1ヵ月に100体を施術! 予約のとれない「ぬいぐるみ」専門病院ができたワケ

杜の都なつみクリニック院長・箱崎なつみ先生インタビュー 第1回

編集者・ライター:山口 真央

お子さんが大事にしていたぬいぐるみを、誤って汚したり、傷つけたりしてしまった経験はありませんか。

姿はかわっても、お子さんがぬいぐるみにかける愛情はかわりません。親としても、1つのものを大切にする気持ちは守ってあげたいですよね。

でも、汚れが残ってしまったまま遊び続けるのは衛生的に心配。傷ついた穴から中綿が飛びでたら、誤飲の恐れもあるでしょう。

持ち主の気持ちを大切にしながら、ぬいぐるみをケアしてくれるクリニックが東京・神田にあります。「ぬいぐるみ専門病院® 杜の都なつみクリニック」の院長、箱崎なつみ先生に、ぬいぐるみ専門病院をつくった経緯と診察内容を伺いました。

杜の都なつみクリニック院長の箱崎なつみ先生。治療中のぬいぐるみを抱えて。

ぬいぐるみの「修理」ではなく「治療」をする場所

──「杜の都なつみクリニック」を開業された経緯を教えてください。

洋裁の専門学校に通ったあと、洋服のお直しをあつかうお店につとめました。ジャケットの肩幅詰めや、スカートの裾あげなどのメニューのなかに、ぬいぐるみ修理がありました。それが、私がぬいぐるみのお直しをはじめたきっかけです。

お洋服やカーテンのお直しは、お客様にきれいだね、ありがとうと言われてお帰りいただくのが普通。でもぬいぐるみ修理は、まるで自分の子どもの退院を迎えいれるかのよう。涙ぐみながら喜んでくださる方も少なくないんです。そんなお客様の姿に心を打たれました。

どうやったらお客様の役に立てるだろうと思ったとき、ぬいぐるみの病院をつくろうと考えました。ぬいぐるみを修理するのではなく「治療」するための病院です。そのような思いから独立し、杜の都なつみクリニックを開業しました。

治療中のぬいぐるみ。中綿を取り替えるサービスでは、もとに入っていた古い中綿と、同じ重さの中綿をつめることで、もとどおりの張りを復元します。

ぬいぐるみ治療はカウンセリングが命

杜の都なつみクリニックに入院した「ファミちゃん」のビフォーアフター。入院時は目がとれ、体に張りがありませんでしたが、退院時にはふわふわの体に戻りました。

──入院するまでの工程と、簡単な診察内容を教えてください。

杜の都なつみクリニックには、7名のスタッフがいます。全員がぬいぐるみ治療のことを熟知しているので、どんなお問い合わせがきても的確に対応できます。

入院するぬいぐるみは、月に100体が目安。入院期間は、平均1ヵ月から2ヵ月が必要です。2023年2月現在、ありがたいことに今年の11月まで予約が埋まっている状態です。

ぬいぐるみをお預かりするときには、必ず問診票を書いていただきます。問診票には治療内容を内科・外科・眼科・耳鼻咽喉科・美容外科・リラクゼーションなどの項目にわけ、お客様の要望を細かく伺います。この過程が、とても重要です。

杜の都なつみクリニックの問診票の一部。「穴ふさぎ」「おメメ再生術」「ピーリング毛玉とり」など、診察内容が事細かく書かれています。

入院するぬいぐるみには、生地の70%以上がなくなっている状態の子もいらっしゃいます。そういったときは、昔のお写真をお借りして表情をつくります。また穴が開いてしまっている場合は、穴をふさぐだけでは形がかわってしまうので、似た生地を当てるなどして、修復していきます。

ぬいぐるみに傷があったときでも、すべてもとどおりにしていいとは限りません。たとえばストーブの近くに置いていて焦げてしまったあとを「自分のことを守ってくれた証として温存したい」とおっしゃるお客様もいらっしゃるのです。

私たちは専門職なので、技術があるのは当たり前。その上でできることは、お客様の要望に沿ってあげること。治療に入る前に、お客様が仕上がりをイメージできるよう、カウンセリングを丁寧におこないます。お客様が納得してはじめて、私たちは治療を開始することができます。

杜の都なつみクリニック、箱崎なつみ先生のインタビュー第2回は、3月21日に公開予定です。

なんと「ぬいぐるみ診療所」の童話が大人気! はやくも3冊目が刊行

作/かんのゆうこ 絵/北見葉胡 定価/1320円(税込み)

杜の都なつみクリニックの箱崎なつみ先生のインタビュー、素敵でしたね! 実は児童文学の世界にも、ぬいぐるみや診療所を舞台に描いた物語あります。

大人気「はりねずみのルーチカ」シリーズのかんのゆうこ&北見葉胡コンビが、ぬいぐるみ診療所を舞台に描く心のいたみをいやす物語。大変評判で、待望の3冊目が発売しました!

りりかさんは、ぬいぐるみのおいしゃさん。ぬいぐるみだけでなく、ぬいぐるみの持ちぬしの心までいやします。今日は、大事にしていたペガサスのつばさを切ってしまった少年がお母さんと診療室にやってきました。少年が心に隠していた秘密をお母さんが知ることで、本当の願いを思い出すことになるのです──。

ぬいぐるみが好きな人、ぬいぐるみの気持ちを知りたい人、自分の本当の気持ちを知りたい人、大切な人に気持ちを届けたい人にぜひ読んでもらいたい、感動の「ぬいぐるみ童話」です。

丸善丸の内本店にて、パネル展開催!

『りりかさんのぬいぐるみ診療所 パンダのなみだ』発売を記念して、丸善丸の内本店で「りりかさんのぬいぐるみ診療所」パネル展が開催中です。

画家の北見葉胡さんの美しい挿絵を、じっくりとご覧頂けます。たくさんのぬいぐるみたちが大歓迎していますので、ぜひご覧ください。

『りりかさんのぬいぐるみ診療所 パネル展』
期間:2023年2月22日(水)~2023年3月15日(水)
場所:丸善丸の内本店3階児童書売り場、エレベーター上がってすぐ
〒100-8203東京都千代田区丸の内1丁目6-4 丸の内オアゾ3階
JR東京駅丸の内北口より徒歩1分

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。