ここまで考え抜かれている! インクルーシブ公園に込めた老舗遊具メーカーの工夫と願い

シリーズ「インクルーシブ公園」最新事情#3‐2 遊具メーカー「コトブキ」福田英右氏インタビュー ~最新のインクルーシブな遊具~

全身運動が楽しめるインクルーシブな遊具「ベッドジャンパー」。周囲に振動が伝わりにくいため、思いきり飛び跳ねたい子も、静かに揺れを感じたい子も一緒になって遊べます。  写真提供/コトブキ

2020年にオープンした都立砧(きぬた)公園内の「みんなのひろば」(東京都世田谷区)をはじめ、全国に増えつつあるインクルーシブ公園。

障がいの有無や国籍、年齢、性別などにかかわらず、誰もが共に遊べるインクルーシブ公園の遊具とは、どんなものなのでしょうか?

遊具メーカー「コトブキ」でマーケティングを担当する福田英右さんに、最新のインクルーシブな遊具を紹介していただきます。

※全2回の後編(前編を読む)

福田英右(ふくだ・えいすけ)PROFILE
遊具メーカー「株式会社コトブキ」マーケティング本部プロダクトマーケティング課。インクルーシブな遊具を含めた遊具の事業部などを担当。障がいの有無など関係ない“みんなが一緒”の社会実現を目指している。

「幼稚園や保育園と違って、公園での出会いは偶然。偶然の出会いから、お互いを認め合う経験が大切だと思います」と、福田英右さん。  Zoom取材より

“静”と“動”どちらの遊びも楽しめる複合遊具

愛知県豊川市にある県内初のインクルーシブ公園、豊川公園内の「こどもひろば」の複合遊具。  写真提供/コトブキ

福田英右さん(以下、福田さん) 注目してほしい最新遊具は、愛知県豊川市の豊川公園内「こどもひろば」に納入した、特別仕様の複合遊具です。

複合遊具にはさまざまな遊びの要素があるのですが、これまでは「これぐらいの運動スキルの子どもが遊びやすい遊具」などと、ひとつの遊具の中で遊びの難易度を同程度に設定していました。

それが、この複合遊具は、あらゆる運動スキルの子どもに合わせた遊びが用意されています。

例えば、車いすを使っていたり、身体的な障がいで活発に動けなかったりする子どもでも楽しめる緩やかなすべり台。

一方で、裏側にはダイナミックなクライミングウォールがあり、今まで公園を利用していた子ども、健常な子どもも十分に満足できる遊びが盛り込まれています。

さらに粗大運動と呼ばれるような“動”の遊びだけではなく、ステンドグラスのようなものがついていて差し込む光を眺めたり、パネルを動かして音を聴いたりと、動かずに楽しめる微細運動と呼ばれるような“静”の遊びも。

静かに遊びたい子、ゆっくりとしたペースで遊びたい子にも対応しているので、多様な子どもが一緒の空間で遊べる遊具です。

階段やスロープなど、登頂するまでいろいろなルートがあり、子ども自身が選択できるのもきっと楽しいはずですよ。

みんなで同時に楽しめるジャンピング遊具

飛び跳ねても座っても、寝転がっても遊べるジャンピング遊具「ベッドジャンパー」。障がいのある子どもたちにも評判だといいます。  写真提供/コトブキ

福田さん 巨大なはんぺん状の形をした「ベッドジャンパー」は、トランポリンのように跳躍遊びができるインクルーシブな遊具です。

トランポリンで遊んだことがある方ならおわかりだと思いますが、ひとりがポンポン跳ねるとトランポリン全体が揺れてしまい、体幹が弱い子、バランス感覚が発達段階の子などは、同じ場所に居づらくなります。

その点「ベッドジャンパー」は、周りの振動を受けにくく、思いっきり飛び跳ねたい子、寝たり座ったりして静かに揺れを楽しみたい子が、同じ空間で遊べるのです。

とはいえ、ほどよい揺れは感じるので「一緒にいる」という感覚が得られるのもよい点ではないでしょうか。

ひとり心を落ち着けられるスペースにも

隠れ家のようなドーム状の遊具「コージードーム」。出入り口のほかに穴がいくつも空いていて、足を掛けて上へ登ったり、中をのぞき込んだりできます。  写真提供/コトブキ

福田さん 自閉症スペクトラムの傾向がある子など、慣れない場所やにぎやかな空間に対して、違和感やストレスを抱える子どもがいます。そういうとき、自分だけの空間で気持ちを落ち着けられる遊具が「コージードーム」です。

子どものころ、押し入れのような狭い空間が好きだった方も多いと思いますが、「コージードーム」の中は3~4人が入れるぐらいのほどよい狭さ。

中から天井を見上げるとたくさんの穴があいていて、光が差し込んできます。ドーム状なので、声を出すといつもとは違う反響した声がかえってきて、不思議な感覚が味わえるでしょう。

一方で、中にいる子と外にいる子でちょっかいを出し合ったり、穴から手を出してもぐらたたきゲームのような遊び方も。子どもたち同士の交流が生まれやすい遊具でもあります。

自然とふれあいが生まれる回転遊具

福田さん 2021年、「第15回キッズデザイン賞」(主催:NPO法人キッズデザイン協議会)を受賞したのが、回転遊具「オムニスピナー」です。

向かい合って座るスタイルの遊具で、お互いに顔を見合わせながらみんなで遊べます。また、回す役・回される役で役割分担ができるので、会話や交流が生まれやすいのも特徴です。

「オムニスピナー」はとても人気のある遊具で、公園だけでなく、市役所の屋上や商業施設の屋上などにも設置されています。

ある市役所の方に聞いた話だと、設置後、市の子育て相談窓口にやってくる親御さんの数が増えたそうで、喜んでいらっしゃいました。

インクルーシブな遊具を置くことによって「居心地のいい場所」「気軽にみんなが集える場所」という思いを広く示せることができたのかなと思うとうれしいですね。

内側に向いて座る回転遊具「オムニスピナー」。姿勢の保持が難しい子には背もたれ付きのシートがあり、十分な広さがあるので寝そべって遊んでもOK。  写真提供/コトブキ

“すべての子にブランコを”との思いを形にした遊具

福田さん インクルーシブな遊具の中では比較的スタンダードですが、もっとも人気があるのが「3連サポート付きブランコ」。

3連のうちのひとつは、姿勢を保持しにくい子どもでも座れるサポート付きのバケットシート。友達やきょうだいと並んで、一緒にブランコ遊びが楽しめます。

子どもたちに好きな公園遊具を聞くと、やはり「ブランコがいちばん好き」と答える子どもが多いんです。そのため、メーカーとして「すべての子どもにブランコを」「この揺れを感じてもらいたい」という思いがありますね。

体を支える力が弱い子どもでも楽しめるサポート付きのバケットシート(左)と、通常のバンパーシート2座が並んだ「3連サポート付きブランコ」。  写真提供/コトブキ
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