スマホ育児で本が読めない子に? 乳幼児期に大切なスマホのルール
東京女子大・橋元良明教授「スマホ育児」の是非 #2~乳幼児のリスク編~
2022.01.09
社会心理学者・東京女子大学教授:橋元 良明
「子どもに静かにしてほしい」、そんな時につい頼ってしまうスマホ。第1回では、社会心理学者の橋元良明東京女子大学教授の研究調査などから、「スマホ育児」にはデメリットが考えられること、そうした悪影響を回避するため、上手に取り入れていくことが大切だとわかりました。
第2回では、より具体的にスマホ育児の長所と短所を明らかにしていきます。引き続き、橋元教授に教えていただきました。(全3回の2回目。#1を読む)
スマホは身体や学力にも影響
幼い頃からスマホを与える悪影響のひとつとして、まずは視力の低下が挙げられると橋元教授は言います。
「早くからスマホを触ることのデメリットとして、目が悪くなるというのはほぼ間違いないと思います」(橋元教授)
さらに、視力の低下だけでなく、気づきにくい意外な問題もスマホ育児には潜んでいると橋元教授は警鐘を鳴らします。
「非常に大きいデメリットだと思うのは、読書のスキルが身につかないことです。いつの時代でも、多くの知識を得られる読書はした方がいい。スマホでのサイト閲覧やSNSが読書代わりになると考える方がいらっしゃるかもしれませんが、実際にはそれで読書スキルは身につきません。
本を読む際、人は視点を動かして文字を追っていきます。絵本などから始まり、子どもはそのスキルを徐々に獲得していく。しかしスマホでは、小さな画面の範囲で、スクロールさせて文字を読むため、視点の動きがほとんどありません。
読書をするには30度ほどの視野角を必要としますが、スマホの場合はわずか5度程度でまかなえてしまい、ほとんど視線を変える必要がない。そうして読書習慣が身につけられないまま成長した子どもがいざ本を読もうとすると、すごく疲れてしまいます。
本が読めないということは、その後の学歴、ひいては将来に影響しかねません」(橋元教授)
動画だけでは「言葉」が身につかない
「また、言語獲得の専門家たちの研究によると、言語というのは直接的なコミュニケーションによって、脳の言語野に働きかけないと身につきづらい。スマホで動画ばかり見ていると、言葉に対する注意力が減ってしまうんですね。
英語の動画についても同じです。子どもの英語力アップを期待して見せる親御さんがいらっしゃいますが、ばくぜんと見るだけでは、どれだけ数を重ねても子どもが英語をしゃべれるようにはなりません」(橋元教授)
動画からの一方通行の言語は、言語発達にいい影響をもたらさないと橋元教授は言います。
「例えば、子どもが『ブーブー(車)』といって、親のリアクションをうかがう。これは、自分の認識が正しいかを確認しています。言葉というのはインタラクション(相互作用)で学習するものだからです。
動画のセリフは視聴者へのリアクションがないため、自分の反応が正しいかを確認できない。すると、言語の学習が進まないのです」(橋元教授)
スマホと共存するために重要な時間制限
泣いている子どもに対してスマホを見せるのが効果的であることは、橋元教授も認めています。そして、スマホなどデジタル機器を育児に活用することは時代の流れ的に避けられないことであり、この流れはもとにはもどらない、とも話します。
つまり、親がスマホ育児の問題点をしっかり認識しつつ、うまく付き合って共存していくべき時代が到来しているのです。
「スマホ育児には時間制限が重要(#1)と言いましたが、泣いても怒ってもそこは譲らない。これが依存を避け共存するための第一歩です。
泣いている赤ちゃんに効果的だからこそスマホを安易に与えがちですが、絵本やおもちゃだってある。望むらくは、泣いている子に対して、親が向き合い、一緒になって遊んであげる。それは人類がずっと続けてきたこと。なぜ続けられてきたのか、そのよさを今一度考えていただきたいです」(橋元教授)
スマホのリスクは広範囲に及ぶ
それ以外にも、スマホばかりだと運動不足になり、健康面に加えて発達に悪影響を及ぼすなど、便利な一方でリスクと隣り合わせだと橋元教授は続けます。
「多くの家庭でスマホが育児に使われるようになったのはまだ数年ほど。スマホ育児で育った子どもたちが社会に出るのはまだ先で、スマホ育児が子どもの将来にどれほどの影響を与えるかは2022年現在、実証的研究例がありません。ただ、デメリットがすでに顕在化しているのは事実。親のコントロールは不可欠なのです」(橋元教授)
親はスマホを与えっぱなしではなく、子どもをよく観察しながら、その都度判断していきたいですね。