「毒親になりたくない」なら… 子育て熱心な親が見失いがちな事実
人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔11〕「毒親になりたくない」
2022.01.08
コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎
パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。
500冊を超える人生相談本コレクターで、2歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。
今回は、「毒親になりたくない」というママ(3歳女児の母29歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?
毒親になることを心配する限り毒親にならない!?
「毒親」という言葉を作ったスーザン・フォワード(アメリカのセラピスト)は、この言葉を「子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親」と定義している。誕生したのは1989年だが、日本では2015年くらいから“メジャーな言葉”になった。
関連の書籍や記事でその厄介さが広く知られるにつれ、相談者のように「毒親になりたくない」と不安を覚える親も増えているようじゃ。どこに気を付ければいいのか、いろんな相談から探ってみよう。
「両親や姉に口答えしようものなら話もしてもらえず、私は自分の意見など持てないような環境で育ちました」と、両親に支配されて育った自覚がある29歳の主婦。1歳半の娘がいる彼女からの【自分とは違う育て方をしたいが】という相談。
「娘には思いやりがあり、自分の意見をきちんと言える子になってほしい」と思っているものの、そう接する自信がないという。
映画監督の大森一樹さんは、育ってきた環境のせいで自信が持てないとしたら、それは親にとっても子にとっても不幸なことだと言いつつ、こう答えている。
〈確かに子育てには自分の育ってきた環境、経験が生かされるべきではあると思いますが、それがすべてではないはずです。子どもには、あなたが思っている以上の自分があるものです。そして、思いも寄らない可能性、感情もあるかもしれません。(中略)
子育ての舞台では主役は子どもです。そこでは、あなたの親も姉も、舞台にはいない客席の人たちです。演出家であるあなたは、舞台だけをしっかり見ていてください〉
(初出:「読売新聞」連載「人生案内」より。引用:大森一樹著『あなたの人生案内』2001年、平凡社)
当時(2001年)はまだ「毒親」という言葉は一般的ではなかったが、まさに「毒親案件」である。親を批判しつつ影響を受けた自覚もあるだけに、「同じことをしてしまうのではないか」という不安も大きいじゃろう。
しかし、自覚があれば、大森さんが言うように親や姉を客席に追いやることはできる。毒親育ちではない場合も、「毒親になりたくない」と思っている人は、きっとならない。
その証拠に、人生相談の森を丹念に歩き回ってみたが、当人が「私は毒親になってしまいました」と悩んでいる相談とは、ひとつも出合えなかった。
そう、毒親に共通する特徴は「自分を毒親とは思っていないこと」である。セルフイメージは「子ども思いのいい親」であり、しかも「子どもを正しく導いている」という自負がある。
毒親要注意は子どもに理想を求め過ぎる親
60代女性からの【育て直したい、30代の息子。結婚せず「会社辞めたい」と言うが……】という相談は、まさにその典型である。
「息子は小さい頃からいい子で」と言いつつ、絵の道に進みたいという夢をつぶし、今息子さんは心の病で通院しているとか。
医学博士で心療内科医の海原純子さんは、毒親臭がプンプンする相談者を適当におだてつつ、こうアドバイスする。
〈子育てをもう一度やり直したいとおっしゃいますが、私が提案したいのは、子育てをもう終了しましょうということです。(中略)あなたは息子さんが失敗したり傷ついたりしないように気を配り、彼にはそれが負担で重荷になっていたかもしれない。
現在の不調は彼にとって初めての反抗期、自分らしく生きたいというサインのように見えます。(中略)息子さんの性格を変えようとするより、彼の良さを信じ、それを生かすよう応援してあげてください〉
(初出:『読売新聞』連載の「人生案内」より。引用:海原純子著『家族のなかの弱者と強者』2008年、集英社)
この相談者は、息子を「失敗作」と思っているようじゃ。そもそも親の理想通りに育てようという了見が大きく間違っているし、息子の苦しみを理解しようとせず、懲りずに「自分の言うとおりにすれば“矯正”できる」と考えている。そこに、毒親の底知れぬ恐ろしさを感じずにいられない。
海原さんのアドバイスは親身かつ説得力にあふれているが、回答を読んだ相談者が「そうじゃないのよ!」と逆上する姿が目に浮かぶようである。
元極妻の弁護士は復讐心から立ち直った
3つ目は、26歳の女性からの【幼いころから両親に兄と比較されてきました。最近、ようやく自分を好きになろうと――】という相談。
事あるごとに「バカだ」「遅い」と言われて育ったせいで、自分を「恥ずかしい人間なんだ」と信じ込むようになったとか。「今はとにかく(資格取得の)勉強を始めようと思います。家族への復讐を始めたいのです」と決意を固めている。
そんな相談者に、いじめによる自殺未遂や非行、さらに“極道の妻”も経験した弁護士の大平光代さんは、かつて相談を受けたケースにからめてやさしく語りかけます。
〈最初は、母親から娘の非行ということで相談を受けたのですが、話を聞くうちに、本当はその母親による虐待(兄が二人いて、会社人間の父親は末っ子の娘だけをかわいがり、母親が嫉妬して暴言を浴びせるなどした)が原因とわかりました。(中略)
当然、お母さんから変わってもらわなくてはと、私は説得しましたが、母親は「私は分け隔てなく育てたつもりです」と主張するだけでした。(中略)「復讐としての資格取得」もいいじゃないですか。私も、立ち直りの原動力となったのは復讐心であり、資格取得でした〉
(初出:光文社「女性自身」連載「だからあなたの声を聞かせて」より。引用:大平光代著『あなたはひとりじゃない』2001年、光文社)
身体的な虐待の場合も、親は「しつけのため」と言い張り、たぶん本気でそう思っている。精神的な虐待をしている親は、なおさら自分がやっていることの残酷さには気づかないし、たとえ指摘されても認めようとはしない。
もともと人間は自分を客観的に見ることや素直な反省は苦手だが、子育てにおいてはさらにその傾向が強まる。「毒親になりたくない」と心配することは、自分を毒親にしない最初の一歩と言えるじゃろう。