“人見知り”は成長の証 赤ちゃんの謎行動を発達心理学者が解説!

発達心理学者・坂上裕子教授「謎行動にはワケがある。もっと知りたい赤ちゃんの気持ち」#3~乳児後期編~

発達心理学者:坂上 裕子

「親子で同じ物を見て一緒に話す、一緒に笑い合うといった時間を大切にしてほしい」坂上教授
写真:シーアール

スマホも一緒に見ればコミュニケーションになる

人や物の区別がついたり、動作のイメージが湧いてきたりと、成長の変化が目に見えてわかりやすくなってくる乳児の後期。坂上教授によると、生後10ヵ月は赤ちゃんにとって大きな節目なのだと言います。

「赤ちゃんは生後10ヵ月頃まで、物と向き合っているときは『物と自分』、人と関わっているときは『人と自分』だけで完結していて、物と人の両方に対して“同時に”、または“交互に”注意を向けることが難しい。

それが、生後10ヵ月を過ぎてくると、物と人の両方を“同時に”認識したり、物を介して人とやり取りをしたりといった、『共同注意』が成り立つようになります。

“会話”は、同じ対象に注意を向けて、その対象についての言葉をお互いに交わすことで成立します。『共同注意』が成り立つようになると、ボールを持った赤ちゃんに『ちょうだい』と言えば、『どうぞ』と渡してくれるはず。

一緒に何かを見て話すなど、赤ちゃんと同じ物を共有する『共同注意』の経験は、後に言葉を使ったコミュニケーションをするうえでも重要な土台です」(坂上教授)

その後のコミュニケーション能力にも影響を与える「共同注意」。近年、坂上教授はこの「共同注意」について、あることを懸念していると言います。

「最近、スマホの普及によって、育児にもスマホを用いる親御さんがいます。例えば、スマホで動画を流して子どもに渡しっぱなしにしてしまうと、自分と画面だけの世界になってしまい、『共同注意』が成り立たなくなる。

一緒に画面を見ながら楽しむ時間もあれば心配はいりませんが、一方的な刺激を受けるスマホを子どもが一人で見ているだけでは、人と共有するコミュケーションが生まれませんよね。

窓の外に飛行機を見つけた子どもが『あっ』と反応を示したら、『飛行機が飛んでいるね』と一緒にそれを見てあげる。そんな時間が、この時期を過ぎた赤ちゃんにとっては、大切になってきます」

0歳からあれこれやらせると情報の与えすぎに

時代の変化とともに変わってきている子育てについて、坂上教授はほかにも注意するべきことがあると言います。

「例えば、音楽教室や水泳など、まだ幼い時期から通い始める習い事は多いですよね。近年、早いうちから習い事をさせることは当たり前のような風潮が見られますが、昔は幼い子どもが通える習い事やスクールは選べるほど多くありませんでしたし、今も地域によっては充実していないところもあります。

0歳から何かをやらせようと考える親御さんがいますが、子どもの嗜好や関心は成長とともに変わっていくもの。たまたま聴かせたピアノの音に楽しげな反応をしたとしても、それはそのときにピアノの音の高さや響きを気に入っているだけで、必ずしも将来ピアノを弾きたがるようになるとは限りません。赤ちゃんのうちから、『この子はこれが好き』とあまり決めつけない方が良いのです。

赤ちゃんがそれを実際に望んでいるかどうかは本人に聞かなければわからないですし、『これをやりたい』と自ら訴えることはまずありません。

本来、子どもは放っておいても自分で好奇心の持てる物を見つけ、自分の体を使って学んでいきます。親が先回りをして一方的に与えすぎるのは、子どもの興味・関心の芽生えや、自分で考えて主体的に動いていくことを阻害してしまう可能性があるのです」

坂上教授によると、新しい教育指導要領や保育指針では、子ども自身の主体的な学びを重視する、という姿勢が打ち出されています。

さまざまな情報があふれて物事がめまぐるしいスピードで変化する現代では、未知の状況に置かれたときに、自分の頭で考えて主体的に行動する力が求められます。そんな中で、周囲の大人が子どもの関心を置き去りにして、「これをやるといい」と先回りして与えてしまう傾向を、発達教育の現場を長年見てきた坂上教授は危惧しています。

坂上教授に、改めて乳児と向き合う親にとって大切な心得を教えていただきました。

「親が赤ちゃんの心を知るためには、赤ちゃんが何を見ているのかを観察して、何に関心を持っているのか考えるところから始めましょう。与えることにばかり意識をとらわれて乳児からのサインを拾えなければ、親の一方的なコミュケーションになってしまいます。

生後10ヵ月前後は、『他者と同じ物を見てやり取りできるようになる』という、赤ちゃんの発達において大きな変化が起こる時期。赤ちゃんが目を向けた物に親も一緒に目を向けて、関心や気持ちを共有してみましょう」

本能的な生存のための行動が主となる新生児(#1)、表情や声色を通してメッセージの伝達ができるようになる乳児期・前期(#2)、そして人と気持ちを共有できるようになる後期、と坂上教授に赤ちゃんの行動について3回に渡り話を伺ってきました。

赤ちゃんとひとくくりに言っても、親が向き合うのはほかの誰とも違うたった一人の我が子。親といえども正確に子どもの心のうちを理解して予測することはできませんが、やり取りを重ねて試行錯誤する中で我が子の気持ちについて理解を深められると良いですね。

取材・文=柳未央(シーアール)

坂上裕子教授インタビューは全3回です。
#1「赤ちゃんはハデ好き!? 新生児の“謎行動”を発達心理学者が解説」
#2「乳児とのやり取りは“テニスのラリー” 発達心理学者が秘訣を解説」

12 件
さかがみ ひろこ

坂上 裕子

青山学院大学教育人間科学部心理学科教授

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる発達心理学 -- 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)など。

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる発達心理学 -- 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)など。