「孫に過干渉な義父母」を変える最善の方法とは?

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔03〕

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

医学博士・海原純子はOK・NGの役割分担を提案

いい季節じゃのう。とはいえ、どんな季節でも、お悩みは尽きない。今回取り上げるのは「義父母の過干渉が迷惑です」というお悩みである。相談者は結婚5年目の2児のママさん。近くに住んでいる夫の両親がしょっちゅう家にきて、食事から着せるものからオモチャなどなど、あれこれ口を出してくるとか。夫に相談しても「好きにさせておけばいいよ」と言うばかりで、まともに取り合ってくれない。「いつか爆発してしまいそうです」という悲痛な叫びを受けて、人生相談本の森に分け入ってみた。

夫婦どちらかの親が近くに住んでいたり同居したりすると、何かと“便利”ではある。とくに夫婦ともに仕事を持っている場合は、親のヘルプがあるとないとでは大違いじゃ。いっぽうで、度を越した世話の焼き方をしてきたり、違う価値観を押し付けてきたりして、悩みの種になることもある。「孫がカワイイ」という気持ちを暴走させる義父母も少なくない。

最初は、新聞に掲載された【子育てに介入する義父母。ストレスたまる30代主婦】という30代主婦からの相談。同居している義父母は「温厚で信頼のおける人柄」だが、昨年長男が生まれてから「日常のことから育児に関する細かなことまで介入」してきて、「深夜に長男が泣いていると、私たち夫婦の寝室まで入ってきたり、必要のない育児用品を買ってきては押しつけたり」するとか。医学博士で心療内科医の海原純子さんは、こう答える。

〈相手のいいところ、いやなところをきちんと冷静に見ることができるあなただからこそ、できる解決方法があります。(中略)義父母は、あなたが何をしてほしいのか分からないのでしょう。してほしくないことを断るより、してほしいことをたのみ、役割分担するのです。そうすれば、きっとしてほしくないことは少なくなると思います〉
(2004年~2008年頃に『読売新聞』の「人生案内」に掲載。 ※海原純子『家族のなかの弱者と強者』2008年、集英社より抜粋)

善意に基づいた行動というのは、じつはタチが悪い。迷惑だと言いづらいし、本人たちも遠慮なく介入をエスカレートさせてしまう。何をしてほしくて何をしてほしくないかは、言葉にしない限り伝わらない。希望を伝えるのは図々しい気がするかもしれんが、こっちのニーズを察してほしいと願うのも、それはそれで図々しい了見と言えるのではなかろうか。

作家・出久根達郎は口争いしてでも話し合うべき

お次も、同じく新聞に掲載された【第一子誕生 まとわりつく義母】という20代主婦からの相談。「(二世帯住宅で同居中の)義母は、初孫が生まれてから、勝手に私たちの部屋に来て、気のすむまで遊んでいきます」と訴える。義母を「尊敬しています」と言いつつ、「私は義母に監視されているようで、息苦しさを感じます」とも。作家の出久根達郎さんは「あなたは少々お疲れのようです」と切り出しつつ、こう答えておる。

〈あなたは、完璧なお嫁さんを演じすぎるのです。無意識に義母の立ち居ふるまいをまねているのです。あるいは義母のようでありたいと願い、つい、背伸びして働き、それでどっと疲れてしまうのです。話のわかる義母のようですから、何でもざっくばらんに相談したらいかがですか?(中略)むしろ、率直に言ってほしいと思っているのではないでしょうか。義母はあなたの他人行儀を水くさい、と取っているかもしれませんよ〉
(2006年11月9日に『読売新聞』の「人生案内」に掲載。 ※出久根達郎著『出久根達郎が答える366の悩み 人生案内』より抜粋)

出久根さんは腹を割って話し合うことを勧めつつ、最後は「時に口争いしてもいいじゃないですか。親子だもの」と締めている。意見が合わないこともあるだろうが、恐れる必要はまったくない。言いたいことを言わずに悶々と悩み続けるほうが、よっぽど苦しい状況だし、相手にとっても迷惑である。

作家・瀬戸内寂聴はイエローカード「離婚」を見せてでも夫を仲介に

続いては、携帯サイトに掲載された【孫を独占したがる義理の両親。】という20代主婦からの相談。夫の両親と同じ敷地で暮らしていて、とくに義母が3歳の長男を溺愛しているとか。義理の両親との付き合いが苦痛で、つい子どもたちに八つ当たりして自己嫌悪に陥るというから、なかなか事態は深刻じゃ。作家の瀬戸内寂聴さんの回答やいかに。

