子どもが夜中に目覚め泣き叫ぶ「夜驚症」 原因を小児科医・ふらいと先生がわかりやすく解説

小児科医・今西洋介先生に聞く「夜驚症」 #1 子どもの「夜驚症」の原因について

小児科医・新生児科医:今西 洋介

「夜驚症」はなぜ起こるのでしょうか?  写真:アフロ(イメージ)

夜中に突然、寝ていた子どもが起き上がり怯えたように叫び声をあげて泣き出す。また、目を見開いてパニックに陥る……。

そんな状態が、場合によっては1時間も続くのが「夜驚症」です。

なだめても、抱きしめても症状がなかなか治らないだけに、親としては「子どもの心に何か問題があるのでは?」と心配になります。

しかし、小児科医・新生児科医の今西洋介先生は、「深い睡眠中(ノンレム睡眠)のときに目覚めてしまう症状で、自然に治っていくものです」といいます。

そこで今西先生に、夜驚症について解説していただきました。1回目は、「なぜ夜驚症は起きるのか?」について。症状の原因を探ります。

(全3回の1回目)

今西洋介(いまにし・ようすけ)
小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。
SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。
X(旧Twitter)ではふらいと先生(@doctor_nw)としてフォロワー数は14万人。

旅先の緊張や睡眠不足などが誘発する夜驚症

──日中は大きな問題行動もないのに、夜中に突然、甲高い声で叫んだり、恐怖に慄いた表情を見せるなどが10分から、場合によっては1~2時間も続くという「夜驚症」。

なだめても声をかけても、こちらに気が付かないほど泣き叫んでいるので、「一体何が悪いのか」と心を痛めている親御さんも少なくありません。

今西洋介先生(以下、今西先生):夜驚症は睡眠時随伴症(すいみんじずいはんしょう)の一種で、医学用語では睡眠時驚愕症(すいみんじきょうがくしょう:睡眠中に起きる異常な行動)といいます。

睡眠には、浅い眠りの「レム睡眠」と、深い眠りの「ノンレム睡眠」がありますが、夜驚症は、脳が休んでいるノンレム睡眠中に起きる覚醒障害です。大体2歳ごろから発症し始め、8歳~12歳が発症のピークと言われています。

──睡眠中に目覚めてしまうということであれば、親が声をかければ落ち着くような気がするのですが、夜驚症の場合はいくら声をかけてもパニック状態が続いてしまうのはなぜなのでしょうか?

今西先生:深い眠りの途中に突然覚醒するため、脳の一部以外はまだ眠っている状態なので、親御さんが声をかけても反応はありません。ですから、いくら声をかけても自分の世界に入り込んで泣き叫んでいるように見えるのです。

──どんな子でも、レム睡眠・ノンレム睡眠の波がある中で、子どもによってノンレム睡眠中に夜驚症が起きるのはなぜなのでしょうか? 例えば、子どものお昼の過ごし方などが症状を引き起こしているということはあるのですか?

今西先生:そうですね。そもそも子どもの脳は睡眠をコントロールする機能が未熟で、睡眠状態からうまく覚醒できないために起こるのではないかと考えられています。

一方で、いくつか要因というのはわかっていて、例えば睡眠不足や発熱、何かしらのストレスや不安がある場合は症状を引き起こしやすいといわれています。

また、旅先などいつもとは違う環境、慣れない環境で寝たりすると起きやすいともいわれています。旅先で、子どもは楽しいことや、ときには緊張する体験をしますよね。そういうことが夜驚症を引き起こすとも考えられているのです。

夜驚症も夢遊病も覚醒障害のひとつ

──夜驚症と同じような覚醒障害は他にもあるのでしょうか?

今西先生:夜驚症と同じようにノンレム睡眠からの覚醒障害の中のひとつに、夢遊病があります。夜驚症がかん高い叫び声や泣き声をあげて、突然目を覚まして、怖がって怯えている様子を見せるのに対し、夢遊病は寝ぼけたまま起き上がって歩き回るのが特徴的です。

いずれも共通して言えるのが、親が無理に声をかけたりしないほうがよいということ。

「寝ぼけている子に声をかけると、向こうの世界に行ってしまう」ということを耳にした方もいるかと思いますが、これってあながち噓ではないのです。というのも、夜驚症や夢遊病で覚醒しているときに、無理に落ち着かせようとすると、余計に症状が悪化するからです。

特に夜驚症の場合は、子どもが見たことないような怯えた様子を見せたり、はぁはぁと息を荒くして汗をかいたりするため、親は「落ち着いて」と抱きしめながら声をかけがちです。ですが、なだめようとすると逆に興奮するので、ここはいったん親も落ち着いて静かに見守りましょう。

そして、夜驚症も夢遊病も、子どもが怪我をしないように、危険なものを寝室に置かないということが大切です。特に、夢遊病で部屋や家から飛び出してしまうような、ひどい症状の子に関しては、ベランダから飛び出してしまう危険もあります。窓に柵を付けるなど、事前に対策をしておいてください。

──親ができることは、興奮状態を落ち着かせることというより、まずは睡眠環境を確認して、怪我をさせない、ということが重要なのですね。とはいえ、子どもが泣き叫ぶ状況がいつまでも続くのは、ママパパにとっては不安なものです。夜驚症は果たして治るものなのでしょうか?

今西先生:睡眠機能が完成する思春期くらいまでには治まることが多いので、基本的には治療を必要としません。ただ、子どもが夜起きる回数が多いと、親子ともに睡眠不足になり、体調を崩すということがあります。その場合は薬物治療などもあるので、病院へ受診をしに行くことも考えたほうがよいでしょう。

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日頃とは違う様子を見せる症状だからこそ、親として心配がつきない夜驚症。

基本的に治療は必要ないとはいえ、「いつか治るから」と放っておいていいわけではない、と今西先生はいいます。

次回2回目では、親子で安心して睡眠時間を過ごせるようになるために、受診したほうがいい場合やタイミングを引き続き、今西先生に伺います。

取材・文/知野美紀子

「夜驚症」は全3回。
2回目を読む。
3回目を読む。
(※2回目は2024年3月8日、3回目は3月9日公開。公開時までリンク無効)

いまにし ようすけ

今西 洋介

Yosuke Imanishi
小児科医・新生児科医

小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw

小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw