
発達障害の特性のある子どもを持つ父親への支援【前編 父親の実態】〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説
#14 発達障害の特性のある子の父親のストレス
2025.06.05
言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生が解説します。
記事の最後には、原哲也先生へのご相談募集のお知らせもあります。最後までご覧ください。
【発達障害・発達特性のある子のお悩みに専門家が回答】これまでの回を読む
発達障害の特性のある子どもを育てる父親への支援
これまで3回にわたって、発達障害の特性のある子どもを育てる母親の支援についてお話をしてきました。
発達障害・発達特性のある子を育てる親や家族のストレス
発達障害の子どもを育てる母親への支援
発達障害の子どもを持つ親や家族の精神的負担への支援
今回からは母親以外の家族への支援についてお話ししていきます。最初に考えたいのは、「もう一人の親」である父親への支援です。
発達障害の特性のある子どものいる家庭 「父親」の実態
ある報告は、「大家族から核家族へ、また広域から高層へ生活環境が変化した現在、母親の孤立を防ぐキーパーソンは父親である」と述べます〈「発達障害児の父親の文献検討 ─父親を取り巻く環境に焦点を当てて 大久保麻矢 和洋女子大学紀要 第64集 P207-213(2023.03)」〉。
このように、発達障害の特性のある子の母親の支援において重要な役割を担うとされる父親の実態はどのようなものなのでしょうか。
(1)母親の声から
父親の実態を示すものとして、まず、リアルな母親の声をひろってみましょう。
「もっと子どもと遊んでほしい。もっと子どもと向き合い、子どもと関わってほしい」
「仕事から帰ってくるとゲームばかりやって、大きい子どもがもう一人いるみたい」
「怒ってばかりで、子どもも嫌がっている」
「子どもと向き合う時間を作ることで私のサポートをしてほしい」
「夫婦で話し合いたいと思っても父親は聞いているだけで、自分の考えを言わないから話し合いにならない」
相談の中で母親から出てくる訴えです。
発達障害の特性のある我が子に「向き合わない」「関わらない」、我が子のことなのに「話し合って母親と協力して問題解決に向かおうとしない」こんな父親の実態が見えてきます。そうなってしまっている理由のひとつが、父親が発達障害について十分に理解していないことです。
(2)父親の発達障害についての理解や認識
①我が子に関する情報量が少ない
長時間労働が当たり前のような日本では、6歳未満の子どもを持つ父親が、平日に子どもと過ごす時間は平均2~4時間未満とされ、先進国中最低の水準です。
そうなるとどうしても父親は子どもと接触する機会が少なく、一緒に過ごす時間が長い母親に比べて、子どもについての情報量が圧倒的に少なくなってしまいます。
発達障害と診断された子どもの親に、子どもが何歳のときに発達特性に気づいたかを尋ねたところ、父親は子どもの平均年齢が4.0歳、母親は子どもの平均年齢が2.3歳のときと、1.7歳も差があったといいます〈高機能広汎性発達障害児・者をもつ親の気づきと障害認識─父と母との相違─山岡祥子・中村真理 特殊教育学研究46(2),93-101,2008〉。
②「子どもとはこんなもの」ととらえる傾向
父親は、感覚過敏やこだわりからくる子どもの行動の特性に気づいてはいても、「子どもはこういうものだ」ととらえる傾向があるといいます。
発達障害は、身体的障害と異なり目に見えにくいこと、特性による行動は定型発達の人でも多少はありうること(例えば道順についてこだわるなど)からこのようなとらえ方になることがあるのだと思います。
とはいえ、子どもの成長にともなって特性がはっきりしてくると父親も子どもの発達障害を認識せざるを得なくなります。それは父親にとってもストレスとなります。