〈はっきり言いますが、今さらお姑さんの考え方を変えさせようと思っているのならば、それは無駄なことです。(中略)これはやはりあなたのご主人に訴えることですね。(いい顔をしようとするだろうが)最初からあなたが強気に出て「子どもの教育方針は私が決めるから、甘やかさないようにお義母さんにあなたから言ってください。ちゃんと伝えてくれなければ私は離婚します」と脅かすくらいの覚悟でないと効き目がないと思います〉
(2008年~2010年頃に携帯サイト「寂聴の人生相談室」に掲載。 ※瀬戸内寂聴著『寂聴辻説法』2010年、集英社インターナショナルより抜粋)

同時に寂聴さんは、お姑さんにもあなたに対して不満があるはずだと推察して、子どもが「愛する母親とお祖母ちゃんの双方から悪口ばかり聞かされている」状況になる(なっている?)ことを危惧している。もっともな危惧じゃ。だからこそ、多少の波風が立つのは覚悟して、夫を巻き込みつつルールを決めるべきだとアドバイスしている。

人生相談本には、義父母の立場からの「孫に会おうと連絡しないで訪ねたら、嫁に嫌な顔をされた。ケシカラン」といった相談もよくある。客観的に見ると「そりゃ当然でしょ」と思えるが、自分の行動は全力で正当化するのが人間の悲しいサガじゃ。孫に過剰に干渉してくる義父母も、たぶん自分たちの行動に問題があるとは夢にも思っていない。そして、言えなくて悩んでいる自分自身も、言えないことを全力で正当化しているのではなかろうか。

解決には「伝える」が必須で核は「どう言えば伝わるか」

<石原ジイジの結論>

たくさんの人生相談本を読んで、わかったことがある。それは「世の中の悩みの半分以上は『言いたいけど言えない』ことから生じている」ということじゃ。ということは、言うことができたら、世の中の悩みの半分以上は解消することになる。しかし、言えない理由を探していたり、相手の無神経を非難したりしているうちは、堂々巡りが続くだけじゃ。

「義父母の過干渉が迷惑」という悩みはよく見るが、自分の親の過干渉に悩んでいる相談は極めて少ない。たまにあるのは、親が「明らかに困った人」のケースじゃ。自分の親の場合は思ったことを言いやすいから、意見の衝突はあっても「深刻な悩み」にはならない。いっぽう義父母の場合は、相手が良識的な人であるほど悩みが深くなる傾向もある。
「義父母の過干渉が迷惑」という悩みについて、そんなこんなから見えてくるポイントは、次のふたつ。

その1「事態を変えたいなら、どうにかして言う方法を考えないことには先に進まない」

その2「言うことによって起きうる『最悪の事態』は、たぶん今の状況よりマシである」

義父母に「こうしてほしい」「こういうことは困る」と伝えるのは、本来は実子である夫の役目じゃ。しかし、夫に対しても「言いたいけど言えない」という悩みを抱えているケースもある。逆の立場で、妻の両親や妻に同じ悩みを抱えている夫もいるかもしれない。まずはパートナーに「どう言えば伝わるか」を考えて、実践してみよう。瀬戸内寂聴さんの回答にも「夫婦の絆を強めるいいきっかけにもなるはずです」という一文がある。

なかなか言えないのは、言うことによって「何かとてつもなく恐ろしいこと」が起きる気がしているからかもしれん。しかし、せいぜい一時的にケンカになる程度である。言うことで起きる「最悪の事態」を具体的に想像してみると、ほとんどの場合、今の苦しい状況よりもマシと思えるはずじゃ。出久根達郎さんの回答にもあるが、率直に言ってほしいと相手が思っている可能性は、けっこう高そうである。

人間関係には食い違いが付きものだが、相手の考え方や行動を変えることはできない。しかし、不満を溜め込んで爆発させて修復不可能な状況を招くか、言いたいことを小出しに伝えて事態の悪化を防ぐかは、自分が選択できる。どうにもできないことで悩むより、その分のエネルギーを使って、どうにかできる部分にどう手を付けるかを考えてみてはどうかな。

【石原ジイジ日記】
孫のF菜にいいところを見せようとして、ピーナッツをほうり上げて口で受けようと目論みました。若い頃からの得意技です。ところが、やってみたら身体がかたくて、う、上が向けない……。床にむなしく転がるピーナッツ。ジイジがなにをしたかったのか理解できていない様子だったのが、せめてもの救いです。
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いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか