「昆虫オタク」の中学生が、さまざまな悩みを抱えるクラスメイトとの関わりのなかで、悩みを優しく解きほぐしていく、繊細な群像物語。五十嵐美怜さんの『15歳の昆虫図鑑』。
体型に悩む女子中学生が、ヒップホップの世界に飛び込み、ラップで自分の殻を脱ぎ去っていく、痛快な青春ストーリー。福木はるさんの『ピーチとチョコレート』。
第64回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれた2作品が同時刊行(2024年11月14日)!
お互いの物語の見どころや執筆秘話、さらに講談社児童文学新人賞に応募したきっかけや、これから新人賞に応募する人に向けてのアドバイスまで、余すところなく語り尽くします。
五十嵐美怜
福島県出身在住。日本児童文芸家協会、日本児童文学者協会に所属。図書館での勤務をきっかけに児童書の執筆と投稿を始める。主な作品に、「恋する図書室」シリーズ(集英社みらい文庫)、『きみがキセキをくれたから』(青い鳥文庫)などがある。本作『15歳の昆虫図鑑』で第64回講談社児童文学新人賞佳作入選。
福木はる
沖縄県出身、千葉県在住。琉球大学教育学部卒業。小学校教諭を勤めた後、子ども支援の活動に従事。2023年、『ピーチとチョコレート』で第64回講談社児童文学新人賞の佳作に入選し、本作がデビュー作となる。
五十嵐「カブトムシの生態をLGBTQ+と結びつけようと考えた」
──書籍出版、おめでとうございます! 2作品の魅力を、紐解いていきましょう。まずは、五十嵐さんが書かれた『15歳の昆虫図鑑』を読まれて、福木さんはどんな感想を持たれましたか。
福木:『15歳の昆虫図鑑』は、普段は気軽に使わないのですが「尊い」という言葉がしっくりくる作品でした。自分の存在や性的指向など、さまざまな悩みを持つ4人の中学生が、昆虫オタクのクラスメイト「蛍子(けいこ)」と関わることで、新しい自分に気づいていきます。蛍子がクラスメイトを自分の好きな昆虫に例えるところは、昆虫の意外な生態を知ることができて面白いですよね。特に印象的だったのが、LGBTQ+の悩みを抱えるクラスメイトの健都(けんと)に、蛍子はカブトムシがオスとメスの特徴が混ざりあった「雌雄モザイク」の話をするシーンです。
五十嵐:図書館で司書の仕事をしていたころに、カブトムシの本を読んで「雌雄モザイク」のことを知りました。私自身、男でも女でもない自分を日頃から感じているので、物語のなかでLGBTQ+と結びつけられないかなと考えたのが『15歳の昆虫図鑑』を書いたきっかけです。カブトムシだけで書くよりは、いろんな虫の知識を盛り込んで1つの物語にしたら面白いかなと思って、昆虫の本を読み漁って、コセアカアメンボやアブラゼミなど、あわせて5つの昆虫を選びました。
福木:蛍子がクラスメイトたちを昆虫に例えることで、それぞれが悩みを解きほぐす糸口を見つけるんですよね。「こうすればいい」という解決方法を見せるのではなく、登場人物に「気づき」や「繫がり」を教えてくれるところに、優しさを感じました。
五十嵐:私が作品を書くうえで気をつけているのは、「大丈夫だよ」という読者へのメッセージが、押しつけがましくならないことです。虫の生態を伝えるのが大人ではなく、登場人物と同じ目線で話せる蛍子に託したのも、そういう理由から。なるべく子どもたちの悩みに寄り添って、読んだら安心した、勇気が出たと感じてもらえる物語の展開や文章になるように意識しています。
福木:本当に、ひとりひとりの悩みに寄り添ってくれる物語です。五十嵐さんはどんな方に、この物語を読んでもらいたいですか。
五十嵐:私は母子家庭で裕福ではなかったり、外見のことでいじめられたり、ジェンダーの悩みがあったりと、悩みの多い子どもでした。消えちゃいたいと考えたこともあったけれど、なんとか踏ん張って生きてきたら幸せなこともあって、いつしか「生きていてよかった」と思えるようになりました。壁にぶち当たって、悩んでいる子どもたちに「無理に頑張らなくても、立派になろうとしなくても、生きていればなんとかなるよ」と伝えたい。そんな想いから『15歳の昆虫図鑑』を書きました。
『15歳の昆虫図鑑』 著:五十嵐 美怜 装画:ゲレンデ 挿絵:柏 大輔
虫オタ×悩みアリな中学生たち!?
虫オタな転校生が、悩める4人のクラスメイトの魅力を「昆虫」にたとえはじめると、クラスメイトたちが次々と「新しい自分」を発見する!
【こんな人におすすめです!】
・まわりに気遣いすぎて自分をだせない
・同性の友人に恋心を抱いているかもしれない自分にとまどっている
・田舎の閉塞感に不満を募らせている
・親や友だちにもっと大事にされたい
…みんな虫オタの蛍子が、あなたの魅力を教えてくれます!
「推しの作品です!」──児童文学作家 村上しいこさん推薦!