
発達障害の特性のある子どもを育てる父親への支援【後編 父親の育児支援】〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説
#15 発達障害の特性のある子どもを育てる父親のサポート
2025.07.01
言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也
1.父親の「関わり」の例
父親が子育てに関わらないと嘆く母親は多いです。しかし、発達障害の特性のある子どもの父親の中には、さまざまな形で我が子の子育てに関わる方もおられます。
母親が子どもと専門機関に行くときは他の子どもの面倒をみる、父方の祖父母の協力を得られるよう調整する、経済的に安定するよう仕事を頑張る。また、母親の話を丁寧に聞く、休みの日は子どもの世話をして母親を子育てから解放するなどの形で、母親のケアをする。
最近では、相談や療育施設に、母親と一緒に来る父親も増えてきているように思います。
2.父親の育児参加支援
父親は子どもや母親にとって重要な存在ですし、父親の育児参加は社会性の発達などの面で子どもの成長に影響するといいます。
父親の育児参加促進のための試みもなされていますが、こと、「発達障害の特性のある子どもを育てる父親」に対する育児支援はほとんど手付かずです。そもそも支援の前提となる発達障害の特性のある子どもの父親の子育てに関する研究報告もとても少ないのです。
この状況、そして前回お話しした父親の実態を前提に、以下、私自身の経験をもとに、発達障害の特性のある子どもの父親の子育ての支援につながるのではないかと思うことを、お話しします。
3.発達障害の特性のある子どもの父親の支援にむけて
(1)医療機関、療育機関への同行のススメ
お父さん方にまず考えていただきたいのが、年に1回でも2回でも子どもの受診や療育機関での臨床に同行することです。
発達障害の特性のある我が子を前に父親は、子どもの行動の理由や子どもとの関わり方がわからない、将来への不安など、さまざまな疑問や悩みを持っています。医療機関や療育機関に同行することで、医師や専門職から、疑問や悩みの解決に向けて何らかのヒントを得られるかもしれません。
そして何よりも、子どもについての理解が深まります。
ところで、お父さん方は医師や専門職に質問がしにくいのか、来たはいいが結局、聞きたいことを聞けないで帰ることがよくあるように思います。
質問しにくければ、知りたいことを書き出してメモにして渡してください。失礼ということはありませんし、書き出すことで、目的意識を持つ、主体的になるという面もあるかと思います。
(2)ペアレントトレーニング等への参加
こんな研究があります。
自閉症の子どもの父親に対して、自閉症の子どもと関わる際の4つのスキル、すなわち、①子どものリードに従う、②動作を用いた模倣、③子どもの行動や気持ちについてコメントをする、④子どもからの働きかけに期待を込めて待つ、のトレーニングを行いました。
12週にわたり週2回のトレーニングを実施した結果、父親の②「動きを伴う模倣」③「子どもへのコメント」④「期待を込めた待機」が増え、子どもの発話も非言語的発声も増えました。
すなわちトレーニングで知識と経験を積むことで父親も、子どもと関わる力が向上し、子どももその変化に敏感に反応するのです。
〈参考文献:In-Home Training for Fathers of Children with Autism : A Follow up Study and Evaluation of Four Individual Training Components著 Jennifer H. Elder • Susan O. Donaldson ら Journal of Child Family Studies (June2011) 20(3):263–271〉
ですから、父親に対するペアレントトレーニングや子育て教室などの機会があればぜひ、参加しましょう。
どうしても子どもと接する時間が短くなりがちな父親も、このようなトレーニングを重ねることで子どもと関わるにあたって自信が持てるのではないかと思います。
ただ、日本では、父親対象のペアレントトレーニングの機会はまだ少ないです。このような機会が広がることを望みます。