全解決されていない。
子どもたちにも、そういう「世界はつねに可塑的であって、未来は自分の力で変えることができる、あるいは、自分の力によって未来を変えることができてしまう」ということを、フィクションを通じて体験してほしいなと思っています。
期待する作品は「想像を超えてくるもの」
──同じく今回のコンテストに参画している、東京大学大学院教授の渡邉英徳さんや、芸術監督・社会彫刻家の青木竜太さんは、どんな作品を期待していますか?
渡邉英徳さん(以下、渡邉さん):
我々の想像を超えてくるものであってほしいと思っています。「よくがんばったね」「よくイメージしたね」とほめられるような作品ではなく、我々が想定している未来よりも、さらにその先のビジョンを示してほしいです。
大学教授という指導者の立場としては、自由で既存の考え方の枠組みに捉われない子どもたちが、しっかり活躍できる社会にしていきたいという思いがあります。
『こんなすごいビジョンを持つお子さんを、ぜひ応援していきたい!』と思わせてもらえる作品を待っています。
青木竜太さん(以下、青木さん):
私はあるとき、TVを見ていたら背後に気配を感じて、振り返ったら、ピンク色のピアノが天井を通り抜けていく幻覚を見たんです。
TVのイメージが脳に焼き付いたのかもしれませんが、そのとき、「この世の中にはよくわからないものがあるな」と驚いて、とても感動したんです。こういった驚きの経験を得られるような小説を楽しみにしています。
また、既存の作品とは構造そのものからまったく違う、独創性に富んだ作品を期待しています。これは小説なのか? インストラクション・アートなのか? 読んでいたら催眠にかかってしまう、そんな不思議な作品に出会ってみたいです。
──樋口さんや森さんは、どのような作品を期待していますか?
樋口さん:
私が期待しているのは、未来を追い求めるような作品ですね。制作を通じて、自分自身で世界を構築することを経験してほしいなと思います。
森さん:
個人的には、『宇宙をいかに平和にできるか』というSF作品を読んでみたいですね。
私は小さいころからラブ&ピース的な活動をしていたのですが、あるとき、地球平和から宇宙平和に目標が拡大しまして……『宇宙平和』は私にとってのキーワードです。
子どもたちが、未知の領域である宇宙全体をいかに平和にできるかと考えたときに、どんな発想やアプローチを思いつくのかなと期待しています。
もちろん、宇宙平和以外でも、さまざまな角度からのアプローチで、自由に想像している作品の応募を待っています。
このコンテストが子どもたちに与えうるもの
青木さん:
私は、今の社会では、子どもたちが頭の中で描いていることをなにかに落とし込むことを抑え込まれているのではないか、という危惧があります。
友人関係や家族の方などのネットワークがあり、そこからのフィードバックが創造性を発揮する機会を抑え込んでいるように感じるのです。
そういう「創造性格差」が、大人になってから、自分で考え、仲間を集めて実行できるかの差につながるのではと思っています。
子どもたちが本来持っている創造性を解放するには、自分の好きなことを共有できるコミュニティに参加することが大切です。このコンテストが、それになると良いなと思っています。
樋口さん:
私も青木さんと類似した問題意識を持っています。「創造性格差」という単語は興味深いです。
抽象的な思考を『物語』として言語化するトレーニングを積んだ方たちがいっぱい出てきたら、未来はどうなるのか、どういったことが起こるのかな、という期待も大きいです。
森さん:
自分の経験ですが、社会に出てから自由に発想して話をすると、けっこう叩かれることがあります。
私は叩かれてもへこたれないタイプだったので、やってこられましたが、「へこたれない」とか「根性がある」という人だけが成功する社会はよくないとも思っています。
樋口さん:
ファーストペンギン(最初に挑戦する人)が大事だとよく言われますけど、じつはセカンドペンギンとかサードペンギンとか、最初の挑戦者に追随する多数派こそが大事だと僕は思っています。
もちろん最初のひとりが、いい意味で一番ヤバいんですけど、そういう人がひとりだけで行動しても、なかなかうまくいきません。
周りからバカにされて「もういいや」とあきらめて、結局、前例を踏襲するのが一番いい……ということになってしまいがちです。でもそれでは、自由な発想や新しい未来の可能性を抑制してしまう。
年齢などにかかわらず、『もっと自由に発想していいんだ!』という“流れ”を生むことが必要で、今回のコンテストも、そういった活動のひとつという位置づけになると思っています。
渡邉さん:
『響~小説家になる方法~』(小学館)というマンガ作品があります。この作品の主人公は、高校生ながら並外れた小説の書き手です。
彼女の周りには、好き勝手な助言をしてくる大人が出てくるのですが、主人公は才能だけで、そういった大人たちを蹴散らしていきます。
私としては、『響』の主人公のような、型破りな方からの応募も期待しています。
教科書的によくできている作品よりも、もっと自由なアイディアがある作品です。自分もそうですけど、あまり他人のいうことを聞く子どもじゃなかった気もしますから(笑)。
同人誌などで執筆経験がある方にもドンドン応募してほしいですが、逆にSF小説を読んだことないという方でも気軽に応募してほしいですね。
U-15 SF作品コンテスト「よいこのanon press award 2023」の概要
●対象者
申し込み時点で15歳以下で、保護者などの同意を得られる方。
●作品の点数、テーマ
・ひとり1作品まで。
・「だれもそうぞうしたことがない未来」をテーマに想像力豊かな小説や詩(SFやファンタジーなど)をつくる。
※小説や詩の文学作品で、日本語で書かれた作品に限ります。エッセイや絵本、シナリオなどは対象外です
●【賞・副賞】(予定)
・大賞(1作品):100万円相当の賞金
・優秀賞(4作品):3,000円分相当の図書カード
大賞受賞者と優秀賞受賞者には、
(1)2024年夏ごろに最先端科学スタートアップツアー(予定)への参加権利
(2)anon pressへの掲載権
を授与します。
●受付期間
令和5年9月1日~令和6年1月10日 24:00まで
※期間外に提出された作品は、いっさい受け付けません。余裕のある申し込みをお願いします。
★くわしい申込み方法、注意事項などはこちらからご確認ください。
★よくある質問はこちら
【プロフィール】
青木竜太(あおき・りゅうた)
芸術監督、社会彫刻家。「ありうる社会」の探求をテーマに芸術と科学技術の中間領域で、展覧会の企画運営やインスタレーション作品の制作を行う。2021年に千葉市初の芸術祭で「生態系へのジャックイン」展の芸術監督を担当。《Bio Sculpture》で、第25回文化庁メディア芸術祭アート部門ソーシャル・インパクト賞(文部科学大臣賞)を日本人グループとして初受賞。
渡邉英徳(わたなべ・ひでのり)
1974年生まれ。東京大学大学院教授。博士(工学)。「ヒロシマ・アーカイブ」「震災犠牲者の行動記録」「ウクライナ衛星画像マップ」などを制作。著書に「データを紡いで社会につなぐ」「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(共著)など。グッドデザイン賞、アルスエレクトロニカ、文化庁メディア芸術祭などで受賞・入選。岩手日報社との共同研究成果は日本新聞協会賞を受賞。
樋口恭介(ひぐち・きょうすけ)
作家、編集者、コンサルタント、東京大学大学院客員准教授。「構造素子」で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞。「未来は予測するものではなく創造するものである」で第4回八重洲本大賞を受賞。編著『異常論文』(ハヤカワ文庫)が2022年国内SF第1位。他に『すべて名もなき未来』(晶文社)などがある。webzine「anon press」編集。
森竜太郎(もり・りゅうたろう)
1990年生まれ。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)卒業。グロースハッカーとして、Uber含む複数サービスの成長に貢献。その後、空飛ぶ車を開発する株式会社SkyDriveの前身である非営利組織と、培養食肉を開発するインテグリカルチャー株式会社において、事業開発及び資金調達を牽引。2019年よりアノン株式会社代表取締役就任。SFの社会実装をミッションに掲げ、大企業の大胆な新規事業創出や日本の想像力の拡張に注力。