「発達障害」そもそも何か? パパママに覚えてほしい「これだけ」を専門家が解説

【セミナーレポート】榊原洋一先生【正しく知って安心! 「子どもの発達障害」】#1

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

発達障害には遺伝性がある

そもそも、なぜ「発達障害」と呼ぶのでしょうか? 英語では「Developmental Disorder」と言います。「Development」とは「発達」のこと。発達の過程において症状が明らかになることを指しています。

別の言い方をすると、生まれつきそのような症状があるということ。生まれつきという点が、発達障害の3つのタイプの障害に共通の特徴となります。ですから、親のしつけや教育の仕方が原因で発達障害になるということはありません。

生まれつきということは、遺伝子がそうさせていることになります。発達障害には家族性があるんですね。この場合は遺伝性と言い換えてもいいです。

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、かなり高い確率で遺伝します。簡単に言いますと、身長の高さが親に似るのと同じくらいの確率です。二人とも背が高い両親から生まれた子は、たいてい背が高くなります。それくらいの強い遺伝性があります。

自閉症スペクトラム障害(ASD)についても、遺伝性がある程度あるということがわかっています。

発達障害は増えていない

発達障害は年々増えているという印象を持たれている方も多くいます。

20年前の調査では子ども全体の6.3%でしたが、徐々に増えて、最近では8%を超えたというデータもあります。数字は確かに増えています。

しかし、疫学(疾病に罹患する法則を探し出す学問)の専門家の間では、増えていないという意見で一致しています。社会に発達障害についての知識が広まるにつれて、以前よりも障害を見つけられるようになってきたことが、数字に表れていると考えられています。

文部科学省の調査によると、通常学級の子どもたちの6〜8%に発達障害があるとされています。これは16〜17人に1人の割合。現在、一クラスは33人か34人のことが多いですから、平均的にクラスに2人は発達障害の子がいることになります。

タイプ別に見てみると、一番多いのが注意欠陥多動性障害(ADHD)で4〜5%。自閉症スペクトラム障害(ASD)で1.5〜2%となっています。学習障害(LD)は、実は言語体系によって有病率にかなり差があります。英語圏では6〜7%もありますが、日本ではそれほど高くはなく、1〜3%となっています。

発達障害は総称。3つの障害には診断基準がある

こちらの表をご覧ください。

「発達障害」として扱われる範囲にバラつきがある(榊原先生作成)

上にさまざまな障害が書いてあります。上から2つ目の矢印を見ると、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)がその範囲です。私は、発達障害とはこの3つのタイプの障害だと申し上げました。

日本には発達障害者支援法という法律があるのですが、そこにもこの3タイプの障害を持つ人が対象であることが書かれています。

ところが、一番下に書かれている日本発達障害学会という学会がありまして、これは昔は知的障害の学会だったのですが、この学会で扱う患者さんは自閉症などに加えて、知的障害や脳性麻痺、ダウン症まで広範囲に及びます。

この日本発達障害学会は、発達障害関連の学会で最も古くからあります。法律でも発達障害はこの3つとされていますし、私もそうだと申し上げているのですが、伝統のある学会だけに発達障害は3つだけではないと主張する方もいらっしゃいます。

私たち専門家の間でも意見を完全に統一できておらず、それがみなさんの発達障害についての理解のしづらさに輪をかけてしまっていることは否めませんね。

まとめ

今日はまず、発達障害の概略をお話しさせていただきました。

繰り返しになりますが、覚えていただきたいことは次のとおりです。

・発達障害は総称である。
・発達障害に当てはまる3つの障害には診断基準がある。
・健常との境がはっきりしない場合もある。
・有病率は8%と高い。

有病率が高いことから、我が子を心配する親御さんがとてもたくさんいらっしゃいます。

それでは、ここからはみなさんのご質問にお答えしていきましょう。

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これだけは覚えてほしいというポイントを押さえながら、榊原先生に解説していただきました。発達障害に抱いていた漠然としたイメージが整理できたでしょうか。みなさまの理解に少しでも役に立てば幸いです。

次回のレポート第2回では、参加者のみなさまから寄せられた質問にお答えいただきます。

#2に続く)

構成・文/渡辺 高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。