「発達障害」そもそも何か? パパママに覚えてほしい「これだけ」を専門家が解説
【セミナーレポート】榊原洋一先生【正しく知って安心! 「子どもの発達障害」】#1
2023.04.29
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
「発達障害」だけでは説明不足
もしお子さんに何らかの障害がある場合に、その障害がどのようなものであるのかをきちんと理解できていなければ、適切な対処はできないからです。当然のことですよね。
世の中には発達障害についての本がたくさん出ています。しかし、発達障害が一つの診断名であるかのように書かれているものがとても多いのが実情です。専門家である医師でさえも、「発達障害の症状は〇〇だ」といった具合に間違った説明をしているケースも見受けられます。
お医者さんにお子さんを診せて、診断書を書いてもらうとします。もし、そこに「発達障害」と書かれていたら、ちょっとおかしいと思ってください。
それは、明らかに心筋梗塞である患者さんを心臓病とくくってしまうようなもの。間違いではないけれど、ほとんど意味がありません。ざっくり心臓が良くないと言っているだけですから。
発達障害の3タイプ
では、発達障害の中にはどのような障害があるのでしょうか?
主要なものは次の3つです。
1.自閉症スペクトラム障害(ASD)
2.注意欠陥多動性障害(ADHD)
3.学習障害(LD)
この3つの障害は、一人の子どもの中に一つだけあるとは限らず、時には2つ、場合によっては3つすべてが一緒にあることもあります。
こちらの図をご覧ください。
注意欠陥多動性障害(ADHD)が一番大きな円で示されていますが、その一部に自閉症スペクトラム障害(ASD)、そして学習障害(LD)がかぶさっています。
一人の子どもを診たときに自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状が見られたとします。すると医師はつい発達障害だと言いたくなってしまいます。しかしこれは、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)が併存していると、きちんと診断しなければいけません。
メタボリックシンドローム、いわゆるメタボという言葉がありますよね。メタボは生活習慣病の前段階の状態を示すもので、具体的には糖尿病や高血圧、脂質異常症などが見られます。メタボを治療すると言っても、高血圧の人に糖尿病の薬を処方する必要はありませんよね。
それと同じように、一口に発達障害と言っても、具体的な診断名がどれであるかをはっきりさせることが大事なのです。
もしお医者さんが「あなたのお子さんは発達障害です」とおっしゃったら、「発達障害のどれなんですか?」と食い下がって聞いたほうがいいと思います。
今日は、これだけは必ず覚えていただきたいです。
「発達障害」は複数の障害を含んだ総称であること。診断名ではないのです。
発達障害には明確な診断基準がある
もう1点、発達障害が雲をつかむような漠然としたイメージになってしまう理由があります。身体の病気のようにはっきり示される症状がないというのが、その理由です。
例えば、肺炎という病気は、高熱が出て、とても苦しい咳が出て、血液を採ると白血球が増えていることがわかるなど、はっきりと身体に現れた症状に基づいて診断を下すことができます。
一方、発達障害には、そのような検査方法は一切使えません。脳波の測定やCTスキャン、神経の検査などをしてもわからないんです。では、一体どうするのでしょう?
子どもの症状の組み合わせから診断を下します。
3つの障害と定型発達、つまり健常の間は、きれいに線引きできるものではありません。どっちかなあと迷うようなことも少なくありません。そのために、専門家の間でも診断が難しかったり、複数の医師で意見が異なったりというケースも生まれてきます。
ところが、診断基準はしっかりしたものが存在します。このような症状が、これくらいあるなら障害と認定しましょうと明記された国際的なルールです。
最もよく使われているのが「DSM」。アメリカ精神医学会が作成した「精神疾患の診断・統計マニュアル」です。今は「DSM-5」が最新版です。
もう一つが「ICD」。WHO(世界保健機構)が作成した「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」です。
こういった診断基準を使えば、きっちりと診断することができます。
(参考)発達障害に含まれる3つの障害の診断基準
厚生労働省「e‐ヘルスネット」より
◎自閉症スペクトラム障害(ASD)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html
◎注意欠陥多動性障害(ADHD)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html
◎学習障害(LD)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html