長老はそうつぶやくと、音も立てずに山の奥へ歩き去ってしまいました。キビタンが追いかけようとしましたが、強い風が吹いて目をつむると、長老の姿は見えなくなっていました。
キビタンは、長老の言った言葉を心の中でくり返します。
「ことしの冬はな、あったかくてゆきがたんにくて、雪うさぎさんはがおってるんだ」
……たしかに、今年はあまり雪がふらなかったし、ふってもすぐとけていました。
「そういえば今年、雪だるまを作れなかった……」
キビタンは考えます。咲くのが早いモクレンやレンギョウ。動き出していた虫に、早起きのカナヘビくん。そして作れなかった雪だるま──。
「……小さなことだけど、ぜんぶつながっている。地球があったかくなってきてるんだ……」
今、地球の気温はどんどん上がっていて、「地球温暖化」という大きな問題になっているとテレビのニュースで見たことをキビタンは思い出しました。温暖化の影響で雪が少なくなって、それで雪うさぎさんの具合が悪いのかもしれません。
(じゃあ、「冬がなぐなれば、春もなぐなる……」というのはどういう意味だろう?)
春の訪れを告げる雪形。でも、今年は春になる前に現れて、すでに消えてしまっています。
(とにかく、雪うさぎさんをさがしてみよう。上の、もっと雪があるところにいるかもしれない)
山には雪の白いかたまりがちらほらと残っています。キビタンは羽を広げて、さらに上へと飛んでいきました。
「雪うさぎさーん! どこー!?」
名前を呼びながら飛び続け、とうとうてっぺん近くまできてしまいました。吾妻小富士のてっぺんはお釜のような大きな火口で、雄大な景色が広がっています。むきだしの土に、ゴツゴツした岩。大昔の噴火のあとが見られる、貴重な場所です。
キビタンは、地面に降りて雪うさぎさんをさがすことにしました。雪はうっすらとしか積もっておらず、風がさらさらと音を立てて吹き抜けていきます。雪うさぎさんの姿は見えません。キビタンは大きな声でさけびました。
「おーい! 雪うさぎさーん!」
返事はなく、キビタンはがっくりとうなだれました。
「今年は雪うさぎさんに会えないのかな……ううん、今年だけじゃなく、もしかしたら来年も」
キビタンはハッとしました。長老の、「冬がなぐなれば、春もなぐなる……」という言葉の意味が、やっとわかったのです。寒い冬があるから、あたたかい春もくる。
でも、このままどんどん温暖化が進んで、いつか冬がなくなってしまったら?
雪がふらなくなれば、春を告げる雪形は現れません。そうすると、雪形の妖精である雪うさぎさんも、出てこられなくなってしまいます。
「そんなの、絶対ダメだよ」



















































































