【発達障害・発達特性のある子】の癇癪 〈かんしゃく〉への対策 「療育の専門家」がわかりやく解説

#9 子どもの癇癪への対応は?〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

成長とともに変わる癇癪と対策

(1)1歳前後から2歳未満

特徴
生理的な理由による癇癪が多い時期です。自己主張も少しずつ出てきて、「今は寝ない」「お母さんの靴を履く」「ここにいる」などといろいろな主張をします。しかし自分の気持ちや考えをことばでは言えないことが多く、また、主張が通らないことへのいらだちを自己制御する力も未熟なために、癇癪が起きます。

対策
・共感のことばをかける
大人には諸々の都合があるので、癇癪にはイライラしますが、「そうか、そうか」「履きたいんだね」「ここがいいのね」と基本的には子どもが言いたいことはわかっているよ、と共感します。

・時間的な猶予を与える
ある程度、子どもが満足するところまで時間的な猶予を与えながら、少しずつ、やってほしい行動へ促しましょう。

(2)2歳から3歳

特徴
この時期は「イヤイヤ期」や「魔の2歳」と言われます。好奇心も出てきて成長していく中で見えてきた新たな「世界」のさまざまなことがらについて、とにかく自分はできる、自分でやりたい思いが強く出る時期です。ですが、まだまだ不器用だったり、未熟だったりするのでうまくいかないことも多く、やりたい! でもできないとイライラします。

また、まだ世の中のルールがわからないし、他者の立場ではどうかという視点を持てないでいるために、なぜ止められるのかがわからないことも多いのです。やりたいことがたくさんあるのにダメと言われる、やりたくないことがたくさんあるのにやれと言われる、しかも、自己制御の力がまだうまく働かない。そこで、癇癪が起こります。

対策
・共感的、肯定的なことばかけ
やってみたけれどうまくいかなかったという場面では、子どもの気持ちを想像しながら、肯定的なことばかけをしてみます。

お兄ちゃんのようにジュースをコップに上手に注ぎたかったけどこぼれちゃった。そういうときには、「お兄ちゃんみたいに上手に入れたかったんだよね」「頑張ったよね」のようなことばをかけます。言語理解力も進んできているので、ことばをかけられることで落ち着くこともあります。

・クールダウンの時間的猶予を与える
興奮してしまって、ことばが耳に届かないこともあります。そのようなときには、静観して落ち着くのを待ちます。

・落ち着いてきたらほめる、気分転換を図る
少し落ち着いてきたら、「落ち着いてきたね」とことばをかけるなど、落ちついたことをほめます。そして、肯定的なことばをかけたり、気分転換を図るようにします。

・簡単に理由を説明する
ことばの理解も進んでくるので、ダメな理由を簡単に説明します。危ないからダメ、大事なものだから触ってほしくないというようにです。

(3)3歳から4歳ごろ〜

特徴
身体も大きくなり、身体の使い方も上達して自信を持てることも増えてきます。自己主張もかなりはっきりしてきます。そして、世の中のルールなども少しずつわかるようになる中で、自分なりの考えや根拠や理由をもって主張をするようになってきます。しかし、自己制御の力が十分ではないので、自分の主張が通らないと「ママなんて嫌いだ!」と叫んで癇癪を起こします。

対策
・気持ちをことばにしてもらう
基本的には2~3歳と対策は同じですが、落ち着いたら子どもが自分の気持ちをことばにできるようにしていきたいです。気持ちをことばにすることで、そのときの状況や感情について振り返ったり、感情をコントロールできるようになるからです。子どもが自分の気持ちをことばにしたら大いにほめ、共感しながら肯定的に応じましょう。「そうか、お菓子の袋をお兄ちゃんが先に開けちゃったので悔しかったか、わかるよ」のようにです。

・ことばで今後の対策を伝える
保護者が説明することもよくわかるようになってくるので、次に同じことが起こったらどうするかをわかりやすく伝えましょう。「○○ちゃんも袋を開けたい、お兄ちゃんも開けたい、どうしたらいいかな。じゃあ順番にしよう。今日はお兄ちゃんが開けたから次は○○ちゃん。お兄ちゃんもそれでいいね?」などのようにです。

癇癪への対応で注意すること

◆怒らない、どならない、脅さない
癇癪は、子ども自身でもどうしたらいいかわからないことも多いのです。ですから、怒ったり、どなったり、脅しても意味はありません。むしろ状況が悪化したりします。怒る、どなる、脅す、はやめましょう。

◆癇癪でコントロールさせない
癇癪を起こしたときに子どもの要求を受け入れてしまうと、子どもが自分の気持ちをことばにする、保護者が理由を説明する、というやりとりがないので、ことばの力が育ちません。

また、ルールと反する行動を認めてしまうので、世の中のルールを学べません。そして子どもは、癇癪を自分の主張を通す手段として使うことを覚えます。

子どもの気持ちを理解しようとすることは、子どもの思いどおりにするということとは違います。「寝ない」と言う子どもに「寝たくないんだね」と応じることは、「寝なくていいよ」という意味ではありません。「少し待っているね」と猶予を与え、「遅いから寝ようね」と睡眠のルールを伝えることが大切なのです。

また、早く切り替えてほしいと思って、物を与える、買うなどをしてしまうと、物がほしくて癇癪を起こすようになります。子どもに癇癪でコントロールする癖をつけさせないように注意をしたいものです。

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